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第29話 「やってきた大海嘯 その1」

いつもご覧頂きありがとうございます。

・・・大海嘯、始まります。


「にょ~ろり!」


アカネが動物小屋でくつろぎモードに入っている扉カタツムリに声を掛けると片方がアカネのほうを向いた。つぶらな瞳がくっついている触手を”うにゅ?”っと傾けてあたかも「なぁに?」と返事をしているようだ。


「あのね、お使い、手伝ってね?」


大きく目玉を縦に振るにょろり。相方のにょろを見れば(くつわ)を目に引っ掛けてこっちに持ってくるところだった。出番はしっかり解っているらしく、二匹揃ってアカネの元に来ると(くつわ)をつけるように促してくる。


「お前達は良い子だね~。さ、荷物運びのお使い、すぐに終わらせちゃおう!! そのあとはちょっとお散歩して遊ぼう!!」


(くつわ)をはめ、大八車(リヤカー)を引っ張りながらにょろとにょろりがスムーズに歩く。カタツムリのように見えてもふさふさの毛がもっさり生えていたり、胴体の裏には小さな足がびっしりあったり、似て非なる存在。アカネとミルファが毛の手触りを堪能しているうちに目的地の冒険協会に到着したのだった。


「こんにちわ。「よろづ屋」の者です、買取の使いで来ました。」


いくらか空いてきた冒険協会の事務所で、アカネがカウンター越しに係員に声を掛けると、ごつい(なり)の係員が出てきた。


「買取か。手配書か何かあるのかい?」

「これです」


ミカエラが渡したらしいメモ紙をアカネが係員に渡すと、それを見ながら係員が仕分け作業を始める。


「これとこれが500キロムだな。ふんっ。よし、お嬢ちゃんこの秤の目を確認してくれ。しっかり5キロムあるだろう? これを100回繰り返すと500キロムになるわけだ。暫く繰り返すからお嬢ちゃんは目方の確認を頼むぜ」


係員が積荷を取り出し、アカネが目方を確認する作業、にょろりがその荷物を荷台に積み上げていく作業を繰り返すと、大八車(リヤカー)に注文どおりの荷物が積み上げられた。


「よし、これで積み込みも終了だな 。じゃあ、確認のサインをしてもらって、納品証書を渡しとくわ。そっちの依頼書にもサインをしてもらったらこっちで預かっておく」


無事に荷の引き取りを済ませたアカネとミルファは来た道を引き返してゆく。にょろとにょろりは帰りの歩みも機嫌よく、飛び出した目をフリフリ振りながら行きと同じように歩いていく。

その道すがら、二人と2匹は不審な男を見かけた。


「・・・時は来た。大いなる裁きが地上を埋め尽くすだろう・・・」


白抜きのカギ十字が刺繍された黒いローブを着た足取りがおぼつかない老人。


「なんだこの不審者は。おい、お前! ちょっと事情を聞きたいからこっちに来るんだ!」

「門番はいったい何をやっていたんだ。こんな不審な者を市内に通してしまうなんて」


ローブのフードから垣間見える幾日も放浪してきたかのようなくたびれた風貌。およそ市街地に現れるには怪しすぎるその男はすぐに警邏の人間に取り押さえられて連行されていった。


アカネとミルファはにとっては初めて見る光景だったため、都会とはこういうことが発生するんだな、とその場で納得してしまい、そのまま忘れてしまった。


「ただいまー!」

「帰りました」

「あら、お帰り。思ったより早かったようね?」


無事帰宅した二人を出迎えたのはミカエラだった。既にストックではにょろとにょろりが協力して触手で荷おろしを始めている。器用で几帳面な性格なのか、無理なく、コンパクトになるように荷を積み上げている。


「あとは2匹にお任せすれば整理は終わりそうね。整理が終わったら2匹と・・・カーゴハウンドも一緒に呼んで6匹と裏庭で少し遊んであげなさいね。きっと喜ぶわ」

「あい」

「もふります」


いそいそと遊び支度をする二人。程なく仕事が終わったチロとチャロも合流するだろう。


「さて、あたしの方はこっちの対処を急がないと・・・」


ミカエラの手元にはアムフルスに様子見に行ったオリビアからの手紙が握られていた。そこには”終末の裁きを叫ぶ不審な人物”のことが書かれていた。



・・・

・・・・・・



(・・・と、いうわけでアムフルスで不審な男が発生しているらしいけど、そっちはどう? シンジ?)

(そうだね。シャナディでも同じような男が現れて警邏に連行されたらしいんだけど、脱走してしまったみたいだね。しかも着ていたぼろ服ははるか昔に信仰が途絶えたという砂漠の神の神官服だったらしいんだ。

たまたま居合わせた太陽神殿の神官が知っていたらしくてね。)

(ということはクファンでもどこかに発生している可能性はあるということね・・・)

(ほぼ全ての土地で神官が動き出しているとするならば・・・いよいよ、かな?)

(いよいよ、でしょうね)


もう、大海嘯まで時が残されていないらしい。各地の防衛の準備はまだまだ不十分。シンジ個人としての準備は終わった。できることは手の届く範囲のものを護ることだけだろう。


(苦しい戦いになりそうね。くれぐれも無理はしないのよ? シンジ?)

(・・・わかってる。でも出来る限りの無理はするつもり。)

(オリビアも一族の将来を担う大事な体なんだから、無闇に自分を犠牲にしてまで全てを護ろうとしないようにね)

(私もシンジ様と同じ考えですわ。ただ、私が任された範囲はそれほど大きくないから大丈夫)

(じゃあ、この念話リンクはいつでも必要に応じて接続することにしよう。広範囲でコトが起こったときの対処ができるからね。それじゃ一旦解散!)


シャナディに滞在中のシンジたちは宿泊客が増え始めた宿に泊まっていた。魔物の発生頻度が増えたらしく、防衛力の無い周辺小集落の人間達が避難して来たからだ。彼らが避難して来た理由も良くわかる。

確かにそれは前触れであったのだ



・・・

・・・・・・



それはその晩遅くのことだった。

既に多くの場所で淡い光を放つ塔が発生し、夜空も明るくなるほどに光の柱を投げる、という光景が日常化していたが、その日はやけに日が暮れるのが遅いと感じるほど塔から放たれる光が強くなっていた。

雲ひとつ無い砂漠の夜空。そこに所々欠けながらも巨大な方陣が浮かび上がり始め、ゆっくりと地上に降り始めた。欠けた部分はなんとか塔の機能停止に成功した部分であったり、覆いを掛ける事で光を遮ることが出来た部分だろう。

方陣が地面に到達するにつれて方陣を潜り抜けるように大小の歪な建造物が現れた。方陣が欠けた部分は建造物がうまく通過できなかったような形で崩れているようだった。

”喚び出された魔の都”と後の世に伝えられることになる建造物の出現。これが大海嘯の始まりであった。



試練はまだまだ続きます。

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