図書館の君
ヤンデレ男シリーズ第一弾です。
誤字脱字は気づき次第直していきます。
つたない文章ですが、最後までお付き合いお願いします。
毎週土曜日、図書館に行くのが日課だった。読書は趣味だったし、何より
あそこの図書館はあまり人がいないせいか落ち着ける貴重な空間だった。
いつも通り窓際の席に席を取り、本を取りに行く。
前に読んでいたシリーズの書物を探しに行く。あまりメジャーなものではないらしく、
隅のほうに陳列されていた。中段に置かれている書物を手に取る。
そのとき本の隙間から何かが滑り落ちた。薄い青色の紙でできたそれは、よく文房具店で売っている便箋のようだった。落ちた便箋を手に取り席に戻り、いすに腰掛ける。
誰かが挟んだものだろうか。興味本位で中身を覗く。
『藤崎あおい様へ』
「え…」
書かれていた宛名に思わず声を出す。慌てて辺りを見渡すが人はいない。
そういえば、今日この近くの公園でイベントがあると聞いていた。ただでさえ人がいない図書館だ。余計に今日は人が少ない。
そんなことよりも、この手紙。なぜ、私の名前が書いてあるのだろう。
恐怖のあまり、手紙を捨てたくなる。だが、それよりも好奇心のほうが勝っていた。
手紙の続きを読む。
『この手紙を読んでいるということは、やはりあなたはこの本を手に取ったのでしょう。
あなたがこの図書館に通い始め、もう四年目になりますね。初めてこの図書館に来た時の中学生になったばかりのあなたの初々しい姿が、つい最近のようです。私はその時からあなたのことを見ていました。あなたが借りた本や読んだ本をすべて読みました。様々な
ジャンルがありましたがその一冊一冊があなたの思慮深さや知的な一面を表していて、そんなところに余計に私はひきつけられていきました。こんな手紙なんかではなく直接話がしたいです。明日、あなたが来るのが土曜日なら日曜日の昼にぜひ来てください』
すべてを読み終えたとき私の中を占めたのは、ずっと自信を見られていたという嫌悪感と恐怖。次に、ほんの少しの興味。私は荷物をまとめるとすぐに図書館を出た。
なんだかいてもたってもいられなかったのだ。あまり早く帰っても親に怪しまれる、近くを散歩してから帰宅した。
翌日、私は図書館の前に立っていた。行くか行かないか一晩悩んだ。危険かもしれないが
この際はっきりと話をしたほうが良い。私は一度深呼吸をし、覚悟を決めて図書館のドアを開いた。
人一人いない静かな空間。古い建物と本のにおいの混ざった独特のにおいも今日は違く感じる。
とりあえず、私はいつものように窓際の席に座り鞄から手紙を取り出すと再度読み始めた。
何度読んでも、私は手紙の差出人に皆目見当がつかなかった。
そもそも、このような手紙をもらうほど自分はさして魅力的でもない。
いったいどんな人物が…
物音に気付き、ハッと出入り口を見る。
そこには黒い図書館スタッフの制服を着た男性が立っていた。
スラリとした体格、黒い短髪。切れ長の目。私はこの人を知っている。
「七瀬…さん」
彼はここのスタッフだ。私が来るといつも笑顔であいさつをしてくれる。貸し出しの手続きの際に軽口を交わしたこともある。誰に対しても優しく笑顔で、女性からは人気があったはずだ。彼がこの手紙を出したのだろうか。なぜ私なんかを選んだのだろうか。
ぐるぐると頭の中で疑問が渦巻く。
固まっている私を見ると、嬉しそうな笑顔をし七瀬さんは近づいてきた。
私の目の前に来る彼。こうしてみると彼は背が高い、私が小柄なせいか身長差がずいぶんあるように見える。
「手紙見てくれたんだね。うれしいよ」
いつもの優しい口調で私に話しかけてくる。
「七瀬さんだったんですか?この手紙」
つっかかりながら私が聞くと、少し悲しそうな顔をする。
「本当は直接渡したかったんだけど…こんな方法でごめんね。でも、」
目を細め七瀬さんは手を伸ばし、私の毛先を触りだす。突然の行動に私は抵抗ができず、ただされるがままになっていた。
「どうしてもあおいちゃんと話したかったんだ」
「ど…どうして」
なんとか声を絞り出し尋ねる。七瀬さんはその言葉に、髪をなでていた手をいったん止め、
そのまま私の頬へと移動させた。優しく触るか触らないかの力加減で頬を撫でる。
「あおいちゃんは…とても素敵だよ。綺麗な黒髪、肌も陶器のように白くてまるで人形のようだ」
粘着質な目で私を見ながら話す彼を私はただ見つめていた。
この人は何を言っているんだろう。何を考えているんだろう。
「初めて来たときのこと、覚えているよ。お母さんと妹と一緒だったね。その時のあおいちゃんを見たとき思ったんだ。こんな天使みたいなこ本当にいるんだって。もっとあおいちゃんのこと知りたくて、あおいちゃんの借りた本や読んだ本、全部読んだし。いろいろと調べもした」
「……!やめてください!」
そこまで言うと、開いていた左手を私の腰に回してきたため思わず私は大声をあげる。
しかし、意に介さずに彼は私を自分のほうへと引き寄せる。私は強い力で抱きしめられ一瞬息ができなくなる。
「知れば知るほど、あおいちゃんの事を好きになるんだ」
頭上から熱に浮かされたような彼の声が聞こえた。密着しているせいで、私には七瀬さんの胸元しか見えないが、声の調子で背筋が凍るような気分になる。
なんとか七瀬さんの腕から抜け出そうともがくが、がっしりと掴まれているせいでうまくいかない。
「た…助けてください!だれか!」
「無駄だよあおいちゃん」
ならばと大声で助けを求めると、相変わらず優しい、だがどこか熱っぽい声で七瀬さんが言う。
「今日、本当は休館日なんだよ。ぼくが残った仕事したいって鍵を借りておいたんだ。だから誰もいないよ。これからもあおいちゃんが使いたいときは言ってね」
「ど、どうしてそこまでするんですか!どうしてそんなに…!」
あまりのことで涙が出てきそうになる。なぜこの人はここまでするのか、まったくわからなかった。
「決まってるじゃないか」
腕の力が緩み、ようやく七瀬さんの顔を見ることができた。口元に笑みを浮かべながら私を見下ろしている。
「愛しているからに決まっているかじゃないか…あおい」
これから、もっとお互いのことを知ろうね。
そうささやく七瀬さんを見て私はもう逃げられないのだと思った。
最後までありがとうございました。