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第30話 「やってきた大海嘯 その2」

いつもご覧頂きありがとうございます。

大海嘯の続きになります。 ではどうぞ。

巨大な方陣の出現や、謎の建造物群の召喚にシャナディの街壁の上で警戒の任務に当たっていた兵士達は一様に浮き足立っていた。

同時に発生した軽い地震のせいで日干し煉瓦で建造された建物の多い街中で建物の一部崩壊がそこかしこで起きており、街中はちょっとした混乱が発生して居る様子が目に入ったからだ。そして、現れた歪な建造物からまろびでる歪んだ人影-邪なる姿が数を増してゆく様子も目に入ってきたからであった。



「皆、大丈夫か!?」


シンジが声を掛けると咄嗟に張られたサークルプロテクションに護られたキャラバンメンバーが顔を上げる。ルミもアーシェラもルチアも無事だ。もちろんアウラは無事だ。


「けほ。なんとか無事ですが、けっこう揺れましたね。何が起きたんでしょう?」

「こんな地形で地震が起きるとも考えづらいから・・・例のアレが何かを引き起こしたんだろうな。皆! 多分すぐにも戦闘が発生する可能性が高いから、衛兵がいるはずの街門に急ごう」

「「「「了解!」」」」


街壁へ向かう途中の道は軽い怪我をした者がそこかしこにいたが、今後の状況が見えない今、安易に治癒のスキル魔法を使うわけにも行かなかった。苦しんでいる人間を見ても見ぬ振りで駆け抜けた。心の中で謝りながら駆け抜けた。命に別状はないのだから、と自分を誤魔化しながら。



・・・

・・・・・・



街門にたどり着くと、大事な街を護るための門が地震の影響で街壁からはずれ地面に横たわっている。すぐに他の冒険者達も集まってきたが、防御力の要の無残な姿にどうすることもできなかった。


「街壁の防御力はないものとして戦闘行為を行うしかない。先ほど見張りからこちらに押し寄せようとする魔物らしき姿を確認したと連絡があった。移動速度も速い。1時間ほどで戦闘が開始されることになりそうだ。街壁の外に陣を展開して、なんとしても魔物の群れからシャナディを防衛するぞ!!」


冒険協会の指揮役を任されたというサブギルドマスターが号令をかけると、冒険者達はすばやく陣の構築・展開にかかった。陣形は鶴翼の陣に良く似た陣形。迎撃の態勢に移ろうとしていた。


シンジ達は街の前面に展開している陣からはなれ、側面攻撃を担当する遊撃部隊に入ることになった。ある程度の行動の自由を確保するためである。


「まずはそっと魔物の群れの絶対数を減らしちゃおう。街の正面を護る奴らが格段に楽になるはずだ。横に回りこんで大魔法をかませちゃおう。詠唱に時間がかかるから、皆はその間の防御を頼む!」

「はい、お任せ下さいシンジ様! わたしがしっかりお守りいたします!」

「したら、ルミに前方は任せたで。ウチとアーシェは左右の護りや。」

「護りは巫女のおいらに任せるニャ! 神霊よ彼の者に盾を与えよ【リフレクションビット】」


すぐさま陣を展開し防御の体制に入る。アーシェラが唱えたのはリフレクションビットを起動するコマンドワードだ。前衛を担当するルミの周囲に攻撃反射のビット、リフレクションビットが浮遊を始める。これで迎撃体制は一応完成だ。


「今回は様子見をさせてもらうわね。神が軽々しく力を使うものではないでしょうから。」


アウラは静観するようだ。竜神の力を借りなければならない事態、それはシャナディ防衛部隊が詰んだ状態と思って差し支えないだろう。大事な最後の切り札なのだ。


果たして暴走する魔物の群れは黒い人影に追い立てられているようだった。その人影で特徴的な印。それは黒で統一された服を着用し、黒色のヘルムをかぶり、肩に大きな筒を背負った姿に、胸元に大きく白抜きのカギ十字が刻まれていることだった。古い書物にもあったというが、シンジの記憶にあるのはVRMMOで敵役として度々登場した砂漠の神の使徒-プレイヤーは”カギ十字”と呼称した-の印であった。


「あいつらか・・・。しかし、いつ見てもアーミー服に迷彩ヘルメットを身に付け、それからランチャーを背負った某所の兵士・・・ゴブリンに見えるけど・・・という見た目だな。大丈夫だとは思うけど、あの武器が僕の世界の本物なら火力の問題からもシャナディ側がかなり不利になるだろうな」

「ああみいふく? らんちゃん? シンジ様、あのへんな装備はそんな名前なんですね?」

「ああ。とくにあのランチャーには気をつけるんだ。飛び道具であり、現時点・この世界においてはほぼ最強の高火力兵器のはずだ」


シンジが展開する”詠唱魔方陣”が次々と文字を変え、組み変わり、詠唱が進んでいることを示し始める。


「うーん、まだ詠唱に時間がかかるな・・・詠唱短縮は魔力を使いすぎるから止めたけど、必要になるかも・・・」


シンジが独り言を言っていると、先行する魔物を追っていた敵軍が展開先の陣地を確保しようとしたのか、魔物たちの群れに攻撃を加え始めた。


ばしゅっ ・・・ ドーン


追い立てられた魔物の群れにカギ十字たちの火砲の一斉射が炸裂した。見た目はアレだが、性能はファイアボールワンドとほぼ同等の威力のようだ。見ていると一斉射撃したあと、後衛にランチャーを渡して新しいものと交換をしており、単発であるらしい。連続使用を考えると取り回しの悪さの分、あちらのほうがファイアボールワンドより劣るようだが、そもそも防衛側のシャナディにファイアボールワンド装備の部隊は無いので、あのまま持ち込まれでもすればシャナディ側の分の悪さはかなりのものになる。


「・・・思ったより低威力でよかったけど、前衛が魔法を使えるというのは厄介だね・・・」

「威力はファイアボールより若干弱いようですね。あのモンスターを一撃では屠れないようですから」


魔物たちの主力はファングボアだった。シンジが持っているファイアボールワンドであれば一撃で屠れる程度のモンスターである。


「敵か味方かは・・・判断付けづらいな。プレイヤー視点だったら絶対敵なんだし、軍事行動を取っているから、やっぱり敵なんだろうけど、一応は初めて出会う者同士だからな。実は新しい種族なのかもしれないし、一度は接触を図るべきなんだろうな・・・」


一度は詠唱を始めた範囲魔法だったが、途中で詠唱を中断すると、一旦様子見をすることにした。

目の前ではカギ十字vs魔物の群れという構図で戦闘が始まっていたからだ。


一方、シンジもそうであったが、シャナディの防衛司令官も悩んでいた。


「そうか・・・魔物の群れと交戦に入ったか。敵か味方か。彼らは一体何者なのか・・・うかつには手を出せないな・・・」



・・・

・・・・・・



魔物との戦闘がひと段落したカギ十字の後方部隊で、その男は演説をしていた。


「皆の者!此処は我らの先祖がかつて繁栄し暮らした、憧れの地上である。未だ砂漠は消えないようだが、充分に暮らすことが可能であるようだ。あちこちに聳える城壁らしきものは砦であろうし、人々の姿も見える。」

「大神官のおおせのとおり! はるか先祖が残した帰還装置のおかげであります!!」

「地下世界はもはやマナがない。地上世界はなんとかマナが回復しており、地下のように不自由せずとも暮らていけるだろう。まずはこの世界に拠点を開き、先祖の残した土地を蛮族から取り返そうぞ! 教祖様も後方でご覧になられておろう。皆!奮い立て!!」


地底人とでも呼ぶべき彼らは死にかけた地下の世界から逃げ延びてきた人々であった。そして・・・生き延びるため、この地上に新たな生活の場所を求めて地下から溢れ出したのだった。


「まずは橋頭堡(きょうとうほ)の確保である! ”先祖の至宝”が方位を示した南面に展開する防衛陣を突破し、砦を確保するのだ! 良いか!この世界は元は我らの先祖のものである! 彼らはそれを無断で占領しておるのだ! 奪い返せ! これは聖戦である!!」


最悪、と呼ぶべき戦いの火蓋はこのとき、切って落とされたのである。



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