第26話 「過剰? 防衛線」
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あられもない姿? のミカエラさんとオリビアさんのご登場です。さて、何が起きますやら。
転移陣のある地下室に転移すると風呂から出たばかりのミカエラとオリビアが風呂上りのバスタオル姿でそこにいた。
「おかえり、シンジ。」
「おかえりなさいませ、シンジ様。」
転移陣から半分顔を出したシンジを見ても特別反応を返さない。
「・・・”キャー”とか黄色い声もないんすねミカエラさんとオリビアさん。それと・・・一応、脱衣所も作ってあるんだから、そこで着替えてから出て来てほしいな」
「バスタオル姿で涼を求めるのが昼下がりの暑い時間の過ごし方ってどなたかに聞きましたわ。最高の贅沢なのですって。幸い地下室には氷もありますから、冷たい飲み物も作れますし」
冷蔵庫から氷を取り出し、冷たい水を作っているオリビアの視界の端に、シンジについてきた誰かの姿が映った。同時にミカエラもその姿に気がついたようだ。
「「きゃあああぁああああぁぁぁぁぁあぁ!?」」
「シ、シンジ様っ、連れの方がいらしたんですかぁ!?」
すごい勢いで脱衣所に駆け込み、顔だけこちらに向けるオリビアとミカエラの姿があった。
「あら、貴女がオリビアね? よろしくね。私のことはアウラと呼んで頂戴。私はこの間シンジの嫁になったばかりだから、気楽に接してくれるとうれしいわ。」
「ああもう、やっぱりこうなったか・・・ここは転移陣の出口だから外部の人も入ってくることがあるんだよ。まだアウラは身内みたいなものだからいいけど・・・気をつけてね二人とも。」
シンジは顔だけ出した二人がコウコク、と肯くのを確認して、アウラの方を向いた。
「それと。すぐそっち方面のお話題に行かないでください、アウラさん。遊んでる時間はあんまり無いんです。」
げんなりした顔でシンジがアウラに向かって注意すると、アウラは拗ねた様に謝った。
「ぶ~。ご・め・ん・な・さ・い~。 いいじゃない、ちょっとくらい牽制したって・・・」
「ア、アウラ様、私のことはあまりお気になさらずに・・・私は側室で構いませんから、どうぞアウラ様が正室になっていただければ・・・」
「オリビア! 恋は戦争!! 相手がたとえ神であっても勝ち取るために戦うのよ! ほら、いまならチラリズムアタックで!!」
(だから。ミカエラさんも煽らないで・・・いいから服を着るために脱衣所に戻ってほしい。目のやり場にも困っちゃうよ・・・)
女3人寄れば姦しい。そういう類の話ではあった。
「とにかく二人は服を着てから出てきて下さい! 報告はその後するから!!」
「「了解しましたっ!」」
まだ頬にかすかに赤みが残るオリビアの背を押しながらミカエラは脱衣所へと消える。程なく部屋着に着替えた二人が戻ってきた。とりあえず書斎に腰を落ち着け、シンジが報告をし始めた。
「それで、念話では少し話したけど、大海嘯対策として拠点の防衛を固めないと、と思って急遽戻ってきたんだ。よろづ屋ののあるここクファンと、世話になっているアムフルスだけは何としても守り通したい。そのほかの地域は冒険協会に頼ろうと思うけど、この2拠点についてはどんな防護策があるかな?」
「そうね。ただ魔物が押し寄せてくるだけの事象であるなら城壁なんかで街を囲って耐えている間に殲滅しきればいいでしょう。クファンは城門が既にあるからやりやすいでしょうけど、アムフルスはまだ防壁が出来上がっていないから、すぐにその対応をするのは厳しいわね」
腕を組みながら渋面で回答するミカエラ。防衛戦ならたしかにそれがセオリーだろう。
「と、言うことはクファンは冒険協会もあるし大丈夫として、アムフルスの防衛をひねり出せれば問題の回避は可能ということだね。とはいえサークルプロテクションでは効果時間が短いし、防御魔法で何とかするのは厳しいかもしれないね・・・」
腕を組んだままのアウラがそこに口を挟む。
「元素魔法だったら物質に直接影響できるわ。それか精霊魔法で4大精霊に働きかけて壁を作って永続化するとか」
元素魔法も精霊魔法も物質に働きかけるスキル魔法を持つ魔術体系である。
「どんなふうにやるの?」
「サンドウォールやアイスウォールを永続化するか、サンドコフィンで砂の棺を作って沢山積み上げる、なんてことでも壁は出来るわよ」
「どっちも膨大に魔力が必要な方法だね・・・まだましなサンドコフィン積み上げ方式で壁作成の応急処置にしようか。不自然さもそっちのほうが少ないだろうし。日干し煉瓦のでっかいやつ、ということにしておこう」
サンドコフィンは元素魔法のひとつ。同じような魔法にアイスコフィン、氷の棺があるが、このアラベスクは砂の世界をフューチャーしたVRMMO。砂でできててもいーじゃない! ということだったのか砂でも同じことが出来るようになっている。材質的には砂岩であり、閉じ込められるとちょっとした化石気分が味わえるというシロモノである。実際、VRMMOでも相手を封じるというよりは壁の材料として生成して立体的な戦闘舞台を作り上げるのに一役買っていたりした。
「じゃあ、早速アムフルスへ跳んで壁作りを終わらせちゃおう。元々、アルム村長も作るつもりだったろうから一石二鳥だろうし。とりあえずミカエラ、手伝って。」
日を跨がず、そのままもう一度転移陣に乗り、転移していくシンジ。一緒にミカエラがお供でついていったのだった。
・・・
・・・・・・
「さて、オリビア。調子はどうかしら。花嫁修業はうまく行ってる?」
優しい目でオリビアを見つめるアウラ。アウラとオリビアはシンジの書斎に二人だけ残り、話し込んでいた。シンジはミカエラと外出、残りのメンバーはよろづ屋の昼の仕事や、それぞれの出稼ぎ先での仕事にまい進している頃だろう。
「うまく行っているかまでは自分では判りませんが、楽しく過ごさせて頂いています。お父様にもお母様にもわがままを言って人間界へ出させて頂いたこともあります。後悔だけはしない、という覚悟で参りましたが、シンジ様以外の人間達も思いのほか良くしてくれますので」
「そう。なら安心したわ。シンジの周りには良い人が集まっているのね。でもね。これからはそんな人間たちばかりでもなくなるはずよ。いままでは目立たないように過ごしてきたはずでしょうけど、今回の大海嘯でシンジはきっと活躍してしまう。そうなるとその力を目当てに様々な思惑を抱えた者達がやってくることは避けられないわ。ここにいるとそれに巻き込まれてしまう。私はそれが心配。オリビアが自分でそれらを排除してシンジを助けるのであれば、そのあたりの人を見る目を養わなければならない時期でもあるわよ」
アウラはオリビアの両親から預かっている言伝を自分の言葉も添えて話しかけているようだった。竜族は本来純真なので、騙され易い性質を持っている。最終的に力で切り抜けられるにしても、心には裏切りの傷が無数に付けられて行き、最後には疑心暗鬼に陥るという事例は過去いくつもあった。そのため、竜族を人間界に送り出すことは竜族の中で抑止事項となっていたのだ。
「きっと、大丈夫ですわアウラ様。シンジ様が守ってくださると思うの。それに親友のミカエラがいつも気に掛けてくれるから、きっと乗り越えられると確信しています」
「・・・そう。じゃあ、あの二人に期待させてもらおうかしら。くれぐれも言いますが、オリビアは大事な体なのだから、無理・無茶をしないようにね。(・・・次期竜王の器なのだから・・・)」
・・・
・・・・・・
その頃。アムフルスでは驚愕の顔のまま固まっているアルム村長以下村人達が居た。その眼前には厚さ2メルト、高さ5メルトの砂岩の城壁が聳え、やり遂げた顔のシンジとぐったりしたミカエラの姿があったのだった。
「さあ、これでアムフルスの守りも完璧ですね。銃眼とかはこの砂岩に穴を開けて作ったりして下さい。一応、城壁の上に登れる階段を付けていますから、壁の上からの見回りでも問題ないですよ」
ドヤ顔でアルムに説明を始めるシンジ。やっとのことでアルムが再起動した。
「シンジさん・・・やってくるなり作業を始められたので何事かと思いましたが・・・立派な城壁を作っていただきありがとうございます。この費用はいかようにすれば宜しいでしょうか?」
普通にこの規模の城壁を作るとすれば数百億シリングはかかるはずであった。砂岩集め、積み上げの労働力。時間ももっともっとかかるはずである。シンジとミカエラは土台部分がわずかに出来ていたことを良いことに、あとの上部分をサンドコフィンの重ねがけで無理やり築いてしまった、というわけである。サンドコフィンは状態固定魔法なので、砂岩を積み上げた石垣そのものといって差し支えない。
「えとですね。この村にはうちの拠点がありますから。”拠点防御を僕らが勝手に強化しただけ”ですから、御代なんか気にしなくていいんですよ。そんなことより防衛の人員を増やす算段をしておいて下さい。もうすぐ魔物の大発生が起きそうな兆しがありますから」
「そうですか。では、お言葉に甘えることにします。見回りについても、交易の利益で冒険者を雇うことが出来ましたので以前よりは安心です。」
「よかったですね。・・・そうだ、おそらくですが食糧不足も同時に発生しそうですから、漁で多めに魚を捕っていただけますか? 魔物の襲撃が始まれば漁にも出られないでしょうし、今の内に沢山の食料を確保しておいたほうが良いです。」
「承知しました。出来る限り多めに捕って加工することにします」
シンジ達はその後、沢山取れた場合の貯蔵についてアルムと話会ったり(とりあえずよろづ屋で預かって、必要なときに供出することに決まった)、足を伸ばしてカルケンにチコ達4人娘の近況などを話して、転移陣でクファンのよろづ屋へ戻っていったのだった。
・・・
・・・・・・
翌朝、シンジ達はクファンの商業ギルドに顔を出し、シャナディでの話をギルドマスターへ報告していた。
「かなり重大な話と聞いたが・・・君が”アラベスクの金の風”のキャラバンマスターなんだね?」
「はい。シンジと申します。」
「つかぬことなのだが・・・その昔、今から500年は前になるだろうか。我ら商業ギルドに伝説として伝えられてきたキャラバンがあってね。そのキャラバンの名も”アラベスクの金の風”と言う名だったのだが、やはりそれにあやかっての命名なのかい?」
報告を始める前に打ち込まれた牽制の一撃。30台前半に見えるギルドマスターは愛嬌のある顔ををしているものの、その眼光は鋭い。
(・・・まずい・・・か? 確かに多数のCVCで勝ち残るキャラバンではあったけど、500年前ということでさすがに記憶が風化してると思ったんだけどな・・・)
「そうですね。僕の人間のほうの親が良く話してくれてたんです。名前のシンジ、もそのキャラバンの一人から取ったそうで。器用になるように、との願掛けだそうですが」
とっさに誤魔化したシンジ。登録時に自分の設定年齢も登録してあるから、エルフでもないかぎりバレはしないだろう。
「そうか。君はハーフエルフだったな。良い名を贈られたのだな。・・・さて、話が脱線してしまっていたが、報告のほうを聞かせてくれるか?」
謎の塔が転送陣である可能性の話、シャナディの冒険協会が動き出している話、魔物激増が竜族の伝承から予測されている話。一通りの話をした後、冒険協会から出ている依頼についての話に移った。
「そういうわけで、冒険協会としては食料・武器等の調達を求めている状況です。商業ギルドのツテで武器を集めることが出来ないか、という確認のお話と、食料の備蓄を始めてほしいというお願いを持ってまいりました。ちなみに、僕らは食糧生産・備蓄のほうに力を入れたいと思っています。」
「燻製が好評と報告を受けている。そちらの増産を検討するということだな?」
「はい。そのとおりです。あとは・・・ご相談ですが、クファンに来る前に仕入れた武器が倉庫に積まれております。先ほど言った事情で僕がそれを運搬することは出来そうもないので代わりに代行販売・輸送をお願いできませんでしょうか。」
「・・・ふむ。そういう事情では仕方が無いな。売り先はシャナディだけではないが良いか?」
「はい。それは構いません。後ほどお届けにあがるので宜しくお願いします。」
「承知した。代行販売も手間だろうからこちらで買い取ってしまおう。相場の仕入れ価格で買い取るが構わないな?」
VRMMOの時代と異なり、こちらの相場は変動制だ。昔より生産が少ないためか、ほぼVRMMO時代に購入した金額と変わらない金額で仕入れ相場が動いているようだった。
「問題ありません。では、さっそく準備をいたしますので、こちらで失礼いたします」
会談が終わるとシンジはそそくさと商業ギルドを後にした。
「・・・ものすごく怪しいのだが・・・追求しても詮無しか。せめて仲の良い友人程度にはなっておいたほうが得策のようだな」
ギルドマスターがつぶやいた言葉がシンジの耳に届くことは無かった。
異常ともいえる物量を放出し始めたシンジ。
人の命を護るためとはいえ、自分自身の素性もばれそうな予感がしますね。
大海嘯への対策はもうすこし続きます。なんとか間に合えばいいのですが。
では、また次のお話しでお会いしましょう。




