第34話 「やってきた大海嘯 その6」
協会長とシンジが街門に到着すると、既に冒険者達が配置に就いていた。
主戦から漏れて忍び込んできた者に対処するための布陣のようだ。主戦は協会長と、その指揮下にあるシンジの仕事となっているためだ。
「さっそく街門に登ろう。【フライ】!」
協会長がスキル魔法【フライ】を自分とシンジに掛け、明かりも持たずに二人そろって街門の上に出る。【ナイトビジョン】のパッシブスキルが発動しているシンジの目に微妙に分散しつつ静かに近寄ってくるカギ十字達の姿が写った。人数は50弱。鎧をはずし、軽量化して斥候部隊として動いているようだ。そして他の部隊がいないかと遠くを見通すスキル【ふくろうの目】で遠くを見通すと索敵ぎりぎりの1,000メルテ付近に中隊500人くらいが陣を敷いているのが判った。
おおよそ情報どおり。予定通り【タイダルウェイブ】でお引取り頂くことにする。
「ところで、シンジ、”タイダルウェイブ”の効果範囲はどれくらいだ?」
「そうですね。発生範囲は最大で幅1,000メルテ、到達距離は3、500メルテまでいけます。発生地点から500メルテ先以降は召喚後の惰性によって濁流となり、全てを押し流す感じですが、先に行くにつれて土砂を巻き込んだ濁流になって攻撃力が増す状況になるはずです」
「手前の斥候は防衛側に任せて、1,000メルテ向こうの待機部隊をたたこう。頼んだぞシンジ。」
「わかりました」
シンジは街門の上部、外部からも内部からも遮蔽の取れる銃眼の後ろで詠唱を開始した。今回は最大出力での詠唱となるため、詠唱方陣もそれなりの巨大さである。魔力量もかなりの放出が必要なため、通常はしまわれている電脳神の種族特徴、魔力翼を展開して魔力放出補助を開始した。【タイダルウェイブ】の最大出力での詠唱を実行するためには魔力翼の補助が必要になる。
「深淵なる海より我は喚ぶ、大きなる浪のその力・・・」
となりでは協会長が驚愕を表に出さないよう必死でポーカーフェイスを取り繕っていた。
(尋常じゃない魔力展開・・・噂話に聞いた”伝説の神”の存在もあながち噂だけとはいえないようだな・・・)
そして事態は動いていく。
・・・
・・・・・・
「団長! 敵軍より魔法反応!! 数値がどんどん上昇していきます・・・8,000、15,000、・・・80,000を超えてなお上昇中!? 既に大型アーティファクトの最大生成魔法力の数倍に達しています!! これは一体何が起きているんですか!?」
悲鳴を上げたのはカギ十字神殿騎士団斥候部隊の魔法守備専門の探知員である。魔法の詠唱が始まるとその魔法力を検知し、効果範囲から逃れる助言をするという役目の部隊である。
「昼間の【サンダーレイン】の10倍以上の魔法数値が検知されています!!」
「魔法を発動させているとなると、こちらの送り込んだ斥候が発見されていたか・・・しかし、この闇夜でこちらの場所などわかる筈もないが・・・」
「あてずっぽうで撃とうとしているだけかも知れません。昼間と同じ範囲魔法攻撃であれば、ある程度勘で打ち込んでも効果はありますからね。しかし、何度も同じ手は効かないということと、塹壕を掘ってありますから、そこに身を隠せばプロテクションを展開せずともやり過ごせると思われます!」
「よし、すぐに騎士団を塹壕に潜ませろ! 昼と同じ攻撃であればすぐにやり過ごせるはずだ! 相手の攻撃が止んだ後に総攻撃をかける! 巨大魔法は連続使用が出来ない! その隙を突くぞ!!」
指示を受けて塹壕に隠れ、突撃装備を身に付け始める騎士達。トレードマークのカギ十字を施したブレストプレートと突撃用のランスを装備しつつ、相手の初撃を待つ構えだ。
「ふふ、昼の二の舞だ・・・小さな部隊と侮っておるなら痛い目を見せてやろうぞ。」
「魔法反応の数値上昇が100,000で止まりました。気をつけてください! かなり広範囲で高出力魔法が発動するはずです!!」
「各人、身体を低くしてやり過ごせ!!」
・・・
・・・・・・
「・・・全てを藻屑と化せ! 【タイダルウェイブ】」
詠唱方陣がすべて励起し、最終キーワードを唱えると同時にその励起が霧散する。そして数瞬遅れてターゲット地点に8つの召喚陣が発生し、すぐに大音響を伴った何かが目の前に広がる砂漠に発生した。荒れ狂う嵐の海から召喚した巨大な8つの三角波。それが禁呪【タイダルウェイブ】最大出力で詠唱した結果であった。発生した三角波の束-幅1,000メルテ、高さ100メルテもあるそれ-は召喚時にシャナディから砂漠方向に大きな加速度を与えられ、一気に敵陣地へ向かって流れ出した。
「「「「・・・」」」」
シャナディ防衛の見張りたちは暗闇に突然発生した不気味な轟音に驚き声も出ない。砂漠の民が聞いたことなどない荒れ狂う海の大音声を聞きながら立ち尽くしているだけだった。
ちなみに、シャナディの街門側には協会長がサークルプロテクションを同時展開しているため、シャナディへ戻る引き波などは完全にシャットアウトされている。
闇夜の中、圧倒的な面積を、抗うことを許さない水圧を伴った大波が駆け抜ける。進行速度は時速60km程度はあるだろうか。まずは手前に居た斥候らしき者が飲み込まれ、押し流され、数分後には後方展開部隊も塹壕ごと飲み込まれ、押し流されていった。その後も30分ほど荒れ狂う水の大音声が聞こえていたが、やがて静かになっていった。
静かになった街門の上で最初に言葉を発したのは協会長だった。
「・・・さすが禁呪というわけだ。広域破壊魔法の恐ろしさが良くわかるよ。これをシャナディに向かって放たれたら即座にシャナディは壊滅するだろう」
「まず、人に向かっては使いませんよ。そもそも周りに多大な迷惑がかかりますから、あまり使いたくない類の魔法なんですけどね。もっとタチの悪い禁呪もあるにはありますが・・・局所的には使えても周りの影響を考えるとこの場で全力詠唱でも大丈夫なのはこのタイダルウェイブだけでした」
「それじゃ、偉大な魔女のスクロールはこれで打ち止め、ということにしておこうか。何かの時にはまたシンジを頼らせてもらうことにはなると思うが、出来るだけ情報操作をしてそちらに迷惑がかからないように配慮はさせてもらうつもりだ。今日のところは引き上げてくれ。後始末は協会のほかのメンバーだけで充分だろう」
「ありがとうございます。正直、大魔法を撃つと眠くなるんですよ・・・では、失礼します」
暇を告げると転移していくシンジを見送り、協会長は号令をかけた。
「よーし、スクロールの効果は抜群だ!! 砂漠に繰り出してバカ共を縛り上げて捕縛するぞ!!」
街門の脇からわらわらと出てきた冒険者達はロープと明かりを携えて水が過ぎ去った砂漠に繰出して行った。このとき、シャナディ方面に遠征したカギ十字神殿騎士団は100名あまり。のこりの400は崩れ去ったフレッシュゴーレムの残骸と成り果てていた。カギ十字神殿騎士団は指揮官たる枢機卿を含め、そのまま捕虜としてシャナディに確保されることとなったのである。
・・・
・・・・・・
その頃、残された地底人の一団は、竜撃の影響から免れた建物で会議を開いていた。【タイダルウェイブ】が発生させた地響きが遠くに聞こえ、集った者達が一様に不安な表情を浮かべる。
「遠くで地鳴りがしているな。奴らが無茶をしでかしたり・・・そんな悪い予兆でなければ良いが。」
北面軍の司令官がこの場に出席していない極右派の顔を思い浮かべながらため息をつく。
そんな会議場に慌しく連絡係の担当官が駆け込んできた。
「司令官。緊急事態です。勝手に先行したカギ十字騎士団の連絡が途絶えました。」
「・・・」
思わず黙る司令官。一緒に報告を聞いていた事務官達がざわざわと話し始める。
「なんと・・・だが暴走要素は体よく排除されたことになるな・・・」
「あとは神殿の影響下にある者たちが小数残っておるからそれをを封じてしまえばこの暴走を完全に封じることができるな」
「もはや帰還の方法もない限りはなんとしてもこの地に根付くことを考えねば」
「原住民を懐柔する策を考えねばな・・・」
「・・・南面軍の成功情報が気になるところだ。本当にこの世界の者達を押さえ込めているのだろうか・・・こちらもあちらも勝手なこちらからの敵対行動の挙句に壊滅していたら・・・我々の明日が危なくなる。どうしたものか・・・」
緊迫した空気のまま夜はふけていく。
いつもご覧頂きありがとうございます。
少し短めですが次の話を掲載させていただきます。
しばらくはその次の話を書く時間が取れていませんので、間が開く予定です。




