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2、笑わない俺は、俺を語る。

=2=

笑わない俺は、俺を語る。




 満開の桜の木が見える、暖かい太陽の光が入る場所で、俺達は座って昼飯を食べ始めた。いつも俺達は昼食を共にする。

 本当は最初に藤代が、伍堂と仁科に「二人で食べれば~?」と言ったのだが、どうも二人きりになるのはまだ恥ずかしいらしい。よって今日もいつもと変わらず、四人で昼を取る事となった。


「はい、今日のおやつ」


 そう言って仁科が俺達に渡したのは


「うぉ、今日はドーナツ!? うまそ~! オレデカいのゲッチュー!」


「さっすが、ヤヨ! これ焼きドーナツじゃ~ん! いただきまぁす!」


 仁科は趣味でよくお菓子作りをする。そしてこうやって俺達にそのお菓子を振る舞ってくれる。たまに失敗して形が崩れてしまう事もあるがそれでも味はどれも良い。


 皆各自弁当を取り出し、箸を取る。

 だが俺だけは弁当ではなく。


「にゃあ、戰椰ってばまたそれだけ!? 相変わらずの少食だねぇ」


 そう、俺の昼はいつもパックのコーヒー牛乳……それ一本だけ。かなりの少食なのだ。


「けどこれだけで腹一杯になるぞ」


「男の子は成長期なんだから、もっと食べなって~! ていうか食べないからそんなガリガリなんだよっ! 体育ダメなんだよっ!」


 ……返す言葉も無い。


 そういえば。

 こいつらに関しては先程説明したが、俺についての話をまだしていなかったか。

 とりあえず話の合間合間に自身の解説をしていこう。


 まず体育の話だが……俺の学校の成績は五段階評定が付けられる。

 そして俺の成績は『五』が一番多く、『四』は二、三個。その成績の中で一番足を引っ張るのが……体育。

 体育の成績だけは毎回『二』がついてしまうのだ。そんな成績、採りたくて採っている訳じゃない。だが俺は自分でも呆れる程体力が無く、毎回実技テストで学年最下位を叩き出していたりする。運動音痴……というよりかは単に体力が無さ過ぎるだけ。

 授業は真面目に受けているのだが、それだけで体育の成績は上がるモノではない訳で。しかも実技教科となると提出しなくてはならないノートなども存在しない。

 故に体力が無い限り、成績は上がらないので俺は仕方無い事なのだと諦めている。


「何でそんな体力無いのか不思議だよ! けど何気に戰椰って体育で走った後とか疲れた顔見せないよなぁ。本気でやってんのか!?」


「真面目にやってはいるが、疲れを感じたら走るのすぐやめてる」


 因みに伍堂は俺と真逆で、体育だけは学年トップ。バスケ部に所属をしている為なのか(部長なのに練習に殆ど参加していない)体力は馬鹿みたいにあるのだ。運動なら何でも出来る、体力馬鹿。その名の通り、体力は馬鹿みたいにある。その名の通り、勉強は全く駄目な馬鹿。両方の意味の体力馬鹿だ。

 体育の成績だけに関しては伍堂が羨ましくなる……体育の成績だけは。


 俺はコーヒー牛乳をストローで飲みながら、仁科特製ドーナツを頂く。


「……美味い」


 誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。

 桜風味のドーナツ。桜の香りが漂い、気分を安らげてくれる。


 あぁ、そう。俺が少食なのはお分かりだろうが、俺はかなりの甘党でもある。砂糖や煉乳の生食いは、コーヒー並に好きだ。


「……ヒュー。また起きたみたいだな!」


 スマホ画面を見、口笛を吹いてからそう呟いた伍堂。


「んにゃ? 何が起きたの?」


「最近事件になってるだろ、連続殺人事件。アレの被害者がまた出たらしいぜ。次は会社員の男性だってさ」


「確か『切り裂きジャック』だっけ? 学校から、そんなに遠くない所で起きてるよね……」


「……へぇ」


「ふぇ!? もしや戰椰知らないのっ!?」


 ここらで再び解説。

 俺はニュースを見ない。

 老輩には『これだから今の若者は』とかよく言われるが……言い訳しよう。今の若者はニュースに疎い。仕方ないだろ? ならこの世に生きる全員が興味を示すような大事件をあんたが起こしてくれ。それをニュースで流してくれ。

 ……とか無口な癖に心の中ではベラベラ喋る俺。

 まぁ俺は今時の世間ニュースを知ったのが奇跡と言えるくらい、興味を抱くという行為をした事が無い。


「さぁ、無関心主義の戰椰クン、自分で調べてみよーっ!」


 俺にハイタッチを求める藤代。


「気が向いたらな」


 俺は藤代の言葉とハイタッチを一刀両断。まるで頭に岩でも落ちてきたかのように藤代ががっくりと頭を下に、肩を落とす。


 興味が無い物に興味を抱けなんて言われても大抵無理だ。衣食に関して学びたい人間に医学について学ぶよう言っているようなモノ……つまり無意味。


「近場で起きてるし、知っておいて損は無いよ」


「俺みたいな奴は襲われないだろ」


「自分は大丈夫~って言ってる人ほど危ないよぉ? か弱いあたしなんて……常にドキドキしながら毎日登校して……」


「いやいや! スイのどこが、か弱いんだよ!? 逆におまえの方が切り裂きジャックをぶん殴っちゃいそう!」


「うにゃ!? ヒドい! うぅ~……これでもくらえ! 必殺、水季ちゃんアタ~ック!!」


「いっ!? ご、ごめ……痛い、痛いって! てかアタックって、殴ってるだけじゃん!!」


「うるさ~い! このこの~! ヤヨぉ! 彼女らしく、なんか言ってやってよ!」


 藤代が伍堂の頭を拳で何度も殴る。朝伍堂が俺にやったように力一杯殴る……が、その威力は桁違い。藤代は小柄な割にかなり力があるのだ。伍堂の言う通り、襲われても何の問題なさそうだな……まぁ口にはしないが。

 そして仁科はその様子をクスクスと笑って見ているだけだ。俺は笑いもせず、哀れだ、とコーヒー牛乳を飲みながら思う。


 ―――皆。

 楽しそうに笑う。


 酷い言われようをされた藤代水季でさえ。

 殴られている伍堂珠貴でさえ。

 ただ見ているだけの仁科弥生でさえ。


 この戯れに笑う。


 なのに……俺は笑わない。


 一緒にいるはずなのに、置いて行かれてしまっているような。

 一緒にいるはずなのに、俺のいる場所だけが皆と違うような。


 そんな感覚を味わいながらも俺は笑おうとしない。


 ―――いや、笑わないのではなく。


 ――――笑えないのだ。


切り裂きジャックだって。

物騒だね。

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