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      閑話休題 「よろづ屋のとある一日」

シンジ達が少しの間外出しているときのお話。

ある日のよろづ屋の一日。


AM.5:30。まだ空気が冷たく、ようやく昇った朝日がその日差しを地上に届け始める時間。

よろづ屋に残ったメンバーのうち一番早起きなのはチロだ。今日も一人起き出してきて、朝食の準備を始める。軽快な包丁捌きが奏でるトントンという小気味良い音がよろづ屋の一日が始まる合図のよう。

暫くすると音に起こされたのかミカエラとオリビアが寝室からキッチンへ降りてくる。


「おはようございます、チロ」

「おはようございます、オリビアさん、ミカエラさん」

「ふぅわぁぁ・・・・おはよ、チロ。今日はいつものモーニングブレッドに軽めのスープってところね。」

「はい。モーニングブレッドには先日市場で買った蜂蜜を塗るとおいしい、と教えていただいたのでそのつもりです」

「うんうん。じゃ、出来上がるまであたしは地下室の整理を少しやっておくから。」


今朝の朝食のメニューを確認すると書斎へ向かうミカエラ。


「私は妹さん達を起こしてきますね。起こして時間があればお店のほうを軽く掃除しておくわ」


水を一口飲んでから階段を戻っていくオリビア。


「チャロは寝起きが悪いので宜しくお願いしますね」

「承知しましたわ」


寝坊界のラスボスは最後に取って置くとして、まずはアカネとミルファの部屋から訪問する。


「おはようございます、二人とも。朝ですわよ」

「んー? もう朝・・・? おふぁようございます、オリビアさん」

「はっ。朝? おはよう、オリビア、さん」

「おはよう。さ、着替えたらご飯の前にお店を少し掃除しておいてね。私はチャロを起こしてきますから」

「わかりました」

「ん、了解」


わりと寝起きが良い下の姉妹に指示を出すといよいよラスボスにとりかかる。


「おはようございます、チャロ。朝ですわよ」

「zZzZZZzzzz・・・・」


オリビアが声を掛けながら室内に踏み込むと、布団を蹴飛ばし、枕を抱き枕にし、ベッドの上で寝相も悪く眠りこけるチャロの姿があった。着ている服も裾がまくれ、それはもうはしたないことになっている。


「あらあら、やんちゃな姿で熟睡してますわね。さ、チャロ、朝ですわ。起きましょう?」


優しくチャロの身体を揺さぶって起こそうとするオリビア。暫くゴロゴロとベッドの端から端をイヤイヤをするように逃げ回っていたチャロだったが、追い込み漁のように端に追いつめて逃げ場が無くなったあたりで目を覚ます。


「え? あ? おはようございます? 」

「やっと起きましたわね。さあ、朝の準備が始まりますから起き出して下さいな。チロが朝ごはんを用意してくれていますわよ」

「は、はい。すぐに行きます!」


あわてて準備を始めるチャロを残してオリビアが階下に降りていく。

キッチンでは朝食の準備を終えたチロがダイニングのほうへ食事を運び並べ始めていた。

ミカエラとミルファ、アカネも席についており、あわてて降りてきたチャロがそれに合流し、朝食が始まる。


「チャロは困り果てるほどは寝起きが悪いわけじゃないんだけど、寝相は悪いのね」

「えっと・・・すいません、ミカエラさん。そんなに五月蝿くしていましたか?」

「大丈夫ですよ。夜中に五月蝿い訳ではないですし。朝の姿にちょっと吃驚するくらいで。時々アクロバティックな寝相になっていますものね」

「そうなのよね・・・オリビアさんの言うとおり、ベッドから半分落っこちた状態でも寝てるってなかなかすごいわよ? 一応、戻してから朝食の準備に向かうのだけれど、呼びに来たときに見ると戻ったはずの姿勢からすぐにいろんな格好になっちゃうものね?」

「うう・・・恥ずかしい・・・///」

「まあ、チャロだけ皆と違う仕事をしているから、疲れ方が違うのかもしれないし、ね?」


こうしてにぎやかに朝食を食べ終えると7:30。屋上の燻製装置から昨日仕込んだ燻製の完成品を売り場に運ぶ仕事が待っている。ミルファとアカネの仕事である。

ミカエラも協力して商品を並べ始める頃、チャロが商業ギルド職員の制服を着て出発していく。


「いってきまーす!」

「「「「いってらっしゃーい」」」」


元気だけが取柄と思われていたチャロだが、手に職をつけようと見習いとしてギルドで働き始めたのだった。読み書き・計算を覚えればチロに続き会計が出来る人材が増える。チャロとしても村で役に立ってみたい。そう思っての見習い参加だった。もちろん、ミルファとアカネもそんな姉に見習ったのか見習いが出来る13歳になったら見習いに出かける予定になっている。


残ったメンバーで燻製を陳列棚に綺麗に並べ終わったらいよいよ開店時間である。

ちなみに、ここ最近のよろづ屋は9:00~14:00くらいまでの営業がほとんどである。後ろが短いのは商品が売切れてしまうからであって、日によってはもっと短いときもある。


「いらっしゃいませ~」

「いつもの1匹干し燻製をもらえるか?」

「今日はおいくつにしますか?」

「そうだな、ランチの定食で人気が出始めたから奮発して10本包んでくれるかい?」

「毎度ありがとうございます! 10本で銀貨7枚です。」

「ホイ。んじゃ、また宜しく頼むわ!」


「こっちは半身のやつを5枚だな。ちょっとモーグルまで塩の引取りがあるんだ」

「はい、銀貨2枚と銅貨500枚です。塩の仕入れですか。消費量が増えてるんですか?」

「ほい、コレ。そうなんだよ。騎兵部隊を増やした関係で乗用動物が増えてな。草食系が多いもんだから塩の消費が増えてるんだとさ」

「そうなんですか。やっぱり巷の噂の”大海嘯”を警戒してるんですかね?」

「そうなんじゃないか? 俺達のキャラバンも出来るだけ徒党を組んでから出発するとか、冒険者に護衛をしてもらうとかの対策は取り始めているからな。」

「なるほどですね。はい、こちらが半身5枚です。まいどありがとうございます」

「おう、またくるぜ」


こんな調子で今日の販売は午前中で終了してしまった。

本日の稼ぎは銀貨80枚。4姉妹への日当は銅貨で800枚だ。だいたいこの数字で安定しているため、4姉妹の月給は銀貨で24枚ほどになる。


「はい、チロ。今日の日当分。いつもどおり好きに使っていいわ」

「ありがとうございます。では半分はいつもどおり貯金に回してのこりを4等分でお小遣いにしましょう。ミルファ、アカネ。とりあえず銅貨を30枚ずつあげるからね。残りはお部屋の貯金箱に入れておくわよ」

「「うん、ありがとうお姉ちゃん!!」」

「お昼ご飯までには一旦帰るのよ!」

「「はーい」」


お小遣いを受け取ると元気良く街中へと飛び出していく二人。最近はクファンに友達が出来たとかで、良く遊びに出ている。コミュニティが広がるのは非常に良い事だろう。


残った3人は転移陣を抜けてアムフルスへの干物の仕入れ作業が待っている。

ミカエラの認証で地下室の扉を開けるとアムフルスへ転移した。


「こんにちわ、今日も仕入れに来ました」

「おや、チロちゃんに皆さん。今日は少し多めの120匹水揚げされたから全部干物にしてるよ。切り身8割の一本が2割だね」

「じゃあ、全部買取で。このところクファンですごく売れてるんです。チロも頑張ってくれていますしね。代金はまたアルムさんに渡しておきますね」

「お願いします。このところお金が溜まり始めたので村の周りに堀と壁を作り始めたんです。やっぱり大海嘯の噂が出ていて怖いですからね。用心棒として冒険者も雇う計画です」

「なるほど。せっかく知り合ったんですから、何かあればあたし達にも相談してね。」

「ありがとうございます。いろいろお世話になって気にもしていただきまして。そうだ、ミカエラさんたちに一つ相談があるんです。ちょっとお時間いただけませんかね?」

「かまいませんよ。ウチのゲルにいきましょうか」


アルム村長からの相談。ミカエラの判断で済む事なのかは判らないがまずは聞いてみることにしたようだ。


「それで、ミカエラ殿。今はチロ達がお世話になっておりますが、時期を見て世話になる者達を変えていってもらっても良いでしょうか。やはり皆クファンに出たいものの、資金と伝手がないために見送っていた家族が多いらしいのです。チロ達の家族ばかり優遇するわけにも行かず・・・無理なお願いを重ねていることは承知ですが、何卒お願いします」

「リーダーのシンジが行商に出かけてしまっていますのでいますぐここでのお返事は出来ませんが、見通しは明るいと思っていただいて結構ですよ。雇うことは出来ないかもしれませんが、下宿できる部屋はまだ3つありますから、チロ達と同じように相部屋であれば6人はお預かりできるでしょう。転移陣の登録人数の規定値を超えるので、転移を利用することは厳しいですが」

「充分でございます。おかげさまで収入が増えたことで子供を新しく儲けた家族も多く、ますます働く場所が無くなっていくことが懸念されましたので。少しでも出稼ぎで新しい職を身に付けて帰ってきてもらえばアムフルスにも産業が発達していくと思っております」

「そういうお手伝いなら大歓迎です。シンジもきっと賛成するはずです。」


アルム村長の新しいお願いと買い取った沢山の干物を携えてよろづ屋へ戻っていくミカエラ達。

すぐにシンジに念話で連絡をつけ、了承を貰うことになる。次の街シャナディに到着したら形式上の面接と寝床の準備のために一度よろづ屋へ転移してくる予定とした。


その頃、屋上ではチロが燻製作成作業を進めていた。やり方・コツを段々と覚えており、最近はチロとミルファあたりは一人で作業をこなす事が出来るようになっている。素材さえ揃えばアムフルスに帰っても作業できるようになるだろう。


「チロ~? ご苦労さん、任せ切りにしていて御免ね。残りは手伝うわ。すぐに終わるでしょう?」

「あ、はい。お願いしますミカエラさん。後この最後のセットを燻したら味を落ち着かせる寝かせの行程だけになりますから、ストックに運ぶだけになります」

「了~解。そういえばチロ、村長からここに出張する人をもっと増やしたいって相談があったけど、一応増やす予定だから。ほとんどはよろづ屋で働くというよりもクファンの他の所に働きに行くことになると思うわ。チャロみたいにね。皆にもお知らせしておいて貰えるかしら。」

「わかりました、けど別に夕食のときに話をしても良いのですが・・・」

「まだ決まりじゃないから、ね。噂程度にそうらしいよって聞かせて反応を知りたいのよ。何も問題なければそれでいいの」

「そうですね。そのつもりで聞いておきます。さ、燻しが終わったみたいですからここの後始末をしてストックへ持って行きましょうか」

「ストックへ持ち込み終わったら今日はちょっと街へ出かけましょう? おいしいデザートが新発売された、という噂を入手してあるの。いつものあのカフェだけど、焼菓子に凝り始めたらしくてね。一緒にいきましょ?」

「はい、ぜひ!!」


チロとミカエラは事務所で書き物をしていたオリビアまで巻き込むと鍵をしっかりかけてカフェに繰出して行った。



・・・

・・・・・・



夜。魔改造を施された地下室の片隅に裸の付き合いをするために女性陣が集まっていた。


「しかし、シンジもいつの間にこんなものを作りつけていったんだか」

「地下室がやけに広くなったなと思ってシンジ様に問い合わせたら「あ。うん、作っといたから自由に使って」とのことでしたし」

「お風呂なんて王侯貴族だけの楽しみと思っていましたけど、こんなに広い湯船も含めて魔法があればいろいろ出来るんですね」

「シンジ以外は多分いろいろ出来ないと思うわよ・・・地味に地下室自体も拡張してるみたいだし、ほっとくといろいろ自重しないでやらかしそうね・・・」

「はぁ~♪ でも、いいじゃないですか。ご主人様に雇われていればこんな良い特典が次から次に貰えるんですもの」

「まぁ、そういう考え方もあるか・・・チャロ、他では他言無用だからね。面倒ごとしか起きないから」

「わかってます、わかってます。でも、はぁ♪ これはやめられませんねぇ~♪」


湯気が外に漏れないように設えられたゆったりした温浴施設で寛ぐ6人。こうしてよろづ屋の一日は暮れていくのであった。



いつもご覧頂ありがとうございます。


ちょっとだけ未来時間軸でのお話でした。

次回以降でまた旅のお話が語られる予定です。

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