舞踏会~3 ユリウス視点
舞踏会の中央で、美しく着飾った貴族たちに囲まれていたユリウスは、魅惑的な様相でたたずんでいた。強い魔力を秘めた紫の瞳に、彫の深いエキゾチックな顔立ちをした魔王は、その場にいるだけで周囲の者を魅了した。
舞踏会の宴の途中だった。ふと、沙耶の魔力を感じた。それは甘く花のような芳香を放つ魔力だった。
―― 沙也は、きっと、この会場のどこかにいるはずだ。
長年、沙也の魔力を追ってきただけあって、どんなに微量な魔力でも、彼女が傍にいればすぐにわかるようになった。
高級なワインをグラスから、一口、口に含み、ユリウスは、貴族たちと退屈な会話をこなしながら、沙也の魔力から、彼女の居場所をつきとめた。舞踏会の会場の上のほうに小さな踊場があって、彼女は、今そこにいる。
きっと、またそっと影から眺めているのだろう。
いつも何かの影からこちらを眺めずにはいられないらしい。寄り添うように、いつも沙也が身近にいる。本人は、ばれているとは露ほども思ってもいないようだが。
沙也は臆病なくせに、好奇心だけは人一倍つよい小動物のようだ。ユリウスは、形のよい唇の端をそっとあげて、かすかに微笑んだ。
物陰からそっとこちらを伺うようにして見ている彼女は、野に咲く小さな花のようで、可憐で、とても愛らしい。思わず、そんな花に唇をよせて愛でたくなるのは、男としての本能だろう。
そっと上にいる所を見に行ってやろう。きっと驚くに違いない。
軽い悪戯心がわき、人目をしのんで踊場にあがった瞬間、予想もしなかった光景が目にはいったのだ。
沙也が、ラファエロに腕を取られて踊っていた。
―― それもとても楽しそうに。
沙也の口元には、楽しそうな微笑みが浮かんでいて、ラファエロも執務では見せたことのないような穏やかな表情で踊っていた。
二人はぴったりと体を寄せ合い、まるで恋人のような仕草で踊っていた。沙也の楽しそうな顔など、今まで、一度も見たことがなかったのだ。
腹の底から怒りが湧き上がった。
長年、自分が探し続けてやっと見つけた高位の「クロノスの門番」。
それを、自分の臣下であるラファエロが、あたかも自分の恋人かのように腕に抱き、踊っていたのだ。
―― この女を好きなようにしてよいのは、自分だけだ。
腹の底からそう思った。他の男どもには、絶対に触れさせぬ。
そこでふと気が付いた。沙也の甘い芳香のある魔力は、自分以外の魔族の男にも作用する。沙也に魅かれる男は自分だけではないはずだ。
沙也に一番接する機会が多いのは、ラファエロだ。
もし、ラファエロが沙也に惹かれたとしても、不思議ではない。
たとえ相手が誰であろうと、沙耶が自分以外の男と手を取りあって踊っているのは許せなかった。特に、自分の目の届かない場所で、人目を忍ぶように男と過ごしているのであれば、嫌でも秘密の情事のようなものを連想させる。それが腹立たしかった。
―― そんなことは絶対に許さない。
衝動的に沙也の腕をとり、舞踏会の中央に引きずり出した。やましく感じるような隠し事がなければ、堂々としておればよいのだ。
「他の者など恐れるに足らぬ。余のことだけを見ておればよい。」
怒りから、口をついて言葉が零れた。
踊りたければ、自分と踊ればいい。他の男と踊ることなど許さない。
この女が魔王の物であることを、限りなく明白に示す必要があった。ラファエロでなくても、宮廷にいる間に、沙耶に興味を示すものは後を絶たないだろう。
他の男どもが彼女に手を出せないようにしてしまうつもりだった。沙也は、もうすでに自分のものだと、知らしめてやるつもりだった。




