第17話 「燻製、作りますね」
屋敷の掃除もひと段落の兆し。
今回は燻製を作り始めたシンジ。ところで砂漠に燻製ってあるんでしょうかね・・・
翌日、シンジ達の屋敷では朝から工事業者が到着し、側壁の撤去を始めていた。売り場スペースに日が差し、店として久しぶりの息吹を取り戻して行く。入り口のドアには”近日開店! よろづ屋”という看板が掛けられていた。
「撤去工事はあたしが見ておくから、皆仕入れ調達に行っておいで、シンジ。皆の引率はまかせたわよ!!」
「了解!! ミカエラもよろしくね!」
いよいよ店としての設営準備はOK。あとは商品の仕入れ作業である。ここはルチアの意見を聞くべきところ。ぞろぞろと皆を連れながらルチアに確認していく。
「ねぇ、ルチア。僕が前に店の真似事(MMOでの露店)をしていた時はね、材料は自力で調達、加工、販売が基本だったんだけど実際はどんな感じなの?」
「ええとやね・・・自力調達でもかまへんけど、せっかく漁師とかおるねんから契約して取れた魚を買い取るか、市場で購入したものを二次加工して販売する感じがええんとちゃうかな」
「でもこのへんの漁師は既に契約は一杯なんじゃないでしょうか?」
ルミが心配して意見をしてくれる。しかしそのあたりはルチアも折込済みのようだ。
「ルミはんはよう理解っとるな。クファン市壁内の漁師はもうだめやろうな。ありえるとしたら少し離れた土地の漁師になるやろうけど、当然田舎やから装備が貧弱であまり良い魚は手にはいらん。輸送コストとの見合いで新興が手を出しづらい構図にならざるを得ない情勢やね。」
「ふむむ。装備が良くなれば田舎の漁師でも良い魚を捕ることが出来るのかな?」
「魚の居場所を探る腕自体はそこまで差があるとも思えへんからいけるんとちゃうかな? あとは、モノが生ものだから輸送手段が大変そうやけどな」
ルチアの話を聞くとシンジはおもむろにアイテムボックスからそれを取り出す。
「漁に関しては・・・じゃーん。投網~。刺し網~。定置網~。このぐらいあればどうかな!!」
この世界、魚は銛で突くか一本釣りをするかタモ網で掬うかくらいしか漁法がない。シンジが持ち出したのは高性能な糸がないと実現できない漁具ばかりであった。
「コレ、どないして使うん? 用途がさっぱりやけど・・・」
「まさか・・・定置網は別にして投網とか刺し網まで知られていない道具だったとは・・・」
「まぁ、ためしに自分達でやってみましょうよ。実力を実感すれば漁師に薦めることも出来るでしょ」
「そうだね。午前中の仕事はこれで終わりにして、昼を宿で食べたらその足でアリア川をすこし上ってそこで網を打ってみよう」
「「「「賛成!」」」」
最初は観光だけの雰囲気だったオリビアも会話に合流し、ミカエラを除く一行は一路、アリア川の上流へ繰り出して行ったのだった。
・・・
・・・・・・
「さて。現場のルチアさん、現場のルチアさん。今日は何処に来ているんですか?」
「それはもうええて。」
ルチアのツッコミを貰いつつ、シンジ達はアイテムボックスから取り出した小船をアリア川に浮かべ、その上で漁の準備を進めていた。とりあえず投網から試すことにして。
シンジは田舎の川遊び教室に行ったことがある投網の経験者だ。VRMMOにおける漁のスキルは【魚釣り】しかないから、投網はシンジ自身が持っている経験がものを言う。
シンジは投網を慎重に構えるとゆったり流れるアリア川の瀬になっている部分目掛けて網を投げた。横長の楕円を描いて網が川面に落ちる。プロとまでは行かないがなかなかの腕前のようだ。
「網を投げてしまって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。ほら、網にロープが付いているから、川底に網が落ちるのを待ってゆっくり引き寄せていけばいいんだ」
シンジは一緒に乗り込んだルミの不安にそう答えると、ゆっくりと網を取り込んでいく。引き上げた網には沢山の小魚と銀色に輝く大振りの魚が3匹かかっていた。
「小さいのは・・・有象無象過ぎて訳わかんないな。大きいこいつはマスかな・・・【サーチ】、シルバートラウトという名前みたいだね」
「大きいですね・・・1メルテ(約1m)くらいありますよね。簡単に捕れるものなんですね」
「多分、このあたりの漁師だと難しいんじゃないかな。シルバートラウトは生餌しか追わないから、見たところルアーも無いここだとタモ網で運がよければ捕獲できるだけだと思うし」
シンジはそう言うと、もう一度だけ投網を投げ、沢山の小魚とシルバートラウトを全部で6匹捕獲し、岸に戻ってきた。
「ただいま。とりあえず魚はしっかり居るみたいだね。投網だけでも漁師さんに渡せば沢山の魚を捕ることが出来そうだ」
「この網、糸がめっちゃ細いけど、何の糸つこうとるん?」
「ナイロン、とか言っても知らないよね。こっちだと・・・テンジクマダラ蛛というレアモンスターの出す糸から作れるね。糸嚢という袋を錬金術で加工すると出来るけど、はっきり言って網にするより防具にしたほうがいい糸だけど。」
「毛糸じゃだめなんか? 毛糸だったらすぐに手に入るで?」
「毛糸は水につけると伸びちゃったり縮んじゃったりするから向かないんだよね。水を吸うと重くもなるし、大きな網は出来ないんだ」
「そないなもんなんやね・・・」
大きな魚を6匹確保し、その場で血抜き・下処理を済ませアイテムボックスへしまいこむ。小魚はそのまま網に包んでやっぱりアイテムボックスへ。空間魔法ってば非常に便利。しばらくは自力捕獲で食材を確保する方向で固まりそうである。漁師はもう少しクファンに馴染んで、周辺を探索し終わってからで問題ないだろう。
「お。釣れたでシンジはん。釣りでも充分いけそうな予感がするな」
シンジから借りた釣竿をで岸から釣り糸をたれていたルチアもシルバートラウトを釣上げていた。どうやらこの付近はシルバートラウトの棲家らしかった。
「これはこんまま市場に持ち込んでなんぼ価値があるのかを調べてみよか? 干物の値決めとかはそれからのほうがええと思うし」
「そうだね。どうせチップとかも探さないといけないし、一度市場に顔をだしてみようか?」
ナツメヤシの木陰でうとうとと舟を漕いでいたアーシェラとオリビアを回収し、シンジ達は市場へと向かった。
・・・
・・・・・・
「らっしゃっせー。買取なら奥のカウンターですよー」
クファンにもどり、夕方の市場で魚を見てもらう。シルバートラウトは1尾で銀貨10枚程度の市場価格なのだとか。加工すれば手間賃も含めてもう少し儲けが出るだろう。小魚も何気にそこそこの値段がするらしい。こちらは1キロム(1kg)で銅貨100枚くらいらしい。
「割と高級品なんだね。シルバートラウトは燻製にしようと思うけど、小魚は煮干かなー。甘露煮でもいいんだけどパンには絶望的に合わないからな。。。」
「燻製ってなんや? 魚は日持ちをさせにくいからすぐ食べるか干物でスープの出汁にするくらいしか用途がないと思うんやけど。。。」
「そうか・・・そもそも魚が取れにくいのと木が少ないから燻製の文化があまりなかったか・・・」
通常、燻製をするときは木のチップを使うものだが、砂漠ではそもそも木を手に入れることが難しい。針葉樹ではヤニがきつすぎて良くないらしい。
ちなみに日本におけるメジャーな木材はヒッコリー、サクラ、クルミ、リンゴ、ブナ、オークといったところだ。
ちなみにVRMMOアラベスクでは料理好きな人たちのために”上手に焼けました”だけではなく無駄に料理のレシピやら材料やらがあふれていた。はるか東で採取されたサクラのチップなんていうアイテムもあったりする。シンジのアイテムボックス内に。それも大量に。
「いっちょやってみますか」
よろづ屋のキッチンに戻ってきたシンジは早速、保存向けにシルバートラウトの調理を始めた。
既に切り身になっているシルバートラウトに濃い目に塩をふり、乾燥させる。通常は寒い時間帯に干すことが望ましいので、砂漠の夜の間だけ外に干すのが望ましいが、時間が無いので竈の上に吊るして乾燥の魔法を軽く掛ける。
次にスモークをするために屋上へ行き、アイテムボックスから取り出したスモークセットを設置し、サクラでスモークをかけた。コレは純粋に時間を掛ける必要があるので3時間くらい放置することになる。
「本当はかちかちに乾燥させるために時間を掛けないといけないんだよね。大量生産をしないとすぐ売り切れちゃって厳しいかも・・・」
「それでしたら、今やっている手順で作れば2日程度に短縮できませんか?」
「・・・なるほど。オル、頭いいな!」
「それほどでも」
雑談をしながらの3時間が過ぎ、12切れあるうちの1切れを夕飯に供することにし、残りはストックに持ち込んで吊るしていく。1日もすれば味が馴染んで食べることが出来るようになるという寸法だ。
「じゃあ、夕飯に試食してみよう。小魚のフライとスモークサーモン、それとナンでいいかな? ソースはひよこまめの煮込みの残りがあったからそれを煮詰めて作ろう。
出来上がった夕飯はそこそこ人気だった。
スモークサーモンの風味もこの世界の住人の味覚に合うようで、アーシェラを中心におかわりはないのか、という懇願が相次いだため、急遽ストックからもう1切れ持ち出したほどだ。
スモークの原材料はアイテムボックスにはあるが、どこかで調達することも考えておかないと、この人気ぶりではすぐに枯渇してしまいそうだった。
「ルチア、行商で木材の特産品とかはないの?」
「建材と家具、食器としての木材特産品なら噂を聞いたで。その他になるとようわからんな。建材でも買い込みたいん?」
「いや・・・木材の質はやっぱり針葉樹なのかな?」
「白銀山脈付近での産出が主流ときいとるけどな。種類まではようわからん」
「白銀山脈付近なら・・・オルの実家の近所だな。あの時は気にしてなかったけど、行ってみる価値はありそうだね」
「シンジ様? 私の実家になにか御用で?」
「いや、木材の吟味にいきたいな、と。ついでにだけど、竜の街に転移する”石舞台”の近場に村とかはあるの?」
「竜を信仰する一族が近くに住んでいると聞いた事はありますが・・・私は直接お会いしたことはありませんね」
「ふむ。一度行って状況を確認する必要があるな。燻製の件がひと段落したら行ってみようか」
「はい。ご案内させていただきますわ」
シンジがスモークサーモンをきっかけに交易に想いを馳せていると、ふと他にも気がついたことがあった。
陶磁器はどうなってるんだろう。見たことは無い。ガラスもどうなんだろう。巷にあふれている武器は? 出所不明なものや、現実世界にあったけど、こちらにない物であっても組み合わせ次第で作ることが出来る物があるかもしれない。
「産業革命・・・はたまたシルクロードの再来か。人々が暮らす点を繋ぎ、この砂漠に今と違う絵を形作ることができるかもしれないな・・・」
かつて、シンジが知らない”アラベスクの金の風”が成したこと。それはまさに国興しという名の産業の創出であった。知らず、同じ道を歩み始めたシンジ。シンジが描く絵画の形がわかるのは少し先のことになる。
文化を創るクエストもあったとか。
卵を生産する農家とレモンを作る農家と芥子を育てる農家、そこへ油を生産する農家が合体すると!! マヨネーズが生まれます。 みたいな。
異世界ものでマヨネーズって大人気ですよね?




