第37話 「やってきた大海嘯 その9」
久しぶりに投稿させていただきます。
大海嘯完結編です。
ではどうぞ。
馬車の転移陣に一気に戻ってきたシンジはすぐに協会長に会見し、司令官レビの意志を伝えるために動き出した。この事件に終止符を打つためである。
しかし、双方それぞれに打撃を受けている以上、ただ上層部の紹介をするだけでは双方の陣営の矛の収め先がない。なんとか落し所を作る---それには協会長とレビの協力が不可欠であった。
黒い都市の民のほうはレビの采配でなんとかできそうであったので、あとは協会長の懐柔が急務となる。シンジはいつもどおり冒険協会の扉をくぐると受付に立っている受付嬢に声を掛けた。
「アラベスクの金の風、シンジです。協会長はいらっしゃいますか?」
「はい。・・・シンジ様ですか。ギルドマスターから承っております。こちらにどうぞ。」
ギルドカードで身元確認をした受付嬢は協会長の自室へシンジを案内していった。
「ギルドマスター、シンジ様がお越しです。お通ししてよろしいでしょうか」
「おお、来たか。入って貰ってくれ」
殺風景な書斎。協会長の自室はそんな風景の静かな空間であった。
「まあ座ってくれ。世間話を聴こうじゃないか。」
協会長はシンジに話を促し、そのまま目線を案内した受付嬢に向ける。
「ああ、君、お茶はお持ちしなくても大丈夫だ。私のほうで準備する」
「かしこまりました。では、暫くは来客中ということで他の面会はお断り申し上げるように致します。ごゆっくりどうぞ。」
なにかの符丁であろうその言葉に、受付嬢は深くお辞儀をして退出した。
「さて。何が起きたかな?」
協会長は(ガルシア)はシンジの目を見て、今回の件の解決の糸口を見つけたのだろうと確信していた。任務に失敗した者と成功した者の顔つきは見ればわかる。ただ、シンジの顔つきからすると、完全に成功した、というわけではなく何らかの糸口を見つけたか、方向性が見つかったのだろうと推測したのだ。
「ええ、いくつか興味深いことが。まず一つ目。これ以上の大海嘯はなさそう、ということ。先方の戦力はまだ温存されていますが、今回の引き金になった暴走因子が先日の戦いですべて命を落とすか冒険協会で捕虜になっている確証がとれたためです。」
「ふむ。。。うまく向こうと接触が出来たうえに、こちらとほぼ同じ想いを持った人間がそれなりの上層部にいて、不安因子がほぼ排除されていたということだな。・・・と、いうことはあとは矛先をどう納めるか、ということになるか?」
「察しがお早くて助かります。先方ももはや攻め入る姿勢はなく、かといって帰る手段も無い為、なんとかあの場所を確保しつつ関係修復をしていきたいそうです。」
なんとも都合の良い話に顔をしかめる協会長。気持ちはわかるがお互いの”面子”というものがどうしても障害として立ちはだかってしまう。シンジも懸念していた事だ。
「そうか。しかし、突然にあちらから攻め立ててきた今回の戦。すんなり和解の道にたどり着けるとも思えないな。事実、こちらだって多くの命が失われ、あちらも同様に多くの命が失われているだろう。生き残る術として必要なことだったとしても、こちらとしても「はいそうですか」と簡単に受け入れるわけにも行かない。」
「先方も同じことを気にしていました。事実上の戦争推進者はもういないのに振り上げた拳の下ろし先がないと」
「ふむ。で、君が私に相談してきたということはなにか作戦があるということだろうが、私になにをやってもらいたいんだね?」
「もし・・・ですが。彼らが一夜のうちに消えうせてしまったら、今回の事態、展開はどうなりますか?」
「消えうせて・・・。そうだな、反撃のしようもないし、脅威もなくなるのだから”災害が通り過ぎた”、ということで認識されるだろうな」
「もうひとつ。先程の”災害が通り過ぎた”という認識を持っていただくことが前提ですが、今度は時間をかけて彼らが平和的に接触をやり直したいと、申し込んできたらどうしますか?」
「窓口は私が、ということか?」
「そうなりますね」
「・・・。相手にはいろいろ努力をしてもらった上でかなり時間が必要になるだろうが・・・やり直しが出来なくはないだろうな。素性を隠した上で・・・そうだな、協会員ということで指導者連中にこちらの常識・情勢を知ってもらって、回りを刺激しないように徐々に定着していく形はどうだろうか。ただ、あちらもそれなりの人数を養うとすれば砂漠の開拓をして自給自足が必要にはなるだろうが・・・」
「なるほど。では、我が師の最後の遺産を使って、まずは”災害に通り過ぎ”て貰いましょうか。」
「・・・」
「ちょっとした結界を展開して、あの黒い街が無くなったように見せるだけです。砂漠に砂嵐が舞うのも普段のことでしょう?」
「結界・・・設置魔法・・・か? しかし、それをするには長い儀式と魔方陣の構築が必要と聞いたが・・・」
「我が師の残した魔道具に”嵐の結界”というものがありましてね。町ひとつくらいを嵐で囲って簡易な城壁にする魔道具と聞いております。ただ、欠陥品らしくてですね。一度発動してしまったら魔道具の魔力が枯渇する以外での停める方法がわからない上に、砂嵐の被害は万人に等しく作用するそうで。下手に発動させると内部の人間も外に出られなくなって、単なる自爆な牢獄発生装置になってしまうな、と師匠がぼやいておりました。ゴミなのでお前にやる、とも。でも、今回はこれがぴったり役に立つと、そう思いませんか? ダメ押しに砂嵐の起きた直後に中で爆発でも起こせば、周りの人々もあの黒い集団は壊滅したと思うでしょう」
「お互い勝手に行き来が出来ない壁を作った上で、か。そもそもあの地は砂漠。砂漠の真ん中だけ切り取られて行き来が出来なくなっても、何も気にする必要はな。しかし、今後、お互いの友好を深めるために本当の意味で行き来する手段はどうするのだ?」
「簡易転移陣がありますから、それをこの事務所と先方の重要施設、それぞれにひとつずつ設置して出入りを監督すれば良いんじゃないかと思います」
「ふむ。そうすれば管理も抑止もしやすいな。よし。その作戦で行ってみよう。正直このままにらみ合いが続くだけでも商業組合や一般人たちに迷惑がかかり続ける。物流も滞るし被害は拡大の一途だ。早急に収束させなければ」
「では、協会長にちょっとご足労頂きたく。先方と直接会話していただいて、細かいところを詰めてしまいましょう。あらかじめ転移石をお渡しして置きます。万が一、危ないと思ったときはこれを使って下さい。転移先はこの書斎にしておきますので、ここまで一瞬に逃れられます。1回限りの使い捨てですからお気をつけて」
「判った。こちらの準備はそうだな、協会で保管している白紙の魔法の契約書があるからこれを持っていこう。履行しなければ呪いがかかる類のものだ。主に頭痛などが地味に消えずに残り続ける、という効果だけだがな」
「そうですね。お互いにそうした縛りがあったほうが安心できるでしょう」
<ピピピッ、ピピピッ>
協会長が準備を終わらせた頃、シンジの腰にぶら下がったアラームが鳴動した。レビから準備が出来た、という連絡だ。
「相手方も準備が整ったようですね。では参りましょう」
「ああ」
そして、協会長とシンジ、二人の姿は転移によってその場からかき消えて行ったのだった。
・・・
・・・・・・
転移の副作用、軽いめまいが解消され、協会長が目を開けるとそこは黒い都市の中心部、黒の塔の入り口だった。黒の塔は人払いがしてあるらしく、人々のざわめきはない。ただ3名の男が佇んでいるだけだった。
「これはなんとも技術力が高そうな建物だな。材質も石だろうとしかわからん・・・」
協会長が思わず呟いていると、男達から声がかかる。
「ようこそ、地の国へ。使者殿を歓迎する」
塔の入り口に立っていた3人のうちの一人は司令官のレビだった。約束どおり幹部だけを集めて待っていたようだ。
「こんにちわ、レビ様。こちらが私の所属する冒険協会の協会長です。現時点で他の組織との接触は不利になると判断したので、私と二人で参りました」
「ガルシア=フォターレと申す。冒険協会の協会長を務めております。冒険協会は地上のどこにでも支店を持つ”何でも屋”の集まりです。ロッジと呼ばれる支部と各国にある協会本部が集まって組織されています。国に縛られず、一番顔の広い組織と自負しております。」
「これはご丁寧に。レビと申します。さ、席を用意しているので部屋に入ってお掛け下さい。」
シンジと協会長は落ち着いた風情の部屋に通された。円卓に3つの椅子。ここが会談の場になるようだ。
「では、改めて自己紹介を。私は地下帝国カナンの地上進出軍北面軍指令を任されているレビ=アル=タインという者です。こちらが軍参謀のバディ、そしてこちらが文官長のアスター。今はこの3名の合議で軍を運用しています。早速、今後のことをご相談させて下さい」
こうして遠い昔に二つに分かれた人類の新たな道への模索が始まったのだった。この会議で地上・地下の両代表が、シンジの提案した、「暫く距離を置き、徐々に慣れて交流を持ち、大きな衝突を避けること」という案に合意し、早速その作業に入ることになった。
「衝突を避ける意味でのお互いの境界を作ることは承知しました。現状一触即発になりかねないところを考えるとそれしかないでしょう。しかし、生活をしていく上での水源や食料などはどうしましょう? 水の魔道具にも限界が来ると思われます」
「それでしたら井戸を後で掘りますよ。幸いこの地は傍にアルム川という水源があります。地下水も豊富に流れていますから、水の確保は大丈夫でしょう。それと、町の中心あたりに畑を切り開いて良ければそこで植物の栽培が出来ると思います。砂嵐の壁に護られて、通常のオアシスよりも安定した気候が望めますから」
「それはありがたいが・・・マツエイ殿にそこまでしていただける理由が・・・」
「私もとある村の開拓の手伝いをしているんですよ。そこは幸い水もあって、農産物なんかも採れるので比較的平和な暮らしが営まれていましてね。同じ”村を開拓する者”としてのよしみ、ということで」
「豊かなオアシスの人間は気持ちも優しいし、厳しい土地は人の心も厳しいですから。シンジが大盤振る舞いできるというのなら、気にせず甘受されるが良いでしょう」
シンジの言葉を後押しするように協会長も勧めた。
「では甘えさせていただきまして・・・」
こうして、地の国の町の周りに砂嵐の壁を設置すること、転移陣での外界との行き来は黒の都市の首脳陣のみで管理し、行き先はシャナディのロッジ内であること、黒の都市の中心部を農地にし、傍に井戸も掘り、生活の基盤を設えること。その上で徐々に交流を図り、技術の伝達や農産物のタネなどの行き来を積み重ねていつか嵐の壁が取り払われるその時に備えていくことなどが取り決められた。
会談の終わりにレビからこんな申し出があった。
「マツエイ殿--シンジ殿のほうがここでは良いのかな。とにかく貴方にはすっかり世話になってしまった・・・出会いが最悪だったにもかかわらずここまでしていただける度量の深さに感銘を覚えるよ。出来ることなら地底の帝国の皇帝にお会いいただきたいものだ。あの方の憂いも少しは解消の道が見出せるかもしれないからね・・・」
「行った事がない場所には伺ってみたい物ですが、行き来は可能なんですか?」
「1度きり使える帰還の宝珠がある。ただ、これで赴けるのは二人だけだ。戻ってしまうとこちら側に出てくることがほぼ不可能になるから、これからここを開拓しなければならない責任者としては使いどころのない魔具になってしまったんだがね」
「・・・試してみる価値はありますよ。僕には転移石があとひとつありますからね。ただ・・・もう魔力が切れかけなので後一度が限度でしょうが」
「・・・そうか。落ち着いたらもう一度検討させてほしい。暫くはここの安定に奔走せざるを得ないだろうから、ひと段落したらまたアラームで連絡させてもらうよ。これはそのときまで預からせてもらうからね」
レビは以前シンジに渡されたアラームの魔具を見せて笑う。シンジは肯定の笑みでうなずくと協会長と一緒にシャナディに向かって帰還していったのであった。
・・・
・・・・・・
世間では突如起こった外敵の大侵攻による恐慌状態が続いていた。しかし、その事態も急激に変動していくことになる。
各都市が警戒態勢を続ける中、外敵が発生する発生源である黒い遺跡群が、突如として現れた巨大砂嵐に巻き込まれていったからである。
各都市の防衛部隊からは「何らかの攻撃の前触れでは?!」という声も上がったが、偵察隊が調査のために砂嵐に近づいても砂嵐がその場から動く気配はまるでなかった。
偵察隊の観測によれば、そこで吹き荒んでいる嵐は凄まじい威力で、数メルテ先もまったく見えず、中に侵入しようものなら、装備はボロボロ、怪我人も続出してしまうという状況。あまつさえ、砂嵐の内部から巨大な破裂音が響き渡り、巨大な爆発が発生したことが確認されたのだ。
結果的に各国はこの報告を受け、この巨大砂嵐が敵陣に居座ったせいで内部で破壊が起こり、何もかも破壊されてしまったのだろうと結論付けることになったのだった。
その後も巨大砂嵐は移動もせず勢いも弱まらないことから、その土地は”嵐の砂漠”と命名された。この後、この地に近づく者は居なくなったという。
そして、これを持って大海嘯は終わりを告げ、各都市は普段の生活を取り戻していくことになった。
・・・
・・・・・・
遠くに砂嵐が響き、日の出の光が差すシャナディの街門前。
馬車を仕立てシャナディを離れる”アラベスクの金の風”を見送るのは協会長ただひとりだった。
「もう、ほとんどいつもどおりの日常を取り戻せた。シンジとその師匠には感謝しているよ。すっかり世話になってしまったが、また厄介ごとがおきたら是非頼りにしたい。」
「あはは。師匠の魔道具はもうほとんど使い尽くしてしまいましたから、あまりお役に立てそうもないですけどね」
「行商人として成り上がっていくんだろう? 今度はそっちでも世話になりそうだけどな。地底との交易とか・・・な?」
「それは・・・だいぶ気の長い話ですね。まぁ、私もハーフエルフですから、その時が来て、生きていたら事情を知っている者として参加はさせていただきたいと思いますよ」
社交辞令のようにそういうと、シンジは協会長にだけ聞こえる小声で約束を交わす。
(お手伝いはしばらくはさせてもらいますからご安心を)
「そう言ってくれるとありがたい。じゃあ、道中気をつけてな。アンキア方面は街道が整備されているとはいえ、大海嘯の影響で治安が悪くなっていると聞く。特に夜盗の類は増えているはずだからな。まぁ、お前さん達なら心配はないのかもしれないが」
「お気遣いありがとうございます。では、またお会いしましょう」
シンジの次の目的地はアンキア。”あの頃”は駆け出しの街として設定されていて、初心者でにぎわっていた街でもある。
どう変わっているのか、それとも変わりがないのか。少し楽しみにしながらのんびりとした行商の旅がまた始まったのである。
-大海嘯の章 了-
まだしばらく多忙のため更新ペースが落ち気味になります。すいません。
次は交易都市最大のアンキアという街でのお話。
プレイヤーの頃となにが変わっているのでしょうか。




