第32話 「やってきた大海嘯 その4」
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カギ十字軍側の内情のおお話です。
中隊をひとつ失ったカギ十字の一団は暫し行軍を躊躇っていた。
「まさかこれほどの脅威が地上に残っておろうとは・・・」
「我々の先祖の時代にはマナを使用する以外であれほどの高威力の攻撃はできないといわれていたはずです。今も未だ希薄なマナしか存在しないこの地上であれほどの兵器が使用されてマナに変動がないのはいささか疑問です」
彼らの活動の根源であるマナを測る装置を指差して軍の研究者らしき人物が発言した。
はるかな過去の時代、竜族は居なかったか、発見されていなかったということなのだろう。
「この北面部隊は一旦行動を凍結する。南面部隊の動向次第だが、両方で苦戦となるようであれば、少ない特殊部隊を一点突破のために集めなければならないだろう。未だ地下に残る我らの同胞のためにもここは慎重に行動するのだ。 あの・・・過信のために突撃し無駄に散っていった馬鹿な神官共の二の舞をすることもないだろう」
「承知しました。本軍は一旦駐留し南面軍の動向を確認する作業に移ります。 ・・・が、神殿軍に関しましては歯止めが聞かない情勢です。大神官が倒されたために、皆が復讐心に囚われ暴動を起こしかねない雰囲気すらあります」
「・・・しかたなかろう。そもそも行軍に無理やりついてきた奴らであることだ。自由行動と引き換えに糧食の一部を軍に納めさせよ。惜しい人材は数名は居るが・・・烏合の衆に成り下がった者たちは見捨てるしかなかろう」
「・・・承知いたしました」
北面軍の司令官は渋面で指示を下した。会議は解散となり、司令官は臨時司令官室に一人戻るとため息をついた。
「自重しろとあれほど言われたのにもかかわらず、いきなり戦端を切ってしまったか・・・地上にのこるのが野獣達だけだったならばそれも良かろうが、相手は完全に知的生物だろう。平和的接触もあってしかるべきだとは思うが・・・これだけの戦力を背景にしてはそれも絵空事と言わざるをえんな。」
そしてまたため息をつくと司令官はキセルをふかし出したのだった。
・・・
・・・・・・
【カギ十字神殿騎士団】
「そうか、司令官の許可は出たのだな。糧食の一部を差し出すことが条件とはいえ、どうせ現地で調達すれば済む話だ。大神官の仇、かならず討ち果たそうぞ!」
「「「「「おお!!!」」」」」
教皇の忠実なる僕、5人の枢機卿が一人、ザルヴァ卿が声高に檄を飛ばし、それに答える甲冑の一団が居た。彼らはカギ十字神殿騎士団と呼ばれ、地下世界を統べる現人神--教皇の元、すべての怨敵を排除する存在として設立された集団である。一般には妄信集団と言われ、極右化した集団でもあった。
「我々が尊敬する大神官は死んだ。何故だ!! 地上討伐軍は100万の大軍を擁し、矮小なる地上人を数瞬のうちに殲滅できると奢っている。同様に大神官を警護する紫軍の団長も相手を矮小と決めつけ、無防備に前線への示威行動を促した。しかし! それは重大な見落としであった。地上の蛮族共はマナも利用できない哀れな存在である。しかし、そのしたたかな生命力はマナを必要とせずとも強大な力を持たせるに到っている。所詮は矮小な蛮族と侮った結果である! 大神官殿は我ら同胞の甘い考えを改めさせるために尊い犠牲となったのだ!! 我々は今、この怒りを結集して立ちはだかる蛮族共に叩きつけてはじめて真の勝利を得ることが出来る!! この勝利こそ戦死者すべてへの最大の慰めとなろう。我らがカギ十字の旗印の下に集った同士は皆、選ばれし民であることを忘れないでほしいのだ! 優良種たる我らこそ、この地上に覇を握る権利が与えられているのだ!! 進め騎士団よ! 志半ばにして斃れた大神官の無念を雪ぎ、この地の蛮族を打ち滅ぼすのだ!!」
「「「すべてはカギ十字の旗の下に!!」」」
今回の討伐軍に参加したカギ十字騎士団の総数は100。団員の1/3がここに結集していることになる。しかも遠征に集まってきたのは団員の中でも血気が盛んな若い団員ばかりであった。古強者は教皇の護りに徹していたからだった。
「まずは傀儡の召喚からだ。各々、死者の肉体を再構成して各自担当の傀儡を召喚せよ」
傀儡は神殿騎士団が秘儀とされる特殊なゴーレムである。感覚を召喚者である騎士と共有し、身のこなしもほぼ忠実にトレスできる程の運動性を持つ。素材は擬似人体とも言うべきもので、その多くは死者の肉体か、奴隷階級の肉体を利用して作られていた。騎士が召喚するのは忠実なる魂のほうであり、肉体はなんでもよいとされている。ちなみに、カギ十字の死生観では死ぬと肉体は残されるが、本体である魂は別のところですぐにも転生すると信じられている。この転生・輪廻の地獄の円環から抜け出すことが信仰の最終地点、解脱とされているのだ。そのとき、魂は肉体の枷から解き放たれて自由な世界へ旅立てるとされている。
「問題なく召喚が完了したな! では各自、傀儡を先行させてあの砦の隙を見つけるのだ!」
まもなく夕闇が世界を閉ざそうとするなか、傀儡達はシャナディの街壁へ向かって俊敏に移動していった。宵闇に紛れ、束の間の勝利に安堵する人々の目を盗むように・・・
どうやら暴走は一部の組織の先走りのようですが・・・
更なる誤解の火種が発生しそうです。




