閑話 「そのころのよろず屋」
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ところ変わってこちらはクファン。シンジ不在のよろづ屋では着々と干物関係の販売が伸びていた。大海嘯が終わったとはいえ、街道はまだまだモンスターが暴れ、冒険者達の護衛の仕事はひっきりなし。資材も偏りがあるため、行商人も財を求めて渡り歩いているからである。
「そろそろ休みのひとつもほしいところね。シンジは特に言ってなかったし、多分大丈夫よね」
お留守番筆頭のミカエラが独り言を漏らす。大海嘯の最中はクファン防衛のために、あふれ出した魔物を徹夜で殲滅するなど、孤軍奮闘頑張っていたのだ。疲れがたまってきていた。
「えっと? ミカエラさん、どうしたんですか?」
ひとりごちるミカエラに声を掛けたのは最年少、狐人のミルファだ。
「あらミルファ。 いやね、最近働きすぎだから休みをつくろうかな、なんてね。キリがいいところでお店をお休みにして遊びに行きたいの。」
「お休みも良いけど、お客さんは大丈夫かなぁ?」
話し声に反応し、奥のストックから顔を出して会話に参加したのはミルファのすぐ上の実姉、アカネ。最近は常連客がかなりの数定着し、毎日遅くまで品出しに製造にと忙しい。
「まぁ、うちだけが食料品のお店じゃないんだし、長期休養でもなければ大丈夫でしょ。さて、そう決めたら早速休み予定の張り紙を作って張り出さないとね」
どうしても休みたいらしいミカエラはよろづ屋を預かるお留守番番長としてお休みを決定してしまったのだった。
「了解です・・・休養はどこに行くんですか? 大海嘯の影響で、あちこち観光地候補のオアシスも荒れているということですから、そういうところは危ない場所も多いと思うんですけど。」
ミルファの心配は尤もだ。クファンの周辺はミカエラ達の活躍で被害が少なかったものの、少し離れるとオアシスの水瓶が破壊されたまま放置されているなど、戦争の傷跡はまだまだ生々しい。
「オリビアにお願いして龍の街観光なんかどうかなと。温泉もあって疲れを癒せるし」
気軽にとんでもないことを提案するミカエラ。確かにツテとしては問題ないが、問題なのはその場所のほうである。
「りゅ、龍の街・・・そんなにホイホイ入れる所なんですか?」
瞬間、呆然となりながらもミルファがミカエラに問いただす。ミルファなどはおとぎ話に聞かされた、遠くて絶対に身近になることはない場所と思い込んでいるのだから仕方がないだろう。大変だった龍ノミ退治からこっち、よろづ屋で龍の街が話題になったこともない。
「ミカエラ・・・一応、あそこに入るのには試練が必要なのよ。シンジ様に着いて行っている3人ならまだ特別許可が出ているけど、この子達までは厳しいんじゃないかしら」
ミルファは半ば呆然とした表情のまま二階から降りてきたオリビアの困り顔を見上げている。オリビアとしてはミカエラの無茶振りも実現できなくはないが、レベルの問題もあり、すんなりとは賛成できないようだ。
「龍の街の外郭でかまわないのよ。城門の中に足を踏み入れる必要はないんだし。温泉宿も外側に結構あったはずよ」
二人の様子からしぶしぶ二の手を繰り出すミカエラ。以前---100年単位での過去、クエストで龍の街に行って、入城承認前に宿泊した宿のことをおぼろげながらに覚えていたのだ。そしてその宿はなかなか大きくて、そして快適だった、とおぼろげな記憶がミカエラに告げていた。
「後でシルに連絡をしてみるわ。外郭の宿であれば基本的に自由に日程は組めると思うけれど」
龍城の外なら問題はない。宿自体も今では龍の試練を受ける者が少ないため空いているのも把握している。大体の算段がついたオリビアはため息をつきながらそう約束した。
「了解。じゃあ・・・・お休みは1週間後、通常のお休みの前後に1日ずつくっつけて4日連続でお休みにしちゃいましょう。」
どうやらぷち旅行会が決定したようだ。ミカエラの決定にオリビアも賛同する。
「用意は前日までに終わらせて、移動は転移陣で一瞬ね。お父様にお土産を持っていかなくては・・・」
オリビアが里帰りの土産を考えていると、アカネが不思議そうにオリビアに質問してきた。
「温泉・・・ってなあに?」
「あっ、アカネ達は知りませんか・・・よろづ屋のお風呂をもっと大きくしたようなもので、美容にも良い成分を含んだお湯がお風呂を満たしているんですよ。そのお湯は天然で地下から沸いてくるんです」
「お風呂! あったかくて気持ちいいよね~。さらに美容にも良い・・・うん、楽しみになってきた!」
アカネもどうやら乗り気になったようだ。
「アカネはお風呂大好きだからねぇ・・・のぼせないように気をつけるのよ」
「うん! 早速、桶とタオルもってくるね!」
お風呂大好きのアカネがお風呂セットを取りに2階へと駆け上がっていく。
「あっ、アカネ、それは気が早すぎるから!!」
気が早すぎるアカネをミルファが呼び止めているところでチャロが戻ってきた。今日の仕事も無事終わったようである。
「ただいま~っと、お? 何? お風呂ができてるの? 気が利くなぁ!」
ちなみにチャロもお風呂が大好きである。元々水浴びが好きだったところへお風呂の快適さを経験してしまったものだから、一気にお風呂の魅力に陥落したのである。さらに今まさに仕事帰り。そこに来て風呂の準備が出来ている風情とあれば・・・ひとっぷろ浴びないでいられるだろうか。いやいられない。
「よ~し! チャロもアカネと一緒にひとっぷろだ!」
どどど。”替えの着替えなんてお構いなし。バスタオルさえ引っ掛ければ大丈夫!!”女性ばかりのよろづ屋のためか、どこかの女子寮のようなノリもあるようだ。
「ちょっとまってって。当番は私だけど、まだ沸かしてないよ! アカネが暴走してるだけだって! チャロ! 廊下を走らないの!! 着替えもちゃんと持っていきなさいっ! ・・・いっちゃった。」
「まぁまぁ。諦めてお風呂の準備をしましょう。私も手伝いますよ。普通に沸かしたのではチャロとアカネが風邪を引いちゃいますからね」
「う~。オリビアさんありがとう~」
今回だけは特別対応。オリビアがうまいこと魔法でお湯を生み出して風呂桶に張っていく。暴走二人組みは既に素っ裸であったため、ミルファが着替えを部屋から取ってきてあげていた。
すぐに風呂の準備が終わり、オリビアとミルファがリビングへと戻るとアカネとチャロは二人で一緒に入るには若干せまい湯船にぎゅう詰めで入っていた。
「温泉って大きいんだって! それと良い薬もはいってるとか!」
「薬って、このあいだやった”ショウブ湯”みたいなあれ? いかにも戦えば勝ちそうな効果がもらえそうな名前だったけど、直後のポーカーでは大負けしたし、いまいち効果は期待できないかも・・・」
「それはチャロが考え無しなだけか、絶望的にポーカーが下手なだけだよ~。ミルファにも負けちゃうんだし」
「いやいや。ミルファって見た目より頭がいいんじゃないか? 姉貴だってその後の勝負でミルファに負けてたぞ?」
「「末恐ろしい子・・・」」
そんなチャロとアカネの噂話に、ミルファが「へっくち」というかわいいくしゃみをしていたとか。
・・・
・・・・・・
「おお、みろよこれ。よろづ屋が火の月2週の終わりから4日ばかりお休みに入るってさ」
「おう、食材はいつもより多めに仕入れないとメニューが減るな。よし。今のうちに買い込もう」
「だな。しかし、皆が買い込みそうだし、売り出す量がもうちょっと増えてくれると嬉しいんだが・・・なかなかそうもいかないか」
「まぁ、アムフルスから干物が入り始めたから、そっちで代用も出来るし、よろづ屋だのみだけにしなくてもいいだろう」
「干物もいいんだが・・・おれっちは燻製が好きなんだ。よし、今日はがっつり稼いで明日買占めに走るしかないな」
「がんばれ・・・」
今日もクファンは平和なようだ。
次回も閑話の続きの予定です。




