城南小学校探偵団
城南小学校六年三組、放課後の人のいなくなった教室で浩之は明に熱弁を振るっていた。
「事件だ、事件が俺たち探偵団を待っている!」
明は眼鏡の位置を右手の中指でなおしながら訊ねる。
「どんな?」
「それはもう大事件だ!」
浩之は身振り手振りを交えながらしゃべり続ける。明は落ち着いた様子で聞き返す。
「ところで探偵団って何?」
「俺たち二人」
「聞いてないよ」
「今考えた」
浩之は胸を張って言い放つと、それから廊下の方を指差した。
「パトロールだ!」
そう言うと、浩之は力強い足取りで教室から出て行った。
「パトロールは探偵と関係ないんじゃないかなあ」
明はそう呟きながら浩之の後を追う。
二人はまず中庭から見ていくことにした。中庭には池があって、そこには校長お気に入りの錦鯉が泳いでいる。
「うおっ、あれを見ろ!」
浩之が指をさした先にある池に何かが浮かんでいた。浩之は走りながら、明はあわてずに歩きながら池に近寄った。池には大きな錦鯉がおなかを上にして浮かんでいる。
「事件だ……こいつは大事件だ!」
浩之は明のほうを向くと興奮した顔で言った。
「死体の確保だ! 死因を調べるぞ!」
「寿命じゃない?」
池に駆け寄った浩之は石を鯉の向こう側に投げた。石が水面にぶつかった時の勢いで鯉をこちらに引き寄せようとしたのだ。
一回目は鯉に命中、二回目は鯉に命中、三回目で鯉の向こう側に着水。しかし水面の鯉はゆらゆらとゆれるだけで、こちらに寄ってこようとはしなかった。
「くそっ、もっと大きな石じゃないと駄目か」
そう言うと浩之は池の周りを見回した。池の向こう側、鯉の近くに自分の頭二つ分ほどの大きさがある石を見つけた。浩之はさっそく近寄って持ち上げようとしたが、あまりの重さにびくともしない。
「うりぁー!」
叫ぶと同時にわずかに石と地面の間に隙間ができた。浩之は顔を真っ赤にしながら、さらに全身の力を振り絞る。ようやく浩之の腰のあたりまで持ち上げられた石を、最後の力を振り絞って池に放り投げる。石は大きな水しぶきをあげて水面に命中した。
「はあ、はあ、どうだ!」
「何してんの?」
明は長い棒を使って鯉を自分の近くに引き寄せている。浩之は急いで駆け寄り、鯉をつかんで持ち上げた。
「司法解剖だ!」
「どうやって?」
浩之は鯉をつかんだまま考え込んだ。
「そうだ! 家庭科室なら包丁があるはずだ!」
「理科室の方がいいんじゃないかなあ」
既に浩之は鯉を持ったまま校舎に向かって走っていた。明はその後をのんびりと歩いていった。
明が家庭科室につくと、すでにドアは開いている。中をのぞくと浩之が包丁を持ってまな板の上の鯉をにらんでいた。
浩之は明に気付くと困ったような顔をした。
「解剖ってどうやるんだ?」
「僕も知らない」
浩之は鯉を前にしばらく考えた後、何かを決心したような顔で言った。
「よし、迷宮入り! 帰ろうぜ!」
「そうだね」
二人はいろいろとそのままにして帰宅した。
その後、この学校では「家庭科室のまな板の鯉」という怪談が生まれ語り継がれることとなる。




