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仏像とタバスコと、カレー。

うん、間違えた私も悪いんですけれどもね。でもね、失敗を曝されることはですね、恥ずかしいじゃないですか、はい。

苦笑いしながらも必死に謝ってくる伊藤さんと、その隣で爆笑してる伊藤さんと同期の女性。

絶賛カオス状態だ。


「本当に申し訳ございませ・・・ぶふっ」

「伊藤さん」

「おおーっと!もうすぐ朝礼の時間ですねっ!」


そうわざとらしく言葉を吐いてから立ち去っていく伊藤さん、残ったのは私と伊藤さんの同期だろう女性だ。ついでに倉橋ちゃん。

ちょっと、伊藤さん。立ち去るのは構いませんがこの笑い上戸も連れて行ってくださいよ。

じと目でエリート上司様が座っているデスクを見てみると、菩薩顔で遠くを見つめている仏像・・・いや違う、伊藤さんが。

貴方の同期様がずっと笑っていますけど。過呼吸になるんじゃないかってくらい笑っていますけれど。

仏像やってる場合じゃねぇですよ。


「はー笑った、貴女面白いわね。久しぶりに爆笑したわ」

「初めて面白いなんて言われました、恐縮です」

「上司が部下に謝るなんて滅多にないわよ、しかも殆ど完璧なあいつはもっと無いわね」


親指で仏像を指しながら言う女性。

そうですね、私も上司に謝られたことなんて初めてです。

前世の上司クソ野郎は間違ったことをしても謝ってこない、そして不貞不貞しく私が悪いみたいな言い方してくるため余計苛つく。

そのせいで心がどのくらい抉られたか上司クソ野郎には分からないだろう。

あ、思い出したら腹立ってきた。伊藤さんのせいだ。


「あ、自己紹介がまだだったわね。赤崎奈々です、よろしくね坂上さん」

「宮本灯子です、よろしくお願いします。赤崎さん」


宮本を強調して、声もなく間違えないようにと赤崎さんに言う。

すると赤崎さんは察したように「ごめんね」と、今度は上品に笑いながら軽い謝罪をしてくれた。


赤崎奈々さん、一言でいうと、美女である。

黒髪が美しく映える白い肌に桜桃の実のような唇、ぱっちりと開かれた二重瞼の瞳は少し幼さを帯びていて、店のブランドであるスーツを着込めば強調される括れと足の長さに、豊満な胸。Dは、あるだろうか。

別に羨ましいなんてことはない。


「灯子ちゃん、そんなにじろじろ見ないで?お姉さん感じちゃう」

「うわぁ」

「ちょっと」


見た目は美女なのだが、性格が残念である。残念な美女、少数だろうが需要はあるだろう、がんばれ赤崎さん。

いや、待てよ?これは伊藤さんの彼女というパターンではないだろうか。

伊藤さんの器は広い、数日でも分かるくらいに広い。

そんな伊藤さんならば、一升瓶の中に入っている酒のような残念な美女でも受け止められるのではないだろうか。

美男美女カップル、女性にはたまらない単語である。


しかし、聞く勇気はない。

仮にも中身が40過ぎたババアぞ?我、ババアぞ?

そんな恋バナの様な恥ずかしい話題振れないんですよ。


「あの、赤崎さんは伊藤さんと、付き合っているんですか?」


横からそんな質問をしてきたのは、倉橋さん。

その顔は物凄く真剣だ。

わ、若いって、いいですな。


「あはは、そんな訳ないわよ。私、女の子が好きだもん」

「知りたくなかったです」

「そんなこと言わないで、灯子ちゃんなら大歓迎よ?」

「お断り申し上げます」


わきわきと目の前で動かされた手に鳥肌が立つ。

伊藤さん、本当にこの人回収してください。もう私には限界です。伊藤さん、伊藤さん?


エリート上司様のデスクに座っている仏像に、合掌というオプションが追加されていました。ふざけんな。


_______________


「伊藤さん、これをどうぞ」

「え、なんでタバスコ」

_______________


カタンと、エンターキーを押して、今日の仕事が終了。

うぅん、座りっぱなしというのも辛いなぁ。早く接客業がしたい。前屈みになっていた上半身を起こすと体が鳴った。

思わず溜息が出る。

えっと、これをコピーして伊藤さんに届けてから、スーパーに寄って買い物して、夕飯作って・・・。

今日の夕飯は何にしようか、今日は少し肌寒いから温かいものがいいな。

昨日の肉じゃががまだ残ってたような気がするから、それを使ってカレーを作るのも悪くない。


私がこれから行くスーパーは、新鮮、安い、美味しいの3コンボである。

そして、夕方頃には特売をやっていて、モンスター共がわんさかいたりする。そう、モンスターとは、おば様方である。

今日は卵の特売をやっているから、なんとか手に入れたい。

あのボディプレスの嵐から商品を勝ち取ったときの達成感と言ったらなんの。

勇者のようにレベルアップしますよ、凄い力が付きますよ。


緊張が走る中、私はおば様方と並ぶ。

まず小さな隙間を見つけて走り出す、そして商品が取れれば卵が割れないように高らかと上げ、普通は勝利を喜ぶのだが・・・。

そこで横取りする輩がいたりするので、レジに通すまでが勝負である。

開始の合図を出す店員を睨み付ける。

さて・・・。


出陣だ。


_______________


結果、取れませんでした。

いやですね、一回は取れたんですよ。でもね、強烈なボディプレスの嵐に耐えられなかったらしい子供達にあげてしまったんですよね。

聞いたところ、お兄さんに頼まれたんだとか。おいお兄さん。

そんなわけで敗因は、純粋な私の善意です。いいもん、カレーのルーは買えたもん。


さて、カレーを作る行程に入っていきたいと思います。

ここに肉じゃががあります、そしてそれにカレーのルーを加えて味を調えるだけ。

手抜きとか言わないでください、心が痛いです。


『昨日お伝え致しました、福永財閥の』

「っ!?」


テレビから聞こえてくる音声に驚き振り返る。またお前かアナウンサー。

少しカレーをかき混ぜる速度が速くなる。

べ、別に動揺なんてしていませんし。手際が少し良くなったなんてことないですよ本当です。

・・・そういえば福永さん辛口好きだったな。

いやいや、私はまろやかな方が好きだし、蜂蜜とか入れたりするからどちらかというと甘い方が好きなわけで。


カレーが中辛から、辛口にかわりました。

うん、福永さんは辛口が好きだったもんね。私辛口苦手なんだよ。どうしてこうなった。


灯子の呪いが恐ろしい人生でした。

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