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舞踏会~1

その日、王宮は夏の舞踏会が催されていた。


宮殿は美しく飾り付けられ、夜には、蝋燭が何百本と飾られて、美しかった。


貴族の紳士・淑女が華やかに飾りたて、美しい出で立ちで、宮殿のホールに集まっていた。


「綺麗ね・・・」


沙也は、ホールの上にある小さな踊場から、憧れを湛えた瞳で、うっとりとした様子で、その様を眺めていた。膝を抱えて眺めている沙也の顔には、まだあどけないような若々しい表情が浮かんでいた。


その様子は、まるで中世の映画のようで、色とりどりのドレスを着た女性たちが、くるくると輪を描くようにして、踊っている。


沙也は、もちろん貴族ではないので、そこに席はない。引きこもり体質なので、逆に、舞踏会に出ろ、と、言われたら困るほうだ。綺麗なものは、部屋の隅から、じっと眺めているのが楽しいのだ。


それに・・・その華やかな場の中央にいるのは、必ずユリウス様だ。


舞踏会用の正装をして、いつもの端正な顔立ちが一層素敵に見える。そのユリウス様を囲む華やかな女性たちも大勢いた。


そんなユリウス様を、沙也は、眩しいような恥ずかしいような、そんな気持ちで眺めていた。やはり、美形は眺めるのが一番!うん、やっぱり、ユリウス様はカッコいいのだ!


そうやって越に入っていると、ふと背後に人の気配を感じた。


「こんな所で何をしているんです?」


そこには、ラファエロが立っていた。ラファエロも、舞踏会用の正装だった。クラバットに、黒いジャケット。胸元には、青い石が入ったブローチを付けて居た。


ブロンドの巻き毛に、青い瞳。長い睫。それでも、鼻筋はすっと通っていて、まるで王子様のように素敵な姿だった。


「ああ、ラファエロ様。みなさんが、踊っていらっしゃるのを眺めていたのです。綺麗ですね?」


沙也が、正直に言うと、ラファエロは、微笑みながら口を開いた。


「沙也様も、いらっしゃればよいのに。」


「いえ、私は貴族ではありませんし。」


「それでも、舞踏会に参加されたければ、魔王様は、喜んでご招待されたでしょう。」


「いいんです・・・あの・・私、人が沢山いる所が苦手で・・・」


そこで、新しい音楽に切り替わった。ワルツだった。


「沙也様、一曲、私と踊っていただけないでしょうか?」


ラファエロが、恭しく礼儀をし、沙也に優雅に手を差し出した。 人前で踊るような羞恥プレイは、絶対に嫌だったが、ここには、ラファエロと自分しかいない。何を戸惑うことがあろうか?


「それでは・・」


沙也もくすくす笑って、ラファエロの手をとった。先ほど、貴族の令嬢がもったいぶって男性からダンスの誘いを受ける所を散々見たのだ。面白かったので、その真似をした。


ラファエロが沙也の腰に軽く手を回した。沙也もラファエロの肩に手をかけた。


今まで、こんな風にラファエロの傍に近づいたことはなかった。傍で見ると、ラファエロの口元には、厳しい皴があることに気が付いた。青年としての若さは過ぎ去った顔。しかし、その分、口元の厳しい皴が語るように、成熟した大人の男性へと変わっていくのだ。


もう青年期をすぎ、そろそろ成熟した大人の時期へと差しかかっているようだ。いつもは、ラファエロの美しい顔に目を奪われていたが、口元をみれば、難しい判断を何度もしてきたような顔立ちだった。


(ユリウス様と一緒に、いろいろと国の難しい問題を抱えているのね。)


魔王様が一番、信頼し、傍に置いているのがラファエロだ。


ユリウスのような大柄な男性の傍に控えているラファエロは、普段は小さく見えたが、こうやって手をとると、沙也よりずっと背が高くて、胸板が厚い。ラファエロは、文官だが、騎士のような引きしまった体躯をしていた。


「騎士として、働いていた時があるのですよ。」


沙也の考えを読み取ったかのように、ラファエロが答えた。ラファエロの顔には、剣で切られた傷跡のようなものが見えた。近くで見なければ、わからなかっただろう。


「戦で、切りつけられたのです。幸い、軽症で済みましたが。」


今まで知らなかったラファエロの他の一面を見たような気がした。


「その時に大切な友人を何人も失いました。 私はまだ10代だったのです。」


寂しそうに言うラファエロの顔を見た。亡くした友人たちのことを考えているのだろう。


騎士として、戦場で剣を振るい、大切な友人を亡くした・・・そして、顔には、うっすらと剣の傷跡があって、難しい判断を沢山したかのように、口元に厳しい皴が刻み付けられている。


普段のにこやかで、丁寧な彼とは、違う側面を見たような気がした。


きっと、以前の王位継承権争いの時のことだろう。沙也は、そう思った。そういう暗黒の時代がこの国にあったのだ。今は、ユリウス様が厳しく目を光らせているから、平和なのだ。


ラファエロはいつも控えめで穏やかだった。こんな彼が戦場で、敵を恐れずに勇猛果敢に剣を振り回していた姿が、想像もつかなかった。



ラファエロの腕の中で踊る沙也に、ラファエロは優しくほほ笑んだ。


「沙也様、とてもお上手ですね。 驚きました。」


「ええ・・・踊りの先生に、猛特訓されましたから。出来の悪い子供みたいに。」


ラティファ王子の踊りのレッスンに付き合わされていたのだ。


ラファエロは、とても上手な踊り手のようだった。ラファエロのおかげで、流れるようなステップが踏める。ブサイクな(失礼!)踊りの先生と違って、ラファエロはとても素敵だった。


「ふふ・・・」


ラファエロと沙也は、顔を見合わせて笑った。にっこりとほほ笑んだラファエロの深い海のような青い瞳が美しかった。


(まるで、本当の王子様みたい・・・)


ユリウス様が、覇者のような王様であれば、ラファエロは、典型的な王子様のようだ。 初めてのダンスだったが、とても楽しかった。こんな気持ちになったのは、久しぶりだった。


沙也は、優雅に片方の手の指でドレスの裾すそをつまみ、ふんわりとしたドレスのスカートの裾に美しいラインを作りながら、 二人で、くるくると回ってステップを踏んだ。まるで、高貴な貴族のような仕草だった。


「随分と、こちらに慣れましたね。何も問題などはないですか?」


ラファエロが優しく微笑みかけて聞いた。


「ええ・・・みなさん、親切にしてくださいますし。」


いつも、顔を合わせているが、こんなに近くに彼を感じたことがなかった。


「魔力の調節はどうです? 上手く出来そうですか?」


「う・・・ん、それについては、まだ課題がありますね。」


ラファエロは、じっと沙也を見つめてから、口を開いた。


「沙也様・・・困ったことがあったら、いつでも、私にご相談ください。貴女のためなら、力になれることなら、何でもお手伝いさせていただきます。」


沙也は、友達が一人増えたような気がした。


「それで・・・故郷に戻ることがあるのですが、一緒に行きませんか?」


どうして、自分が生まれ育った故郷を、沙耶に見せたいと思うのだろう? 楽しく美しい思い出がつまったあの故郷を・・・。


ラファエロは、自分でも思いがけない提案が、口から突いて出たことに、自分でも驚いていた。


え? 郊外への旅行? 楽しそうだ。そう言えば、まだ城から一歩も外に出たことがないのだ。


「そうですね・・・仕事がひと段落ついたら・・」


そう話している時に、ラファエロが、急にダンスのステップを止めて、一点を見据えた。困ったように眉をひそめたような怪訝な顔をしていた。


沙也も、その方向へ目をやるとそこには、ユリウスが立っていた。

「ユリウス様? どうして、こんな所に?」


沙也は、ユリウスに駆け寄って、不思議そうに聞いた。主賓が、屋根裏に近い踊場にいてはダメでしょうに。


ユリウスは、じっと沙也を見つめたまま、一言も発さなかった。けれども、沙也を見る目付きは険しく、口元がきつく引き締まっていた。


何かユリウス様の怒りに触れるようなことをしたのだろうか?


沙也は、頭をひねった。さっぱり訳がわからなかった。

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