第23話 「前触、大海嘯の足音」
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改めて旅に出たシンジ達の行く末はどっちだ。ではどうぞ。
「さて、この素材の回収が終わったら情報収集であのキャラバンに話を聞こう」
サンドワームに襲われていたキャラバンを助けるため戦闘し、あっさりと倒すことに成功したシンジ達は食材化するためにサンドワームを解体し終わっていた。ふと件のキャラバンのほうを見ると戦闘の音がしなくなったことに気がついたのか、襲われていたキャラバンの4人が馬車の陰から出てきたところだった。
シンジ達は彼らに近づくと声をかけた。
「無事でしたか?」
「いやあ、助かりましたよ。こんなところでサンドワームに街道で出くわすとは思っていませんでしたから。」
「こんなところ・・・ということはこの辺はでなければサンドワームが沢山出るところでもあるんですか?」
「そうですね、もともとこのあたりの砂砂漠は風化しきれない岩石が多く埋もれていて、サンドワームが移動しにくいらしいんで、すぐその辺に沸くことは少ないんです。まぁ、それでも乾季の発情期にもなると砂漠の表面でのた打ち回る求愛ダンスの挙句、この辺まで流れてくる固体があるようなんですけどね」
「そうなんですか・・・サンドワームは砂船でしか出会ったことが無い魔物だったから、ちょっと吃驚してたんです」
「普通は砂船くらいでしか遭いませんからね。」
「ええ。あのときラクム砂漠の砂船で出会ったときのことを思い出しますよ・・・」
ラクム砂漠は北の地方にある巨大砂海のことだ。VRMMO時代は岩礁もなく目が細かいので砂に船を浮かべ、帆船として航行する砂船が運用されている地域であった。砂虫もそのフィールドで登場することで有名なやたら耐久力があり固い魔物として有名であった。
「ああ、なるほど。エルフさんは知らないかもしれませんけど、最近は砂海砂漠がホラズムの方まで広がってきているんでラクムまで行かないこの近くでも砂船が運用されているんですよ。当然、街道を離れて航行しますし、砂海ですから砂虫にも良く出会うわけですが」
「ホラズム・・・アンキア方面の砂漠と三角州の地域か。なるほど、なるほど。それで砂虫も浮かれて暴れちゃった個体がこっちのほうまで流れてきてるわけですね。。。ところで、あなた方はこれからクファンへ?」
「そうです。シャナディからクファンに向かう途中でこれに襲われてしまって。でもエルフさん達が居て助かりました。砂海から切り離されてそうとう飢えた個体のようでしたから、私らだけではきっと全滅の憂き目だったことでしょう」
「間に合ってよかったですよ。そうだ、これも何かの縁です。この倒したサンドワームの一部をクファンの「よろづ屋」という店にミカエラというハイエルフがいると思うので、届けて下さい。シンジの名前を出せばわかるはずです。運搬料金としてお預けするサンドワームの1割を差し上げますので」
シンジが指差したのはサンドワーム1匹分の肉の山である。軽く500キロムにはなるだろうか。1割分もけっこうな量になる。
「承知しました。幸い積載場所はまだまだありますから、お安い御用になります。とはいっても助けていただいたお礼をこちらから渡さず、依頼の報酬を頂くのも恐縮ですが・・・それにしてもよろづ屋とは聞かない店の名ですが?」
「僕が先日開店させた旅人向けの保存食のお店です。今はシルバートラウトの燻製を販売していますから、良ければ買っていって下さいね。すこし高級なものなのですが、味は保障できます」
「そうですか。是非、お礼も兼ねて購入させていただきますよ。さて、そろそろ出発しないと野営地に着くまでに日が暮れてしまいます。皆様も先をお急ぎ下さい。ここまでの道すがらですが、先ほど襲われたサンドワームだけでなく、他の魔物の痕跡があったり、不穏な雰囲気が街道にありましたから、いつもより多くの魔物が発生している可能性が高いです。出来るだけ早く野営地に着いて魔除けの結界を張る事をお勧めしますよ」
「ご心配ありがとうございます。ここから先クファンまではとりあえずそんな雰囲気は無かったですが、用心に越したことは無いと思います。そちらもお気をつけて」
気の良いキャラバンと分かれたシンジ達は一路、シャナディを目指し街道を歩いていく。暫く歩いて小高くなった丘のような地形に焚き火のあとが沢山残っている場所にたどり着いた。野営地である。
野営地は、砂漠の街道を旅する旅人達が見晴らしが良く警戒しやすい場所を長年の情報の蓄積から探し出し、魔除けの結界を張るなどして安全が増すように代々作り上げてきた野宿場所である。
シンジ達もここに荷を降ろし、荷運びの動物達を馬車からはずすと、荷運びの動物達のために設えられた休憩場所まで連れて行き、エサと水を与える。与えられたエサを美味しそうに食べ始める動物達。にょろりなどは小さなおちょぼ口でもふもふと葉っぱを食べたりしていて見ていてものすごく癒される。
-後から思えばこのとき感じていた違和感があった。本来この野営地には先行して出発したはずの探索クエストを受けたキャラバンが野営をしているはずであり、シンジたちのキャラバンだけ、という風景にはならなかったはずなのだ。その違和感の正体は翌日判明することになる-
・・・
・・・・・・
翌朝。シンジが目を覚ますと、昇ってきた朝日が砂漠に聳える巨大な塔を照らし出していた。
「昨日、こんなのあったっけ・・・。そもそも地図にも載ってないし、野良ダンジョンにしては巨大すぎる気もするけど・・・」
ランダムに発生する野良ダンジョンは多くが地下に向かって育つ構造なのだが、このダンジョンは明らかに上に伸びる塔の構造である。良く見れば窓があり、数を数えると40は下らない。きっと40階建て以上なのだろう。そしてその麓に沢山の馬車が停められていて、朝食の準備らしき煙が昇っているのが見える。
ダンジョンアタックのためのベースキャンプなのだろう。
「おはようございます、シンジ様。あれは・・・ダンジョンですね。かなりの規模に見えますが、こちらにそんなものがあるとは聞きませんでしたね」
「うん。多分発生したばかりのダンジョンだと思うんだけど」
「はよーさん、シンジ、ルミ。お。ダンジョンやな。麓の未開発状態からしても最近発生したんやろな、あれはそれにしてもでかいな~。」
「ルチアもそう思うかい。まぁ、いまはアンキアを目指す旅の途中だから立ち寄らないけど、アイテム探し目的でそのうちに探索してみようかね。それじゃ、今日も元気良く出発かな!」
軽めの朝食を済ませ、シンジ達は出発した。シャナディまではまだ数日かかる。チート能力はあるにしても自分から危険に飛び込む必要は無い。余裕を持って次の野営地へたどり着こうとペースを上げるシンジ達の目に次の塔の姿が飛び込んできた。
「え・・・と。またダンジョンがあるな・・・こっちもでっかい・・・」
「規模はさっきのとあまり変わらん大きさやな。このあたりで遺跡群があるというような噂は聞かへんから、明らかに後から発生したダンジョンの類やろうな。」
「何か特別な事情でもあるんでしょうか?」
「調査のために一度くらいは中を攻略してみるニャ?」
シンジは寄り道をするつもりは無かったが、不自然なダンジョンの大量発生についてはなんらか確認しておかないといけないような、そんな気がしていた。
「そうだね。やっぱり気になるからどこか1箇所くらい探索しておいたほうがいいかもね。次の野営地まで進んで、近場にダンジョンが出来ていれば、そこを探索してみようか。」
そう決めてシンジ達が街道を進むことしばし。昼を少し過ぎたくらいで次の野営地にたどり着いた。そこには丁度あつらえ向きに、塔のダンジョンが発生していた。幾分小ぶりでおそらく8階層程度。情報収集のための探索はしやすそうだった。
・・・
・・・・・・
野営地で少しはやめの野宿準備を済ませると馬車とルチアを残し、ルミとアーシェラ、シンジの3人は塔を探索することにした。
「フロア内はそれほど広くないニャ」
「敵の強さもそれほど強くはありませんね。先ほどから虫や動物の魔物ばかりなのは気になりますけど」
「ドロップも食材系か素材系がほとんど。しっかり溜め込んでなにかに使うのも良いな・・・」
さくさくとドロップを集めながら2時間も探索すると塔の最終階にまで辿りつけてしまった。
「最終フロア・・・かな。やけに広い部屋だけど、何かあるのかな」
「床になにやら文様が書かれていますね。読むことは出来ませんがなにかの文字なのでしょうか」
「塔の天井はすぐ崩れてしまいそうな脆さだニャ。ところどころ外からの光が差し込んでいるから、多分、一部の天井はもう崩れているニャ」
広いフロアは塔の内径全部を使った一部屋になっていた。謎なのはやはり床に書かれた文様のみ。いろんなところをなぞったりつついたりしていると、それは突然始まった。
・・・ゴゴゴゴゴ
「ん? なんだ?!」
動き始めたのは塔の天井。時折崩れた瓦礫を落としながらも、部屋の中心から真っ二つ、左右に分かれて動いていく。ある程度動いたところで塔の外側へ落下していった。
ドォーン・・・
落下したあと天井だった石が地面に激突したであろう振動音が響く。ルチアを野営地に残してきて正解であった。そろって外の様子を見ようと塔の縁から身を乗り出した3人が目撃したのは地震のように揺れ始め、地中に沈んでいこうとするシンジ達が登って来た塔そのものだった。
「うお!? この塔、沈んでる! このままだとちょっと危ないから、浮遊で抜けるよ! <重力の鎖よりこの身を解き放て!>【レビテト】!」
浮遊の魔法を使い、空中へ逃れる3人。塔はそのまま地響きと砂煙を上げて砂漠に沈んで行き、最上階を地表に残して砂に埋まってしまった。すると最上階の床の文様が淡く光り始め、淡い光の柱を空中に出現させ始めた。塔の上に浮遊していたシンジ達もそのままその光に包まれてしまう。
「なんだろう、この光は・・・ただの光ではなくてかすかに魔力を感じるけど・・・」
シンジは魔法剣士だけあって、魔力感知の能力を持っている。その能力によればうっすらと感じる程度のほのかな魔力のようだ。
「他の塔も攻略するとこのようになるんでしょうか?」
「よく見ればさっきの文様から光が漏れているように見えるニャ」
「どうなのかは判らないね。アーシェラが言うようにあの文様があるダンジョンだったら光を発生させるのかもしれないし」
シンジも目を凝らしてじっくり見詰めれば、たしかに塔に描かれた文様が光っているようだ。そこまで確認すると、シンジはレビテーションの効果があるうちに塔から少し離れた位置に着地した。地上から見上げるとはるか上空へうっすらと光る光の柱がよく見える。あたりが薄暗くなればもっとしっかりと見ることが出来るだろう。
「とりあえず野営地に移動しよう。ルチアが心配してると思うから」
探索を終えたシンジ達が急いで野営地に戻ると、騒ぎの割には落ち着いて寛いでいるルチアがそこにいた。
「おお、おかえりやで。なんや塔が崩れたなぁおもたらシンジはん達がふわふわ浮いとるのが見えたからな。心配はしてへんかったで」
「そうかそうか。で、ルチア。暗くなればよく見えるようになるけど、あの塔が沈んだところから光の柱が空に向けてそそり立ってるんだ。噂話とかで何か知っていることってないかな?」
「光の柱ねぇ・・・残念ながらよう知らんわ。古代遺跡かアーティファクトなんだろうけど、ウチは専門家あらへんからな。その辺りを聞かれてもよう知らんで?」
「知らないなら仕方ないか・・・状況を書き留めておいて冒険者ギルドとかに持ち込んであっちで調べてもらおう・・・かかわるとめんどくさいことになりそうな未来しか見えないから、報告だけでも良いかもわからんね・・・」
やがて野営地が夕暮れに包まれる頃。野宿のための焚き火を囲みつつシンジ達が砂漠に視線をめぐらすと、攻略した塔以外にもあちこちで光の柱がみてとれた。まだ数本ではあるが、ここより強い光を放つものもあるようだった。
「しっかりあちこちにあるようだね。夕食を食べ終わったらよろづ屋にに知らせを入れておこう。ギルドとかに連絡してもらって先触れになると思うし」
「そうですね。ギルドには知らせたほうが良いでしょう。それで、シンジ様は今後同じような塔に出会ったらどうされますか?」
「下手に刺激しないほうがいいような気もするし、座標だけ書きとめてスルーしよう」
「せやな。さっき見せてもろた感じやと、内部もあまり美味しいドロップが無いみたいやし。一応ウチらは次の街への行商の途中やしなはよ街に着いたほうがええやろ」
「うんうん。さ、今日はもう寝よう。火の番と夜警は僕がよろづ屋へ連絡を入れつつやっておくから、皆は休んじゃって。」
焚き火の火を小さくし、結界を張り、シンジを残してルミ、ルチア、アーシェラは就寝する。シンジは焚き火の番をしつつ、伝書鳩用の手紙をしたため、念話でミカエラとオリビアに連絡を入れる。
<<・・・ということで変な塔があちこちに発生してるみたいなんだ。>>
<<何でしょうね。私の知る限り竜の伝承にもないものですが>>
<<巷で噂の”大海嘯”に絡んでるんだろうけど、シンジはそのへん、昔のイベントとかのことを覚えていないの?>>
<<あの時代だと・・・夢幻の塔というイベントはあったけど、こんなにあちこちに沢山出るものだったか覚えていないんだ・・・あと、大海嘯とはなんの関係も無いイベントだったし>>
<<白銀の竜様にでも聞いてみますか?>>
<<安易に神様に頼るのもどうかな>>
相談も行き詰りつつあったそのとき。ふと名前を出した瞬間、轟音とともにそれは光臨した。
<<呼んだ? 喚んでくれたのよね!? そーれ!! 私! 参上!!>>
強引にこの場に転移してきたのは巨体を誇る白銀の竜、その人だった。
こんなところでフラグ回収です、白銀の竜様。
その巨体は既に大海嘯より問題がありそうなのですが・・・
次回もご登場の予定です。




