第25話 「前触、準備を進めます」
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シャナディのギルドで報告をすることになったようです。
いまだ不明な大海嘯。準備は間に合うのでしょうか。
シャナディの冒険協会で、報告の用を告げた受付娘に案内された個室で待機していると、ロマンスグレーのオールバックが似合う、壮年の男性がドアを開けて現れた。
「待たせたようだな。俺がシャナディの冒険協会を束ねているガルシア・フォルターレだ。 ・・・む。そちらの令嬢は・・・。きっと、ちょっと一息ついた吐息ですら街が吹き飛びかねない、やんごとないお方なのだろうな。そんなお方も同席で報告ということは・・・なにやら込み入った事情がありそうじゃないか。とりあえずここで話してもらう内容は他には漏らさない機密とするから、話を聞かせてもらえるか?」
アウラを見て目を細めつつ話を促すガルシア。促されてシンジが話を始めた。
「僕はシンジと申します。では、早速お話させてもらいます。まず、クファンからシャナディに来る途中で沢山のさまようダンジョンが発生しております。」
「ふむ。まだ探索から帰還した者がいないから詳しく把握はしていなかったが、地下式ではなく塔の形のダンジョンが発生している噂は聞こえてきている。しかし、さまようダンジョンであれば生産物も増えるし俺達の仕事が増えるだけだから、取り立てて問題があるようにも思えないが・・・ましてや商人のおぬしがわざわざ報告に来るということだから、何か特殊なダンジョンなのか?」
「そのとおりです。普通の迷宮であれば僕も冒険協会にお任せで何もしないのですが、今回発生しているダンジョンはちょっと特殊な仕掛けを組み入れられた物のようなのです」
「ふむ・・・特殊な仕掛け・・・とは? 単なるダンジョンによくある罠の類ではないと?」
顎に手を当てて思案する格好のガルシア。出してきた疑問にアウラが答えた。
「そこは私から説明しましょう。アウラと申します。以後お見知りおきを。件の迷宮ですが、頂上に特殊な転移陣が施されていて、攻略が終わるとその転送陣が転移開始待ちの状態にセットされてしまう特殊な遺跡のようなのです。そうそう、既にお察しのことと思いますので申し上げますが、私は竜を束ねる長を務めております。長く生きておりますので、過去にこのような仕掛けも見た覚えがあり、今回もその仕掛けだと断じました。」
ガルシアはアウラの顔を見ながら「やはり」という顔で話を聞いていた。アウラの話に区切りがつくと期待をこめた眼差しでアウラに話しかけた。
「やはり竜でしたか・・・それで、なんらか対処方法もご存知なのですか?」
「現時点で判っている事はさほどありません。対処といっても応急的なものでしかなく、かのダンジョンの調査を一旦停止し、転移陣をスタンバイ状態にさせないようにすること程度です。それでも時がたてば勝手にスタンバイされるか、強力な魔物が湧き出す迷宮に変貌することも考えられますので、この転移陣そのものを破壊、もしくは阻害するものを探してこれに対処することを検討せねばならないでしょう」
アウラの答えに渋面になるガルシア。それでも、と期待を込めた眼差しをアウラに向ける。
「なるほど・・・。しかし、竜のお力があるならばこのダンジョンを貴女のお力で何とかできないものでしょうか?」
しかし、ガルシアの期待を込めた懇願も、目を伏せながら申し訳なさそうなアウラの返答で否定されてしまった。
「お気持ちは判るのですが、悲しいことに魔法の体系が違う者ではこの仕掛けを打ち破ることは難しいのです。ご存知のことと思いますが、魔法武器や魔法防具の類は破壊されることが無い、と言いますわね? あれは厳密には同系統の付与魔術であれば破壊が可能、という言葉がその後ろに隠されているのです。現存する破壊不可能な銘あり武具はその製法が失われたため、永遠に破壊方法が判らないものばかりですもの」
ガルシアはアウラの言葉にしばし手を顎に当てて考え込んだ後、もう一度顔を上げる。
「ではご令嬢は俺-私らヒューマンの魔術師を当たれば何がしかの道がある、と、そうおっしゃるのですね?」
アウラはそれに肯きながら答える。
「竜の使う魔術は血に刻まれた魔力に由来する魔術です。今回の塔のダンジョンの仕掛けは文字による陣が刻まれていますから、血に由来する魔術で対抗することは非常に難しい。ですから、文字で付与の魔術を制御するヒューマンの魔術師にあの塔に刻まれている陣の解析をお願いし、それを元に対処するしかないと思うのです」
しばし沈黙。
その沈黙を破るようにシンジが話し出す。
「ヒューマンにその知識がなければ僕たちがエルフの里に聴きに行かなければならないでしょう。もしくは魔法を破壊できる存在を探し出して塔に仕掛けられた魔法そのものを破壊するか・・・です」
シンジの顔を見ながらガルシアが真剣な顔をした。
「シンジ殿は・・・ハーフエルフか。排他的な思想を持つエルフは混じり者に強く当たると聞く。貴方にその願いを押し付けるのは厳しいだろう。ギルドにもエルフは居るから、エルフの里への用事ができたらその者に当たらせることにするよ」
ガルシアの言葉にシンジは肯き、キャラバンメンバーに顔を向けながら言った
「じゃあ、皆。今回の塔の対処はガルシアさんにお願いするとして、僕ら自身もここシャナディでしばらく逗留し、ガルシアさんの支援をすることにしよう。万一のときのためにクファンのミカエラにも準備をお願いするし、アムフルスにはオリビアに出向いてもらうことにする。」
シンジの言葉に肯く面々。そこへガルシアが声を掛けた。
「では、シンジ殿。これは今回の謎の塔の報告情報料として受け取ってくれたまえ。」
呼ばれて振り向いたシンジの手に結構な重さの袋が渡された。中を見ると数十枚の銀貨に混じって金属のプレートが5枚入っている。
「このプレートは・・・?」
「その金属プレートはギルドカードだ。シャナディの冒険協会が発行した物だよ。暫くはこの街で冒険者のような活動をするのだろうから、身分証明代わりに渡しておこう。内容は適当に偽造したものを準備できるから、あとで記載したい内容と一緒に一度冒険協会に提出してほしい。貰った内容で正式なギルドカードとして発行させてもらう。」
「いろいろとお気遣いありがとうございます」
「いやなに、クファンの商業組合の長とは旧知なのでな。有望株の噂はこちらまで聞こえていたんだよ。まさか竜までご一緒とは思わなかったが」
「あいや、アウラはたまたま途中で遭っただけ、なので正式なキャラバンメンバーではないですよ?」
「たとえ竜が仲間でなかったとしても心強い存在ということには変わりないさ。じゃあ、シンジ達には篭城戦に備えた食料の調達と戦のための武器・防具の調達をお願いしたい。必要であれば支度金を前金で渡してもいい」
どうやらガルシアは正式にはシンジのことを商人として扱ってくれるようだった。
「わかりました。食料は備蓄がありますのでそれを出来る限り供出しましょう。武器・防具は在庫を当たってみます。卸先はこちらの本部で構いませんね?」
「ああ。頼んだ」
「では。一旦失礼いたします」
冒険協会から出ると、早速シンジ達の作戦会議が始まった。
「直接的な戦闘での支援を求めてくるかと思ったらそうでもなかったね」
「わたしやアーシェラは戦闘のほうが役に立つのですが・・・」
「そこは奴隷らしくシンジを護衛しなさい、ということでしょう。冒険協会にもそれなりの人材も居るでしょうから、ホイホイとよその組織員の力を借りるなんてプライドにも関わる事でしょうし」
「ウチとしては商売で役に立つならそれに越したことはないと思うで。それと・・・積載している積荷も食料品やから、目的にもあっとるしな。」
「途中の食料ダンジョンで食料調達をする手段もとれるニャ。お魚だったらおいらの出番ニャ」
食料の供出については問題がなさそうである。
「武器・防具については宛がなくもないんだけど、やりすぎると危険な事になりかねない物が多くてね・・・」
「うーん。せやな。シンジはんがいま装備しとる装備品が普通に沢山あるんやったらどえらいこっちゃで。【鑑定】のスキル持ちでないと見透かすことはできひんと思うけど、品質も稀少度も能力も突き抜けすぎとる。な~んとなくしっとるけど、シンジはん反則キャラやしな?」
「そうなのです! シンジ様は強いのです!! ・・・時々護衛の意味があるのか自信無くしますケド・・・」
最初は勢いが良かったルミが話すうちにしょんぼり。シンジもうっかりが多いため、大体のことは身内にはバレバレであった。
「精錬素材用の一般品を引っ張り出してくればそれなりにはなるかな。数がどれだけ必要なのか判らないのが問題だけど。1から製造するのは材料と時間が無さ過ぎて無理だしなぁ」
「せやったらとりあえず武器防具を供出する代わりの報酬を、武器・防具の素材にしてもろたらどうなん? 鉄鉱石が欲しいとかいうとったやろ?」
「それも有りだな・・・多分、大海嘯が起きちゃったら素材不足のほうが深刻になりそうだもんね。素材もそれなりに在庫はあるけど、これからを考えたら沢山あって問題はないし」
実はシンジのアイテムボックスには鍛冶用の素材は沢山在庫があった。しかし、高レベル者の常なのか、レベルの低い素材は排除して高レベル向けの素材を潤沢に準備する癖がついてしまっていて、オリハルコンだの、アダマンタイトだの、ミスリルだの、一般に流出したら問題にしかならない素材ばかり沢山蓄えた状況だったのだ。時代に合わせた装備や道具の作成となると必要なのは鉄鉱石や青銅、銅などがメインになってくる。その在庫は”よろづ家”を強化するときに殆ど使ってしまっていた。
低レベル素材の武器・防具が沢山あるのは、VRMMOの仕様で”あらゆる武器を精錬するには基本武器を素体にしなくてはならない”という謎の仕様があったためだ。店売りで大量に安く買い込んでも差し支えなかったため、シンジは店売り品の武器・防具を種類ごとにカンストに近い形で持っている。
「じゃあ、今日はとりあえず馬車停泊所ににょろり達を休ませて、宿を取ろう。皆は今日はゆっくり体を休めて欲しい。明日から沢山働くことになると思うから。それで、アウラだけは馬車の転移陣で僕と一緒に”よろづ屋”へ戻ろう。いろいろ登録しないといけないこととかあるんだ」
「「「了解!」」」
「承知よ。じゃあ行きましょう」
宿は質素な作りの木賃だった。木賃宿に大部屋を押さえるとすぐにアウラとシンジで”よろづ屋”に転移する。
「ただいまっ! ミカエラ、オリビア、いるかい?」
転移先の地下室-浴室もあったりする-でばったり鉢合わせしたのは、風呂上りの二人の姿だった。
帰ってきました、クファンの拠点”よろづ屋”うっかり風呂上りの二人に出会ってしまったようですが・・・?




