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第20話 「狐人、出稼ぎのこと」

いつもご覧頂ありがとうございます。

今回はアムフルスから出稼ぎに出てくる狐さんたちのお話です。


アラベスクの金の風は手広く商売をするには人数が不足していた。加工をする人員も少なければ、売り子も少ない。

商品仕入れの担当も必要だし、倉庫の管理も必要になってくるだろう。

”そうだ! よろづ屋で働いてくれる従業員さんを募集しよう!”

そういう意図の元、シンジはアムフルスへ向かって転移陣をくぐった。

アムフルスの細道を暫く歩き、アルム村長の家にやってきた。


「アルムさん? いらっしゃいますか?」

「おお、シンジ殿。おりますぞ。ドアは開いておりますから中へどうぞ。して、何用ですかな?」


小ぢんまりとした居間でなにやら紙を広げて書き物をしていたアルム村長がシンジを見上げた。

紙面には数字が書き入れられている。おそらく始まったばかりのシンジとの交易の結果を書き留めているのだろう。


「えとですね、以前働き手は居るから働き手が働く場所を紹介してほしいというお話があったと思うのですが。実は、僕たちがやっているお店のほうで人を雇いたい、という思いがありまして。せっかくなので協力していただいているアムフルスの皆さんを、と思ったのです。」

「おお、たしかに頼みましたな。シンジ殿がお願いする仕事とすれば・・・店の番ですかな? それとも家事か何かですかな?」

「そうですね、うちのキャラバンは人数が少ないので、できればいろいろこなせる方がいればうれしいです。」。

「ふむ。だが、クファンまでは距離があるからの。毎日朝から晩までとなると住み込み前提となりそうだが、シンジ殿のところは住み込みで働いても費用や設備は大丈夫かの?」

「宿泊場所については問題ありません。食事もまかないを作っていただければ給料のうち、ということでおだしできますよ。」

「なるほどの。・・・近々ではあるのだがな、一緒に漁を教えてもらったチコの家族の一部がクファンへ出稼ぎに出たいと言ってきておったのじゃ。チコには両親と上下に6人の姉妹がおってな。家も手狭、食い扶持もそれほどないということで誰かが出稼ぎに出る話になっておったらしいのじゃよ。幸い、チコが稼ぐようにはなったのじゃが手狭なのは変わらんからな。一度チコの家族と話をしてみるか? 今日は休養日じゃから両親もそろっておるじゃろう。場所はここから少し離れた村の反対端じゃ。」

「是非ご一緒させていただきます」


チコは投網を教えていて一番物覚えが良かった狐人の少女だ。上にも下にも姉妹がいて、いつもにぎやかだ、と話してくれていたことを思い出しながら、アルム村長に連れ歩かれること10分。チコの家に到着した。


「御免! カルケンはおるか?」

「おります、アルム村長。・・・こんにちは。今日はなにか御用ですか?」

「おお。こちらのシンジ殿がな、クファンで仕事をしないか、と持ちかけてくださったのだ。少々込み入った事もあるだろうから直接会って詳しく話をさせてもらおうと思ってな。今は大丈夫か?」

「はい、まったく問題ありません! シンジ殿もようこそ。少々汚い場所ですが中へお越しください」


誠実そうな狐顔の青年(?)に促されてカルケン家の玄関をくぐる。程なく居間になっており、チコを含む7人の狐娘がぐるりと座っていた。


「あ! シンジさんだ!! こんちわ! お魚沢山獲れてるよ!!」

「やあチコ。よかったね、沢山獲れて。今日も夕方にはまた買い取りに来るから頑張って干したりしてね。」

「うん!!」


ニコニコ顔のチコ。元気いっぱいである。周りの娘たちも興味深そうにシンジのことを見ている。

カルケンさんはちょっと吃驚したようにチコとシンジの顔を交互に眺め、一つ頷くと口を開いた。


「ああ、チコに漁を教えてくださったシンジさんでしたか。あらためてお礼を。ありがとうございます」

「いえいえ。チコちゃんはスジが良いので教え甲斐がありましたよ。それにこちらとしても良い食材を沢山ご提供いただけることにもなって、商売の上でも大変助かっております。ありがとうね、チコちゃん」

「うん!!!」

「・・・さて、挨拶はそのくらいにして仕事の話をしようかの。カルケン、家族も話にまぜるか?」

「是非お願いします。出稼ぎに関しては家族会議で決めることと思っております。長く離れ離れになるのが必定ですから、それなりに覚悟が必要です」


クファンからアムフルスまでは普通に徒歩で歩けば2日はかかる。毎日通うことが不可能な以上、カルケンの覚悟は妥当なものなのだろう。


「では、シンジ殿。仕事の内容と報酬、それから待遇についてカルケンに説明してやってくれないか」

「わかりました。まず、仕事の内容ですが。チコちゃんに頑張って作ってもらった魚の干物とか塩漬けとかオイル漬けをうちの店舗で売っていただく仕事が一つ。それから干物はさらに手を掛けておいしくすることで商品価値をあげているのですけど、その加工作業が一つ。最後にうちのまかないをやっていただく仕事の全部で3つです。」

「意外と手軽な仕事ですな」

「そうですね。それから報酬ですが、日払いで店の売上の1%をお支払いします。ちなみに食費はそこに含めていません。必要経費なので外食さえしなければ全てこちらで持ちます。宿代も同様です。部屋は6畳の部屋が複数余っているので、2部屋程度でしたら自由に使っていただけます」

「何人かでお邪魔して3つの仕事をしても全員で売上の1%なのかな?」

「そうですね。仕事の出来高ということではそうさせていただきますが、加工作業とまかない作業は短い時間しか拘束しないと思うので、それ以外はうちを宿としてもらって、そこから出かけてクファンの街中で掛け持ちの仕事をしてもらって構いません。ただ、うちの店番だけは必ず誰かにやっていただくことが前提です。」

「なるほど。仕事が少ないときは別で働いても良いということは嬉しい条件だな。そうだな、店番は計算も出来ないといけないだろうから、神殿で計算を教えてもらっていたチロとチャロ、お前達二人に行って貰いたいのだがどうだろうか?」

「承知しましたわ、お父様。ほら、チャロはどうなの?」

「チャロも行きたいです! そういえば・・・シンジ様の家はお屋敷なのですか?」


獣人なので歳がわかりにくいところはあるのだが、おそらく成人であろうチロは20歳くらいだろうか。まだ幼さの残るチャロは13歳とのことだった。計算能力を見込まれたこの二人が選ばれたようだ。


「うん、お屋敷といえばお屋敷なんだろうね。ああ、そうだ大事なことを伝え忘れていたけれど、アムフルスにあるうちの拠点とよろづ屋は転移陣で繋がっているんだ。だから、2日もかけないで帰って来ることができますよ。ただ、転移陣は頻繁に使うと魔力が枯渇しちゃうから毎日の利用はだめだけど、週末なんかは手軽に里帰りできる。転移陣に登録された人しか移動できなくて、登録人数も10人くらいしか記憶できない仕様だから、誰でも行ったり来たりすることはできないけどね」


アルム村長もカルケンも吃驚顔で固まっている。転移陣は貴族が所領を行き来するときに使う程度の非常に高価で希少な設備だったからだ。


「なので、今生の別れ、みたいなことでなくても大丈夫ですよ」

「そうか・・・詳しい追求はしないほうが得のようだから深くは聞かないけど、もしそれを使わせてくれるのであれば、できればもう二人追加で住み込みをお願いしたい。こっちのチャロの妹にあたるアカネとミルファだ。まだ責任を持った仕事はさせられないとは思うが、丁稚のようなものとしていまのうちから仕事を覚えさせたくて、な。下のアカネは11歳、ミルファは10歳になるし、アムフルスではもうすぐ一人前の年齢なんだ」

「ええ、かまいませんよ。よろづ屋は結構広い店構えなので、従業員がそれなりに居ないとらしくないですから。4人も売り子兼家事の人が来てくれれば、僕としても手を広げることが出来るので助かります」


こうしてアムフルス村から4人がよろづ屋の従業員として雇われることになった。週に1度は帰宅が出来るということなので、特別な送別の会も持たないらしい。

家族会議が終わると、シンジ達は4人を連れてアムフルス拠点の転移陣に4人の固体識別魔力を登録した。ついでにカルケンの魔力も登録して何かあったときはカルケンもクファンに赴けるようにしておくことも忘れない。


「それではチロ、チャロ、アカネ、ミルファ。シンジさんのところでしっかり役に立つんだぞ。それと、週末は帰ってきてくれ。クファンの様子とか仕事のこととかを聞かせてくれると家の皆も喜ぶと思う。」

「大丈夫ですわ、お父さん。シンジさんのことはチコから良く聞いていたし、何の問題もありませんわ。」

「頑張ってくるのですよ」


すぐに会えるとはいえ、別れは別れ。4人を抱きしめて目に涙を浮かべる母親の姿を見てシンジの胸にも迫るものがあったのだった。


「じ、じゃあ、とりあえずクファンに行こうか。よろづ屋の住み込み部屋の準備もあるし、キャラバンの皆への顔合わせもしてもらわなくちゃならないからね」

「頼みましたぞ、シンジ殿。このアルム、アムフルスの代表として重ねてお願いいたします」

「ええ、頼まれました。大事な娘さんたちでしょうから、大切に預からせていただきます」


こうしてアルム村長とカルケン一家に見送られて5人は転移陣の向こうに消えて行ったのだった。



・・・

・・・・・・



「はい、到着~。ここが秘密の地下室です。基本的に立ち入りは僕の許可が要る場所なので気をつけてね。帰宅のときは声を掛けてくれれば案内するから。じゃあ、皆に顔合わせだ。2階のリビングまで行こうか。あ、持ってきてもらった魚はそこの白い箱に入れておいてね。箱の中は冷たいから気をつけてね」


冷蔵庫に干物を一時的に保管する指示をして、2階へ向かう。リビングには寛いでいるミカエラ、ルミ、ルチア、アーシェラ、オリビアが居た。


「ただいま、皆。この4人が今日から一緒に住み込みで働いてもらえることになった従業員です。さ、自己紹介をお願い」


自己紹介は古参のメンバーから始まった。


「あたしはミカエラ。ハイエルフで、”アラベスクの金の風”キャラバンの副隊長。魔法剣士だよ」

「わたしはルミ。シンジ様の奴隷です。狼人です」

「ウチはルチア。人間で商人や。キャラバンの財布係もかねとる。あんじょうよろしゅうな」

「おいらはアーシェラ。猫人だニャ。獣の神の巫女を始めたばっかりなんだニャ。よろしくなんだニャ」

「オリビアです。人間でシンジ様の妻をしております。」

「「「「えっ!?」」」」


自己紹介で真面目な顔で爆弾発言をしたオリビアを皆で見つめる。オリビアはすまし顔をちょっとだけ傾けたりしてニコニコとするだけだった。


「まだオルは妻候補、だから気にしないで。修行中の花嫁というところね」


ミカエラの説明もなんだか怪しい。さすがに竜の姫と名乗るわけにはいかないから仕方が無いが。

気を取り直すように4人娘の長姉が口を開く。


「えと、私は狐人のチロです。読み書きと計算ができます。職業には就いていませんので無職です。歳は20になりました。」

「チャロはチャロです。13歳でチロの妹です。得意なのは元気いっぱいなところです。よろしくおねがいします!!」

「アカネはチロとチャロの妹です。12歳です。読み書きと料理のお手伝いをやっていました。宜しくお願いします」

「ミルファ、10歳、末っ子。お掃除、できます。」


まだまだ堅い雰囲気の8人。これからいろいろ打ち解けていけばいいかと気楽に構えることにした。


「知ってるとは思うけど、僕はシンジ。キャラバンのリーダーをやってます。じゃあ、4人によろづ屋の中を案内してやってくれるか、ルミ。その間に4人が住む部屋を整備しておくから。2人部屋を2部屋用意するからそのつもりで。」

「わかりましたシンジ様。さ、皆さんいきましょうか。結構広いので驚かないでくださいね?」


ルミの先導で1階から案内が始まるようだ。その隙にシンジは2つ6畳間を選びそれぞれ2つずつ質素なベッドを置き、姉妹達が眠れる場所を確保した。

ルミの案内が一通り終わり、最後に姉妹の居室の紹介である。


「ここが君たちの部屋です。2部屋とって、それぞれ二人部屋にさせてもらったけど大丈夫かな?」

「家よりもずいぶん広い空間ですね。ベッドも綺麗なものを用意していただいてありがとうございます」

「部屋割りはどうしようか~?」

「こら、ミルファ。二人は一緒の部屋にはさせませんからね。うるさくしちゃうでしょ」

「はぁ~い・・・」


して今日はひとまず解散となった。いい時間でもあるし、来たばかりの4人は早めに休んでもらいたい、という意図もあった。

解散したあと、シンジは一人書斎に行って一人お茶をすすっていた。


「所帯も大きくしたことだし、商売を広げないといけないな。とりあえず次はオリビアの実家の傍でチップ用の木材を集めて、その後にトルナノグあたりまで遠征して野菜を仕入れるのもありだな。。。昔のままのトルナノグならば。ミュール高原まで行けば放牧をやっているだろう。酪農製品を仕入れるのもありだな。保存食以外だと防具関係はクリエイトできるし、キャラバン相手には良いかも。思いつく売り物はこのくらいか。」


つぶやくシンジの肩にそっと手が置かれる。見上げればミカエラがそこにいた。


「悩んでいるのね・・・良いことだわ。そうそう、シンジ。一つ不安要素があって相談に来たの。昨日売り子の手伝いをしているときに噂が聞こえてきてね。”大海嘯”の兆しが出ているらしいの。アムフルスのような小さい集落はもちろん、ここクファンも無事ではすまないかもしれないそうよ。」


大海嘯とはVRMMO時代に長期の休みがある期間、ゴールデンウィークなどにイベントとして開催されたモンスターの大量発生・即沸き状態のことである。特に夏休みは酷く、バイオハザードのVR版がそこに繰り広げられて多くのプレイヤーに二度と化け屋敷にいけないトラウマを残したこともあった。その大海嘯がこの世界にもあるというのだ。


「ゲームのときはただ過ぎ去るのを待てばよかったけど、こっちではそうはいかないよね。きっとなにか原因があるはずだし、各地の探索と一緒に大海嘯解消のための探索ももやっちゃおうか」

「賛成するわ。今の世の中で生きている子達のレベルであれをどうにかするのは至難の業だと思うし。あたしは明日は大海嘯についてギルドで情報を仕入れてくるわね。交易に関してはこのままシンジが進めて頂戴。移動が必要ならアーシェラとルミを連れて行けばいいと思うわ。新人の子達の教育はルチアとオリビアがいるでしょうし。」

「うん、そうするよ。と、言っても明日だけはオリビアと二人だ。案内がオリビアしか出来ないからね。」

「木材を探すんだったわね。デート、頑張ってらっしゃい」


意味ありげに微笑んで背中に一発もみじをお見舞いしてミカエラは自室へ帰っていった。

やるべきこと。いますぐやること、長期でやらなければいけないこと。少しずつ整理が出来始めていた。



不穏なキーワード”大海嘯”。すぐに差し迫っているのか不明なままです。

そのうち伏線が音を立てて・・・・!! 埋もれちゃうかも知れませんけどね。

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