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第2話 「奴隷、買います。」

獣人奴隷のルミが仲間になります。

ルミとミカエラとパーティを組んで、ルカンドまで徒歩2日の行程。

道中それぞれの境遇について話しながら歩いた。


シンジは自分は記憶喪失で、数年前の記憶しか残っていない、と自分を紹介した。そもそも1年ほどしかこの世界に居ないのだから、語れることも少ない。元の世界の話なんて話したくても話せない。


ミカエラは100年ほど前にハイエルフの里を出て、冒険者をしながら各地を旅しているらしい。

エルフの寿命は数千年とも言われるらしい。そういう意味で言えばミカエラもまだまだ若造なのだそうだ。


ルミは奴隷になる前は獣人銀狼一族の狩部の一員だったらしい。

個人の戦闘能力が非常に高い一族のようで、グレーターパイソンとかも狩っていたらしい。

ちなみにグレーターパイソンは身の丈10mはある大型の牛の魔物で、まともにぶつかれば城壁すら破壊する突進技を持っている。

そんな一族が困窮した原因は村を襲った疫病だそうだ。幸いにも死者は少なく済んだが、大量に購入することになった解毒剤・ヒールポーションの代金支払いに四苦八苦することに。そこでくじ引きの結果ルミが奴隷として売られることで借金の返済に充てたということだった。

一族の事情でやむにやまれず身売りしたルミ。なんとか元の鞘に戻せないものだろうか。



そして、たどり着いたルカンドの街。門をくぐると街の喧騒がにぎやかに聞こえてきた。

まず向かうのは奴隷商人のところ。ルミに関する交渉のためだ。誘拐されたらしい事象の解決と、シンジとしてはルミを自由にするのが目的だった。


「こんにちわー。通りすがりの冒険者でーす」


間抜けとも取れる挨拶をすると奥から人が出てきた。恰幅が良く小奇麗にしている男だ。

どうやらここの番頭のようだ。


「いらっしゃいませ。この度はどんな御用向きでしょうか。戦闘補助の奴隷でもご購入ですか?」


番頭が言うには、戦闘補助の奴隷というのは、この世界では結構ポピュラーな存在だそうだ。

税金の額が高額なこの国において奴隷身分に落ちる者は少なくない。

そもそもの税金は各地の領主が取り立ててそこから国に納めるという制度を採っているために、

私腹を肥やす領主がほとんどである。

そして奴隷になればその税金が軽減されるという、奴隷推奨のような制度も大きな原因なのだ。


シンジの印象では、今まで会った奴隷は大事にされており、住み込みのメイドのような印象だ。

奴隷を大事に扱わなかった者は噂や事件発覚など経て、そのこと知れ渡ると二度と奴隷を買えなくなる。

奴隷は商品ではあるものの、価値が非常に高いものだからだ。

誰だって綺麗なネックレスをすぐ壊すような者に最高級品、二つとないネックレスは売らないだろう。ネックレスは綺麗に着飾るために購入する。粗末に扱って装着もできないネックレスはまったく価値も意味もない。


生きていてこそ役に立つ。役立てるために奴隷を買うのだから、暗黙の了解というやつで、粗末に扱う者に売買はされなくなるものなのだ。

ただ、ファシズムのような政治がまかりとおっている国家ではこの限りではないそうだが。


「実は相談があって。まずはこの子をみてくれ。この子をどう思う?」


シンジはルミの背を押して番頭の前に立たせる。


「この子は?」


「奴隷として売られたが、すぐに誘拐されたルミという女の子だ。そして問題ないなら僕がこの子を買い取りたい」


買ってしまえばだいたい全部自分の思うとおり。シンジはそう思っている。実際はそんなに簡単ではないのだが。


番頭はすぐにルミのカードを確認し、たしかに所有者の居ない奴隷で、自分の店で登録した者であることを確認する。


「この者は私どもの店で登録し、誘拐された奴隷でございます。それにしてもどうやって保護されたんですか。誘拐していった者たちはかなり手強かったとお聞きしていますが」


一応防衛はしたらしい。用心棒達が平均して強かったから、無理はしなかったのだろう。


「さあ。何かに襲われたんじゃないの? あたしがこの子に会った時は馬車の残骸の陰に隠れて震えていたわ」


ミカエラが後を引き取った。

運が良かったんだ。うん。しかたない。そういう雰囲気で首を縦に振るシンジ。


「わかりました。とにかく無事に戻ってきたのですから。それで、ご購入を希望されるんでしたね。足枷の腕輪はこちらで外させて頂きます。それから、その娘のお値段ですが金貨50枚になります。ですが、取り戻していただいたのでその御礼を含めて金貨40枚とさせていただきます。」


ゲームで言えば4億シリングといったところか。なかなかの大金だ。ゲーム時代は貨幣はアイテムでしかなく、それとは別に金銭が存在していた。

あまり価値がない状況だった貨幣はゲーム内では見捨てられていたがアイテム蒐集に血道をあげていたシンジはすべての貨幣をアイテムボックスにカンスト状態でストック。

無駄に全種類9999枚も所持しているのだ。

しかしシンジは宝くじが当たってだまされて無駄使いをして無一文になった男の話を半ば都市伝説のように聞かされていたので、それを簡単に使おうとは思っていない。

もちろん、こんなシチュエーションで使わない手はない。有用なお金の使い方だ。


「金貨40枚だね。わかった」


「ずいぶん法外な値段をつけるんだな番頭。あたしの記憶では通常の奴隷であれば金貨5枚でも高い印象だったが?」


ミカエラがさらにつっこむ。


(そうなのか。あまり値段がわからないなぁ。人なんて売り買いすること自体がなかったわけだし。)


シンジは不思議そうな顔をしている。あまり金額に違和感を感じているわけではなさそうだ。


「いえ、ご婦人。この娘は特別に力がありますのでこの値段なのです。本来であれば誘拐犯も自力で排除できるほど強い力があります。戦闘奴隷としての価値が高いのです」


(そういうものなのか。おっと、腕輪をはずしたな・・・サーチ。なるほど。レベル150だ。これなら確かにあの男たちよりも強いな)


「ふむ。たしかにこの力ならこの値段か。すまん、差し出口をしてしまった」


「いえ。さてシンジさま。お買い上げであれば代金をいただきまして、登録をさせていただきます」


金貨を40枚支払い、カードそれぞれに登録を行う。

取引BOXという装置を使い、登録カードに書き換えを行うのだ。

シンジのカードには”所持奴隷:ルミ”と追記され、ルミの所有者欄に”シンジ・スエナガ”という名前が刻まれた。


「ありがとうございました、シンジさま。どうぞルミを大事にお使いください」


礼を言う番頭に手を振ってシンジ達は奴隷商を離れた。

シンジ達はいったん落ち着こうと、宿に入った。

冒険者の酒場も兼ねるけっこう大きなところだ。看板には”ドラゴンの酒蔵亭”とある。なかなか豪快な屋号である。

酒場の奥のテーブルを陣取り、料理と酒を楽しみながらシンジがルミに告げた。


「さて。ルミちゃん。とりあえず家に帰っちゃっても良いよ。 どうせ僕は一人で旅をするつもりだったし、ルミちゃんだって家に帰りたいでしょ?」


しかし、ルミは首を横に振った。


「いえ。わたしはシンジ様の持ち物ですから。登録カードっていろんなところで見られるんです。奴隷なのに主人がいないと脱走奴隷かと疑われます。脱走奴隷は最悪な場合は処刑されると聞きました。奴隷たちの見せしめだそうです」


よくない。こんな美少女(美小獣?)が処刑されるなんて。


「買い取ったんでしょ。男の甲斐性を見せなさい、シンジ」


忠告するミカエラ。どこかからかう様な目で見てくる。


「う。そりゃ買ったけど。。。開放できると思ったんだ」


「甘いね。シロップトウキビの絞り汁くらい甘いよシンジ。世の中はそんなにきっちりしてはいないけど決め事、暗黙の了解の縛りはきっちりしすぎるくらいきっちりしてるよ。シンジはそりゃいいだろうけど、ルミの生活とルミを売った家族にまで迷惑がかかるってことをよーく肝に銘じるべきさ。奴隷を買うって事はそのぐらいのことなんだ。甲斐性がなきゃ買うんじゃない。すこしは見所があるかと思ったのに・・・がっかりさ?」


後から聞いたところによれば、奴隷は買い取った人間が手放す意思を持っており、かつ売主の奴隷ギルドに対して奴隷側が、奴隷代金を元本とした年利30%の借金返済を完済して初めて開放されるらしい。

買い手が独自に開放する場合は買い手が死後、遺言でのみ開放されるという取り決めがあるそうだ。


(頬が少し赤い。このおねーさん、酔っ払ってるんじゃないだろうな・・・?)


「わかった。ルミ、これから宜しく。僕のことは気軽にシンジと呼んでくれてかまわないから」


「奴隷に気軽に呼び捨てされるのがOKとかどうなのよ?」


「さすがに奴隷が呼び捨てはまずいです。シンジ様と呼ばせていただきます」


(ダブルパンチで怒られた。ルミはかわいかったけど。ミカエラさん。酔ってるせいか目が据わってます。まじでこわいです)


「ん? 何か言った? 明日からまた一緒に稼いでいくんだから、ちゃんとしてもらわないと困るよ?」


なし崩し的にミカエラもパーティに参加することで話がまとまってしまった。明日には必要なものを買出しして生活の準備をしないと。そうシンジが決意をかためつつ、夜が更けていった。


夜中。酒を飲まなかったシンジがベッドに入ろうと布団をめくると。何故か先客が居た。

耳が長くて尖っている・・・ミカエラのようだ。

薄手のネグリジェしか着ていない。そして、気のせいかミカエラの目は潤んでいるように見える。


「いらっしゃい、シンジ。ちょっと寝物語に付き合ってくれないかい。」


「自分の割り当て部屋の布団をめくったら既にミカエラが居た。超展開とかそんなチャチな(ry」


思わぬ展開にうっかり定型句をしゃべってしまった。ふと笑うミカエラ。


「なにか勘違いしてるな? そういうんじゃない。シンジが何か隠してるんじゃないかなって話なんだけど・・・あなたレベル隠してるでしょ。150レベルで【サークルプロテクション】が覚えられるはずがないからね。素人ならいざしらず、あたしはごまかせないよ。種族も多分ハーフエルフじゃないんじゃない? しってるかい? エルフって血族を大事にするんだ。そんでもって人間と結婚したエルフなんてここ100年いないのさ」


「・・・なんだ。ばれていたのか・・・でもさ、ミカエラもすごいレベルだよね。200って言ってたけど、ごまかしてるでしょ。【メテオライト】なんて600レベルを超えていなければ唱えられないもんね? なにをどうやったらそんな高いレベルになれるんだい?」


お互いに目だけが笑わない笑みを交し合う。


「・・・っはは、やっぱりご同輩なのか。使うスキルがどんなレベルで使えるようになるのかを見抜けるんだからね。VRMMOという単語を理解できたらこの先の話をしようか。プレイヤーさん?」


決定的な単語が出た。やっぱり巻き込まれたプレイヤーがいたんだ。

これまでそんな存在に会えたことはなかった。彼女は何を知っているのだろう。

そして分かることならば。僕はなぜこんなことになってしまったのだろう。


「なんでログアウトができなくなったんだろう。帰る方法はもうないのかな」


「・・・シンジはほんとうにプレイヤーなんだね。実はね。あたしはプレイヤーの記憶だけを移植されたAIみたいなんだ。シンジの元の世界のこともなにもわからない。ただ、自分が自然な動きが、感情があるAIの実験体だったということ、それからこのアバターと記憶はプレイヤーのものをコピーしたもの、ということしか覚えていないんだ。」


「AI・・・そんなものまで実装しようとしていたのか・・・」


「そうみたいだね。まぁ、そんなあたしもシンジの質問に答えることはできないけど、本来AIはプレイヤーを支える目的で開発されたものみたいだから、シンジのことはこのミカエラさんが支えてあげるよ。」


「過去を話せる人が居るだけでもありがたい。宜しく頼むよ」


「今夜はまぁ、そういうことを確認して伝えたかったんだ。さ、不安なようならお姉さんの胸でぐっすりお休み。」


ミカエラはそういうと既に涙を流していたシンジの頭をその胸に埋めさせ、子供に子守唄を聞かせるような声音であやしながら、やさしくシンジを撫で続けていた。


「もう、一人じゃない。 大丈夫・・・」



翌朝、3人そろっての朝食。まずはミカエラが切り出した。


「冒険者はいろんな仕事が請けられる。護衛もあれば遺跡を巡り宝物を発掘する仕事。それから魔物の退治や悪者の退治・捕縛なんかもあるね。唯一だめなのは交易だ。これは商人でないとやっちゃいけないことになってる。交易がしたいなら商人を仲間にしないとね。」


「いまシンジ様の仲間は冒険者と奴隷しかいません。受けられるのは冒険者の仕事だけですね」


「冒険するための移動手段はどうすればいいのかな。それと、実は交易もしてみたくて。それに見合った仲間もそれなりに増やしていろんな街に行ってみたいんだ」


(そう、どこかに帰る手段があるかもしれないからね)


「そうなの。それじゃ朝食が終わったら市に行こう。行商人の仲間を作るにはうってつけの場所さ。それとそこで必要なものも賄ってしまおうね。」


ミカエラの一言で3人は市場を目指した。

お金のこと


アラベスクの貨幣は以下のような体系になっています。


プラチナ貨-大金貨-金貨-大銀貨-銀貨-銅貨-石貨


VRMMOの時代は上記のような計算が面倒なこともあり、すべて石貨で

換算された「シリング」という単位で電子マネーちっくに取引されていました。

こちらの世界ではそのようなものがないため、貨幣がそのまま流通しているのです。


レートは以下のとおりです。


プラチナ貨=4大金貨

大金貨=25金貨

金貨=4大銀貨

大銀貨=250銀貨

銀貨=1000銅貨

銅貨=10石貨


大銀貨以上はあまり見かけることはありません。

シンジの場合、銀貨以上の貨幣を9999枚コレクションしています。しばらくお金に困ることはないでしょう。


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