第21話 「木材を求めて」
いつもご覧頂ありがとうございます。
今回は少しだけうかれたオリビアさんと町探しデートです。
狐人4人娘がやってきた。作業する人も増え、屋上の設備も増設し。
スモークチップ用の木材が不足する懸念が増え始めていた。
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4人がよろづ屋にやってきた翌朝。朝食が終わるとやけに生き生きした様子でオリビアがシンジの腕に組みついてきた。機嫌がいい。「デート、デート」と喜んでいるのもオリビアとシンジが二人で出かけるのが白銀の竜の一件以来、久しぶりだからなのかもしれない。
ふたりは転移門を潜り、以前にシンジが転移アンカーを打った白銀山脈の麓に出る。たしかに広葉樹もそこそこに生えており、探せば良い木が見つかりそうだった。
「さあ、シンジ様。たしか竜の街の近くの集落はこちらだったはずですわ。住んでいるのは竜神官と名乗るヒューマンの方達だったはずです。竜の街には竜に強者と認められたものしか入れませんから、竜の街に入る程度ではない、熱心に竜を奉じる人たちが集まっていると聞きました」
「誰かに聞いたんだ?」
「ええ。ドラゴニートの一人です。門番の補佐をしているときに、門に入れなかった人間がそう語ったそうですわ。いつかお越しになってほしい、という伝言も一緒に預かったということです」
「そのお願いは変な形で叶うわけになるんだな・・・まぁ、オリビアもなにかありがたい言葉の一つでも掛けてあげてね」
「下手に私の身分を明かすと困るのはシンジ様のような気がしますが・・・」
「ん? そう思うなら隠したままでいいけど・・・」
おしゃべりしながら広めの獣道らしき道を暫く歩くとすこし開けた場所に木造の小屋が並んでいるのが見えてきた。どうやらここが集落のようだ。
「ん~。わりとしっかりした木造の建物なんだなあ。木こりとか大工とか頑張ってそうだね」
「あ、あそこに人がいらっしゃいますわ。向こうを向いて何か作業をしてらっしゃるのかしら」
「ほんとだ。第一村人発見。こーんーにーちーわー!!!」
相変わらずのノリで声を掛けるシンジ。吃驚して振り向いたのは修道服?に身を包んだ女性のヒューマンだった。シスターの服装といえばわかるだろうか。髪も覆うあのフードをきっちり着込んでいる。
「こんな辺境までお越しとは、なにかお困りでしょうか。宿と少しばかりの食事でしたらご用意することも出来ますよ」
「これはご丁寧に。ちょっとした行商で伺った次第です。この辺の・・・木材が必要でして」
行商で来た。その台詞を聞いているあたりでぱっちりとした瞳をさらに真ん円にして驚いているシスター。何か変なことでも言ってしまっただろうか。
「この地は気軽に行商が来られるような簡単な土地ではありません・・・街道からは遠く離れ、道などもなく、あるのはただ竜を崇める人とその住処だけ・・・そんな土地ですよ。あなた方も竜を崇めるためにお越しになったと思っていたのですが、違うのですね」
ここに到る途中の行程を端折りまくってしまったシンジ達が見落としてしまった現実がそこにあった。実際、この付近は魔物も徘徊、そこそこの実力者でないと太刀打ちが出来ない。キャラバンが隊列を組んで行進するような道幅もない。行商に来る、というのはいささか無理がある設定に見えても仕方がなさそうであった。
「いや・・・行商に来たのは事実なんですけどね。物を売りに来たのではなくて仕入れに来ただけ、という違いはあるんですけど。」
「こんな辺境でなにをお探しなのでしょう?」
「こういう木を探していまして。この周辺にありませんか?」
サクラ、クルミ、リンゴ、ブナ。その木の葉っぱや花、幹の特徴などを羊皮紙に書き込んだ百貨辞典を広げて見せた。
「立派な書物ですね。・・・このクルミとリンゴでしたら少し行った斜面に沢山生えていますね。特にリンゴは重要な食料源です。このクルミというのはよくリスが齧っていますので、リスを捕獲する罠として使います。この木は山中いろんなところに生えています」
リンゴとクルミはその実からすぐにわかったようだった。おそらくブナも問題なく生えていると思われた。この集落に来る途中にもそれらしい葉っぱが生い茂る木が何本もあったからだ。
「原木は問題なし、と。問題は切り出して利用していいのかということと、この集落でそれをやってもらえる人がいるかということだね」
「リンゴの木を切ることははご遠慮いただきたいと思いますが、木を切る仕事ができる人間はおります。それから、もしこの集落へ頻繁にお越しいただけるということであれば、是非生活必需品などを交換していただけたらと思います。」
「物々交換のほうが良いもんね。ここだと貨幣は使い道なさそうだし」
「そうですね、申し遅れました。私この集落の治癒術師をしておりますハチェッタと申します。皆も呼んでまいりますので、少しお待ちください」
集落の小さな広場でシンジとオリビアが待っていると10人ほどの女性が集まってきた。
「お待たせしました。この名も無い集落で暮らしております竜神官達です。私以外は名を捨てて竜を奉じるために生きております。ここが竜の住まわれる城に一番近い集落となります」
「女性しか居ないのはなにか理由でも?」
「竜神官になりたい者は女性が殆どです。男性は竜を倒し、その力を蹂躙しようとするばかりです。大地に恵みを生む力を求める女性は竜神官となって竜にお仕えしたいと思うのです。」
(オル、竜のほうはそんなこと認識してたの?)
(あまり聞いたことがありませんわ・・・地方伝説かなにかではないでしょうか。男性が力に訴えるのは良くわかりますが)
(アマゾネス、という集団の伝説があるけどそれの変形版のようなものなのかな)
「女性だけ、の理由はわかりました。竜神官は普段、具体的になにをしていらっしゃるので?」
「質素に生きて時折遠くに見える竜に祈りを捧げるのです」
竜神官の一人が告げた。信心深い者特有の真摯な姿勢が透けて見える立ち居振る舞いである。
ふと、オリビアが彼女に質問を投げた。
「竜に遭えたらなにかお願いするのですか?」
「大地に恵みを生むその力を分けていただけたらと思っています」
「竜が持つのは強大な蹂躪の力と言われておりますが・・・」
「竜に恩寵を受けし者は精霊の力に満たされると聞きました。竜神官は皆それを夢見るのです」
シンジがなんとなく頷く。その話は竜の城のクエストで限界レベルを突破する下りが説明されたスクロールの中に記載があった。要は限界突破のクエストのことなのだろう。
「竜が与える恩寵・・・たしかに、竜は気に入ったモノにその恩寵を与えると言われますが」
オリビアは自分自身になぞらえて頷く。シンジに恩寵を与えたい、という想いがオリビアにあるからだ。
「なるほど・・・。ハチェッタさんでしたっけ。竜に遭って恩寵を貰えると良いですね。それで、物々交換の件ですけれども、僕らはここにブナの木とクルミの木を切りにきますから、そのときに宿を提供してください。御代として欲しい物を言っていただいて、それを次回に持ってくることにしましょう。」
「ありがとうございます。さし当たっては塩と香辛料がなくなって久しいので、それをお持ちいただけると助かります。その後は衣類でしょうか」
かなりぎりぎりの生活を余儀なくされているらしいことが判る言葉だった。シンジは手元に手に入れたばかりのモーグルの塩の棒があることを思い出した。
「塩の棒があるから、今日の宿代として渡したいけど、保存とか出来ますか?」
「大体のものは大丈夫なのですが、塩は湿気がひどいので長期保存は厳しいかもしれません。ありがたく頂きますが、1本の1/4で充分です。それ以上は湿気てだめになってしまうでしょう」
「保存用に瓶が必要か・・・とりあえず1/4本だけお渡しするね」
シンジは塩の棒を渡し、名も無き集落で一休みし、ハチェッタらに手伝ってもらってブナの木を3本程度丸木で手に入れると、オリビアとともに転移で工房に戻った。
「ただいま~、と。この丸木はここで乾燥させればいいとして、他にもいろいろ必要なものが出てきちゃったな。転移ばかりにも頼れないし、入手ルート構築を急がないと。」
シンジはひとまず入手出来る物、他でほしがられているものについて一まとめにするとともに、一度地図に起こし、地上運輸で輸送できるルートを確認してみることにした。
地図はVRMMOで初期に手に入れる白地図がある。地形はきっとそれほど変わっていないから、ここに今知っている情報を落とし込むことで見えてくるものがあるはず。
ちょっとうきうきしながらシンジはカリグラフィのペンを持ったのだった。
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白地図にまず書き込まれたのは出発の街ルカンド。そしてシュバリクとここクファン。塩の街モーグルも書き入れた。集落の扱いでアムフルスも書き込み、まずは現時点で知れているところは網羅できている。
「所在不明で描けないのが竜の街と名も無き竜神官の集落だな。竜神殿への転移座標はこの辺で、食材満載のさまようダンジョンはこの辺。」
さらに書き込みを増やす。行動範囲が南東に偏っていることが良くわかる図になった。
「あれ、シンジはん。地図なんてもっとったんやな。・・・かなり広範囲な地図やな。地形だけかかれとるけど、普通は街とその位置関係がかかれるだけが普通やと思うんやけど・・・また特殊なアイテムなんか?」
「やあルチア。お察しのとおりだよ。250年前のこの土地の地形と植生が描かれている地図なんだ。逆に街は描かれて居なくて、当時はこれに商人達が自分だけの販路を書き込んでいたものなんだけどね」
「250年前やと、多少は地形もかわっとるやろうな。西南部はこの地図やと緑の盆地になっとるけど、今は砂に飲み込まれて荒涼とした砂漠に変貌しとる」
「けっこう変わってきているのか。こっちの地図も見てほしいけど、街は大体コレであってるかな?」
もう一枚シンジが取り出したのはVRMMOで街の名前と所在が記されたほうの地図である。地形と街の場所、名前。それからアイコンでそれぞれの街の規模を示していた。
「こないなものもあるんやな。・・・あ、ほらシンジはん。既にモーグルがこの場所や無いで。」
見れば昔の地図のモーグルは中級都市でクファンのはるか東にあった事になっている。今は西の砂漠に小規模の町として存在している。
「地図はもう一度作り直しかぁ・・・まぁ、でも良い整理になったよ、ありがとうルチア。」
「どういたしましてや。それからな、シンジはん。実はウチからお願いがあって声をかけてん」
「うん? 出来そうなことなら頑張るけど」
「ここ数日で移動に関するシンジはんの異常な能力は判ったんやけど、実際交易をするのに馬車をつこうてやってほしいな、と。よろづ屋の裏庭でにょろとにょろりが暇そうに這い回ってんで。わんこらはおとなしく待っとるようやけど、悲しそうな目をしてる時があるねん。やっぱりキャラバンなんやから、彼らを使った商売を考えてほしいと思うとってな」
ルチアはシンジが気に掛けられなかったところまで心配してくれていたようだった。シンジは後で彼らを思い切り構ってやることに決めて、また地図を睨む。
「うん、やっぱり地道に移動をしながら地図を完成させよう。詩にも聞いた<人の交流が線を成しやがて絵になるだろう>というのを実践してみるのも悪くない。」
(なによりクエストが未完了で沢山残ってそうな気がするしね)
「それがええで。丁度、雇った狐4人娘もスジはええときてる。半月もすればよろづ屋を任せることもできるやろ。チロは商業ギルドで商人に登録してもええくらいできるから、申請しとくわ。売り物が増えたらまた雇えばええし、旅の空からでもここには帰って来れるんやろうからな」
シンジはルチアの言葉に頷くと、とりあえず1ヵ月後にはまた旅に出ようという計画を立て始めた。よろづ屋には最近転移魔法を覚えたミカエラと、木材の取引をお願いするためにオリビアを残し、残りのメンバー、シンジ、ルミ、ルチア、アーシェラで旅を続けようと言うことになった。1ヶ月の間に各々訓練を行い、シンジもギルドで商売のイロハを習い・・・そして1ヶ月が経過した。
閑話休題に割り込んで掲載させていただきました。
これよりまた旅の空が待っています。
Go! East。東に向かいます。




