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第10話 「拝啓、金の風様」

試練の幕開け。

竜が登場しますが・・・本作の竜はいわゆる中国型の竜をモチーフにしています。今回登場する都市も「崑崙」をモチーフに弄り回した結果設定された街です。

そのうちに街特集を描くかもしれません。


ではどうぞ。

「よいしょっと」


シンジが転移した先は砂漠の中心にそびえる巨大な岩山だった。


「ほんと、どうやってこっちの居場所を知るんだろうねぇ・・・」


シンジは一人でこの場所までやってきていた。シンジがこんなところまで一人でやってきた理由は1通の手紙がシンジ宛にそっと届けられたことによる。

その手紙は通常の手紙のように人伝てに来たものではなく、クファンまでの道のりで、扉カタツムリの御者をしながら居眠りをしていたルチアの手にいつのまにか握らされていたものだ。

その手紙の内容はといえば、シンジに頼みごとがあるのだと言う。手紙には転移の座標が記入され、そこに来てほしい、と書かれていた。差出人らしき署名は”竜大公”という”漢字”が書かれていた。



・・・

・・・・・・



「シンジ様。この署名の文字ですが・・・何かの記号でしょうか?」

「ウチもこんなん見たことないな・・・」

「おいらも知らニャい・・・」


ミカエラとだけ「ごめん」とアイコンタクトをしたシンジは自分一人別行動をして、あとでクファンで落ち合うことに決めた。竜大公とくれば・・・MMORPGの頃、イベントでずいぶんお世話になった相手だ。そのものずばり竜族の王。1,000レベルを超える時のイベントで関わり、その後もちょくちょく関わる事になる魔物側勢力のひとつ。


「ちょっとした知り合いからの呼び出しみたいだ。転移石での転移も必要みたいだし、一人で寄り道してくるから、皆は先にクファンで待っててね。」


そういい残し、シンジは一路竜大公の棲む岩山へ向かったのだった。


「ここから暫く登ったところの転移陣で決められたキーワードを唱えることで街に転送されるんだった、よね・・・」


岩山の中腹、”石舞台”と名付けられた円形の広場。そこでシンジは昔教えてもらったキーワードを唱える。すぐに転送され、見慣れた竜の街の門扉が見える場所に転送された。

ふと、門扉の周りを見回したが、普段なら使いのチャイナ服ににた服装のドラゴニートがわらわらと居るはずなのに、見当たらない。やはり何かあったのだろう。


砂漠の中心の岩山、その中腹に位置する竜の街は昇り竜に門柱を飾られた入り口の門扉をくぐると下町として竜の眷属であるドラゴニートの集落がある。ドラゴニートはドラゴンに依存し、仕える存在としてそのままニートになってしまったのだろう、とプレイヤーが揶揄するほどこの街から外に出てこない種族だ。そんな亜人が住むこの下町は小規模ながらも市場などが立ち、訪れることが出来たプレイヤーはここでしか手に入らないアイテムの購入をするなど高レベルプレイヤーが中心ではあったが、にぎわっていた。

中心にある竜族の町、そして城をドーナツ状に囲む下町を過ぎ、中心に向かうと高さ10mくらいの本来の城壁が聳えている。この城壁の東西南北にある城門をくぐると、竜族の町に入ることになる。そこから先は竜のクエストクリアが必要で、許可証が無いと結界を通り抜けられない。


「やっぱり街中に人が居ない。皆何処に行っちゃったんだろ」


ドラゴニートの姿はやっぱり見当たらない。街が廃墟でないところを見ると居なくなったにしてもさほど時間がたっていないことが見て取れた。”暖かい・・・まだ遠くへは行っていないぞ!”状態とでも言おうか。


さらに歩き、竜族の街の門扉までやって来た。門は開けっ放しであった。


「無用心な・・・でもおじゃましますよっと」


たとえ無断侵入が見つかってもシンジはクエストクリア済みだから安心である。


「この辺もぜんぜん気配が無いな・・・あとは王城を目指すしかないか」


王城には最終城壁があり、出入りを厳しく取り締まっていたはず。外敵の侵入が原因ならもう少し荒れているはずだし、そこまでないのだから何かしらイベントが始まっているというのが妥当な見方かもしれなかった。


城の前に到着する。城内から不気味なうめき声が聞こえる以外はいたって平和な風景である。ちなみに門番のリザードマンはちゃんと立っていた。シンジは事情を聞こうと門番に声を掛ける。


「こんにちわ。呼ばれて伺いました、「アラベスクの金の風」シンジと申します。大公にお目通り願えますか?」

「ヨウコソ竜王城ヘ。大公ヨリ”金ノ風”サマガオ越シニナル事ハオ聞キシテオリマス。ササ、コチラヘドウゾ」


城門が開かれ、謁見の間へ通じる通路に案内される。謁見の間までの道中、あちこちの小部屋にドラゴニートの集団がぎゅう詰めになってなにか一生懸命作業をしていたのが気になったのだが。


「えーと。あの大量に集まっているドラゴニートは何かあったんですか?」

「ソレニツイテハ大公カラオ聞キクダサイ」


謁見の間で待っていると巨大なシルエットが現れる。竜大公であった。


「・・・本当に、久しぶりであるな、”金の風”よ。わざわざの足労痛み入る。実は困ったことが発生していてな、また(・・)、助けてほしいのだ。」


事情を聞くと、竜ダニという小型の魔物が発生して下町、竜族の街が汚染されてしまっているというのだ。竜族に好んで寄生する性質を持つこのダニは竜のあらゆる攻撃に耐性を持つという。昔のクエストにももちろん存在していた。


これを退治するには道が二つしかない。全てを探し出してミスリルの針で止めを刺して歩くか、取り付かれた竜を全て処分するか。


殆どのパーティは取り付かれた竜を全滅させて一緒に経験値を稼いだらしいが、シンジ達が所属していた”アラベスクの金の風”キャラバンは面倒な道を選んだ。本当にめんどくさかった。竜族、それこそドラゴニートの一体一体まで、丁寧に身体に付いたダニを退治していったのだ。延々繰り返される単調な作業。今でもトラウマに近い作業だったと記憶している。


「また、アレをやるんですか・・・でも、今は人手が足りなくてですね・・・」

「今はキャラバンかパーティを組んでおらぬのか? 貴殿の仲間であれば特別にクエストなしでの入城を許可するのだが・・・」


そういえば。このクエスト、地道なほうを選ぶとついでに達成されるクエストが結構あったことと、クリアの経験値がびっくりするほど手に入ったことを思い出した。先日もルミたちのレベルを超えるモンスター発生があったことだし、先を考えるとここでレベル上げをしておいても良いだろう。


ただ・・・そのためには竜大公を紹介しなくてはならず、そうするとシンジの過去を少し明かさねばならないだろう。


「まだ・・・待てるよね? ちょっと仲間を説得して連れてくる。それまでがんばってかゆみに耐えてくださいね?」

「ああ・・・承知しておる・・・が、急いでくれ。これは結構しんどいのだ・・・ドラゴニートたちにもなんとか対処をするよう命令しておるのが、付着初期の小さいものしか対処できないようでな・・・」


後ろ足で身体をかきむしるのを我慢しているのか、片足をピクピクさせていた竜大公の許可を得るとシンジはその場からワープした。行き先は目印を打ってある我らが扉カタツムリ、にょろりの幌馬車の中。中には何も入れないように指示がしてあった。


「ただいまー。皆いるかい?」

「あ、シンジ様」

「お帰りシンジ」

「zzz・・・」

「どんな按配やった?」

「ちょっと込み入った事情が発生してね。皆にも手伝ってほしいんだ。その前にいろいろ話しておかなければならないこともあるから、食事を済ませた後に、にょろりの馬車に集まってくれるかい?」


少し変な顔をしながらもうなずく皆+眠りこけているアーシェラ。

夕食は、横転トカゲのステーキだった。高級食材とまではいかないが、おいしい食事である。どうやらミカエラが気を利かせたらしかった。何かが始まる予感。それはシンジの告白から始まった。


「まず、僕の素性を少しだけ話しておくよ。えっとね、これから話すことはあまり一般に知られるとめんどくさくなるから他言無用、ここだけの話として聞いてほしいんだ。」


うなずく一同。皆、扉カタツムリが引いている馬車の中に行儀良く座って聞き耳を立てている。


「そもそも僕はこの世界の人間じゃなくてね。元は別世界の人間だったんだ。気が付いたらこの世界に居て、いまは帰り道を探している最中。何のことやら分からないかもしれないけど、まずはそういうものだと思ってほしい。」


ルミとアーシェラはなんのことやら分かっていない顔。ルチアはなんとなく気が付いていたようで(うなず)いていた。ミカエラは最初から知っているから(うなず)くだけだ。


「そして、先日もキラービーを一撃で倒したけど、実はスキルを沢山覚えているだけではなくて、レベルに関しても、たぶんここに居る誰よりも高くて、ルミ、キミの数倍は、ある。」

「えっ」

「数倍・・・」


ぽかんとした顔のルミ、難しい顔で考え込むのはルチア。アーシェラは目をキラキラさせていた。


「やっぱりあたしよりレベルは上よね・・・?」

(たぶん、もっと高い。ミカエラのレベルはいくつぐらいなの?)

(あたしは650。シンジよりは多分低いんじゃない?)

(そうだね・・・僕は1,000を超えてるから・・・)


ささやき声でレベルを明かしてくれるミカエラ。シンジはミカエラのレベルも今後のクエストの考慮に入れる。


「まあ、僕のレベルが高いのにも理由があってね。こちらの世界を縮尺したような体験をもう、5年はやってきて、そこで必死にレベル上げをしたからなんだ。こちらの時間に直すと100年以上は時間を掛けたかな。そこは死の危険も無かったからけっこう無茶をやっててね。」


話が突飛過ぎて想像が追いつかないのだろう。ルミ、ルチア、アーシェラはぽかんとしている。


「そのときはいろんな人に知り合ったんだけど、何故かこちらの世界でも、長命な人はそのときの記憶を持っているらしくて僕のことを覚えてて、顔が利くんだ。」

「その頃って何年前ぐらいなんや?」

「そうだね。この間の年代記の記述を見ると、すくなくとも300年いかないくらい前の話になるかな。」

「キャラバン群雄割拠時代って小さい頃に聞いたことが無いかな? あたしもその頃は現役でやってたから、昔話になるけど、その時代の人ってことね。いわば時を越えてきた昔の人、ともいえるのかな?」


ミカエラが歴史の補足をしてくれた。


「ああ、知っとるで。250年前の時代やな。今の王国の礎が築かれる前の話やから・・・歴史書に興味皆無なルミやアーシェラは知らんかもしれんね。」

「まあ、その時代は戦争に明け暮れていたから、スキル、武器、魔法、あらゆる物が猛烈に隆盛したんだ。(ゲームマスタ)の意向もあってモンスターも強力な者達が跋扈(ばっこ)してたね。」


現在は強力なモンスターの発生率は低いようだ。噂もそれほど聞かない。

ひとまずここまでの話は無理やりながらも皆分かってくれたようだ。


「それで。そんな時代からの知り合いから頼まれごとがあってね。一人じゃ手数が足りなくて厳しいから、皆に手伝ってもらおうと思ったんだ。手伝ってもらうに先立って何も教えないわけにも行かないから、ちょっと打ち明け話をさせてもらったんだよ。当然だけど、この話は内密に・・・」

「そ、そうなのですか・・・シンジ様は本当にすごいです・・・」

「ウチも専属にしてもろうたほうがお徳っぽいな。なんなら次の町でそのように契約しなおしてもええで? なんにしても今後ともよろしくや」

「アーシェラはいつでもシンジについていくニャ!」

「やっと普通にあの時代からのことが話せるわね、シンジ」


そしてここからが今回のクエスト、打ち明け話の本題、だった。


「えーと。それで。その、お願い事をしてきた知り合いなんですが。名前を竜大公と言いまして・・・」


ガタタッ


いっせいに席を立ち、目を剥くミカエラ達。


「「「「竜大公ぅ!?!? 」」」」


「あはは。や、やっぱりご存知?」

「ご存知? も何も。竜族の王じゃないの! 知り合いという以前に竜の生息域で人間が生きていけると思えないんだけど、大丈夫なの!?」

「せやで・・・でも鱗の1枚でも持ち帰れば大金持ちや・・・」

「「・・・」」


声も出ないのは獣人二人。竜族はこの世界の生態系の頂点に居る。人類なんて集団で束になろうが何しようが軽くそんなのぶっちぎって戦闘力なら堂々の1位だ。獣人族なんて基本的に神様として崇めてる。それほど強大な生命体である。それが知り合いというのだから・・・驚くというよりもはや呆れの境地に達してしまうのも無理は無いだろう。


「百歩譲って知り合いでええけど、頼みごとって何や? 人には限界というものがあるで?竜族でも困ることを言われても人類でどーこーできひんと思うんやけど・・・」

「うん、多分難しい作業じゃないから大丈夫。でもひたすらめんどくさい作業なのは確かだね。危害は絶対に加えられないという約束も取り付けているから、手伝ってくれないかな。僕一人だと終わりそうも無いお願い事なんだ。主に手数的な問題で」

「・・・詳しく教えてくれるかしらシンジ?」


かくかくしかじか。ミスリルの針で、超大量にいる竜族一人ひとりの身体に潜むこれまたたくさんの竜ダニをくまなく探して、全部つつき殺す果てしない作業について改めてシンジの口から説明をした。道具はシンジが持っている。裁縫スキルでも大量に消費するため、アイテムボックスに沢山予備を持っているからだ。

ちなみにVRMMOのときはガンシューティング型のミニゲームになっていた。


「えと。確かに簡単なお仕事なのですが・・・どれだけ居るんですか竜族?」

「竜族の総数は53万です。」

「・・・終わるの? それ。」

「ミカエラさん。だから、僕一人じゃ手に負えないんですよ?」


深いため息の一行なのであった。



・・・

・・・・・・



「と、いうわけで我々は今、竜大公の王城の城門の前に来ています。魔力やらプレッシャーやら大変なことになっています。」


マイクを持つ振りをしたミカエラがどこか明後日のほうに向かってレポートをしている。一同はこれから城門をくぐる許可を貰うための儀式の開始を待っていた。儀式の内容は城に入城するための後見人の竜と盟友の契を交わす、というものだ。


「ミカエラさん? それ、僕の十八番なんだから真似するのやめてよね・・・」

「冗談はええから。盟友の契っていうんやっけ? それはどこでやればええん?」

「うん。もうちょっと待ってれば、迎えが来ると思うから・・・っときたきた」


地響きを伴って開門される城門。中から出てきたのは綺麗なドレスに身を包んだ妙齢の女性だった。美人、超美人。ただし、頭には立派な竜のツノが生えていたが。


「遠くからご苦労様、”金の風”。此度手伝って頂くのはこの方々か?」

「はい。お久しぶりです銀龍姫。今はこの4人が僕のパーティーメンバーです。」

「あいわかった。此度の盟友の契の後見人は妾が務める事となったゆえ、略式ではあるがこの場で儀式を執り行いたい。」

「了解しました。さ、みんな銀龍姫の前に並んで」


おとなしく横一列に並ぶミカエラ、ルミ、ルチア、アーシェラ。少し緊張した表情が見て取れる。


「盟友の契は我ら竜族と特別な関係を示すために行われる。皆の者は利き手と逆手の甲を差し出すが良い。」


皆がおそるおそる左手の甲を差し出す。銀龍姫はそこへ鋭い爪をたて、紋章を刻んでいく。


「「「痛っ」」」

「銀龍姫の紋章とはなかなか良いものを頂いたね~、皆・・・」

「”金の風”、お主は金龍姫の・・・姉上の紋章を頂いておろうに。さて、少し痛い思いをさせておるが、もう少しで終わるから我慢せい」


今度は銀龍姫が自身の左手の薬指の先端を小さく切り、滴る血を刻み込んだ紋章の上にたらしていく。


「我と汝とは血で結ばれた盟友なり。種族は違えど輩として同じ道を歩む者としてここに契約を結ぶ。」


銀龍姫が言葉を唱えると紋章が光り、傷が癒えてしまった。傷跡も見えない。


「これで儀式は終了。この城門をくぐるときにその左手をかざすが良かろう。さすれば紋章の効力により門扉が開き、通行することが出来る。紋章無きものは城門が開かれていたとしても神龍のいかづちにより命を落とす、とそういう寸法なのだ」


ミカエラ以外の皆はぽかーんと説明を聞いている。いきなりそんな話をされても、というところと竜族そのものへの畏怖からだろう。


「銀龍姫、ありがとうございます。そういえば貴女は例の被害に遭っておられないのですね?」

「そう。あの虫が大発生したとき、妾はたまたま外出しておったから無事だったのだ。姉上も無事なのだが、政を支えねばならん立場ゆえ、ここへは来れんかったのだ。後で姉上へ挨拶をしておくのだぞ、”金の風”。楽しみに待っておられたからな」

「承知しました。さ、みんな。中に入ろう。これから忙しくなるよ~。」


通された奥の部屋。竜族の上位種が皆一様に顔をゆがめ、かゆそうにしていた。でっかいドラゴン顔だったけど。


竜ダニ退治は意外と手軽。ミスリル針に薬湯を塗り、ダニに突き刺すだけの簡単なお仕事である。ちなみにこのダニ、体長1cm程度と大きく、竜の吐くブレスや衝撃には異様に強く、生物界最強とうたわれる竜すら殺すと言われるほど竜に特化した耐性と吸血に対するしつこさを持つ。でも、そこは虫だけあって除虫菊の薬湯を体内に入れられるとあっという間にイチコロである。皮膚が分厚く耐性が高いため魔法金属であるミスリル製の針が必須ではあるのだが、退治自体はほんとうに簡単なのである。


<ぷすぷす、ぷすぷす。>

<ぷすぷす、ぷすぷす。>

<ぷすぷす、ぷすぷす。>

<ぷすぷす、ぷすぷす。>

<ぷすぷす、ぷすぷす。>

<ぷすぷす、ぷすぷす。>

<ぷすぷす、ぷすぷす。>


「これ、本当に地味ぃ~な作業ね・・・あたし達だけでやらされちゃって作業仲間が増えなければ一生終わらないところだったわ・・・まぁ、対象が500人程度で済んでいたことも大きいわね」


竜族は人化の術で人間に化けることが出来るのだが、この竜ダニがつくとあまりのかゆみに集中が続かず、人化できないのだという。そのため、竜ダニ大発生に巻き込まれると自力での退治は不可能に近くなるのだ。


「まぁ、一人救えば作業者が一人増えるわけだし、気合入れていこうか」

「ルミはわりと地味な作業でも平気です」

「ウチはこの虫の不気味なでかささえなければ割と平気やね」

「おいらはちょっと単調な作業が苦手ニャ・・・あっ、あぶない、また鱗刺しちゃうところだったニャ・・・」


退治した竜ダニの死骸はいったんシンジのアイテムボックスに封印している。仮死状態で復帰してまた取り付く、ということを防ぐためだ。

そして、そんな作業が延々と続き、16時間後には増えた作業者の支援もあいまって3割の竜族を回復させることに成功した。


「とりあえずいったん後は任せて仮眠を取ろう。続きはその後ということで・・・」


シンジの提案に1も2もなく。簡易に組まれたテントで深い眠りに巻き込まれる一同。夢も見ない深い眠りだったようで・・・目が覚めたら翌日になっていた。


「おはよう、”金の風”。良く寝ていたようね。やっと再会できたわ」


やはりこれも妙齢の竜角の生えた女性、綺麗なブロンドの髪をした女性が楽しそうにシンジの頬をつつきながら微笑んでいた。


「金龍姫か・・・おはよう。仕事のほうは良いの?」

「私だってたまには休みたいわ。午前中だけシルに代わってもらったの。」

「お迎えから政代行まで。金龍姫も銀龍姫も大変だ・・・」

「本当は、お迎えもおもてなしも全部私がやりたかったんだけどね」

「竜大公すらやられちゃってたんなら仕方が無いよ。そうだ、作業のほうはどうなったの?」

「いまのところ5割まで作業が進んだわ。死骸は封印袋に詰めているけど、これ以上は容量がないから、貴方の目覚めを待っていたのよ。」

「了解。ふぁぁああぁぁぁ! よし。いっちょ作業再開しますかね!」


疲れて眠っているミカエラ達をそのままにして、シンジと金龍姫の二人で作業場へ向かった。封印袋の中身をシンジのアイテムボックスへ移すと、竜人達は空いた袋を持って作業を再開。このまま作業を続ければ今日中には作業を終えることが出来そうだった。



・・・

・・・・・・



金龍姫も参加して、地味な作業も終盤。王族の竜ダニ退治にさしかかった。王族は高貴な身分なこともあって、身内か特別な者しか対応が出来ない。こんなタイミングまで対応してこなかったのはそれだけではなく、臣下を優先してほしいという、王の願いもあって最後まで我慢していたらしい。

金龍姫銀龍姫が退治の作業をし、補佐でシンジが手伝う。そうして竜大公の治療も終わったのだった。


「世話になった、”金の風”。お主がこの世界に居てくれて助かったぞ。我らだけでは退治の方法も知らぬし、対応しようと傍に寄った者から取り付かれてしまって、犠牲者ばかりが増えておったからな」


竜の姿のままシンジ達に頭を下げ、礼を言う竜大公。

丸二日をかけて竜ダニ犠牲者500人を救ったことになる。残りの者は感染拡大を恐れて国を離れているらしい。退治が終わったことを避難している竜達に伝令したので、そのうち戻ってくるだろうとのことだった。シンジが経験したときよりも犠牲者が拡大していなかったことも今回の作業が短く済んだ要因だろう。


「さて、此度の報酬についてだが、希望はあるか?」


竜大公の金の瞳が一同を見回す。急に言われても、シンジを手伝っただけの一行は何をお願いしていいのか困っている様子だった。


「”金の風”。まずはおぬしから言うと良いだろう」

「では。”プレイヤー”として”NPC”に質問します。このゲームから脱出する策はありますか」

「・・・”NPC”として答えよう。その情報は”月の女神”のみが知る。我らはそのことしか知り得ない。」

「では、”月の女神”の居場所を教えてください」

「それには別の試練を受けてもらわねばならぬ。此度の報酬とは別勘定だ」

「承知しました。では、僕からはそのほかにはなにもありません」

「他の者はどうだ? ”金の風”の仲間ということでもあるし、なるべく対応を考えよう」


竜大公にそう促され、最初に発言したのはルチアだった。


「僭越ながら申し上げます。ウチ-私は竜の鱗を1枚いただけますでしょうか。同じ大きさの金よりも価値があるというそれを商売のお守りとして頂きたいのです」

「竜鱗か。よかろう。これを持っていくが良い」


竜大公は体側に生える鱗から1枚、立派なものを剥ぎ取り、ルチアへ手渡した。直径は20cm程度。かなりの大きさである。ちなみに竜の鱗の中で最大のものは”逆鱗”と呼ばれる、喉元に生えた1枚である。竜大公のそれは直径が1mはあろうか。文字通り逆鱗に触れる者を竜は滅ぼしてきた。それでも大きな鱗を求めてやまない者たちは竜の骸をあさることもあるという。生きている竜から鱗を取ることはほぼ不可能であるためだ。


「逆鱗は無理だが、我の中で逆鱗の次に大きなものを選んだつもりだ。悪用はせぬよう頼むぞ。」

「ありがたき幸せ。一生の宝とさせていただきます」


大事に鱗を抱きかかえるルチア。嬉しそうだ。


「他の者はどうかな。そちらのハイエルフは希望など無いか?」

「はい。此度はあくまでシンジのサポートでございます。もし私の希望を述べさせていただくなら、シンジの願いを重ねてお願いいたします。」

「・・・あい、わかった。他におぬしがほしがりそうなものはこの竜の城にはないだろうしな。獣人ふたりはどうなのだ?」


ルミとアーシェラを見つめる竜大公。すぐにルミが反応した。


「わたしは鎧か剣をいただけますか。シンジ様の騎士としてふさわしい装備がほしいのです。無ければわたしも竜鱗をお願いします。」

「よかろう。では竜騎士の鎧をひと揃え与えよう。丈夫さと軽さを兼ね備えたものだ。金属ではないから錆とも無縁。うまく役立ててほしい」

「ありがとうございます」


のこるはアーシェラだったが。


「おいらは獣人の巫女でもあるニャ。巫女に役立つものなんて何かあるのかニャ?」

「獣人の巫女がなにをやっておるのかがわからぬ。ゆえに役立つものが用立てできるかはわからぬな」

「おいらおっちょこちょいだから、竜鱗を貰っても無くしてしまいそうなんだニャ。剣はほしいけど、シンジに「巫女の装備じゃない」って言われてしまったニャ。ほかにほしいもの・・・なにかあったかニャ・・・」

「剣か。竜巫女が持つ破邪の剣などどうかな。武器としての能力もそこそこだが、本領はその剣が神気を増幅する能力を持つことだな。魔法使いの杖に似た能力を持っている」

「!! そんニャいいものが・・・ぜひ、それをくださいニャ」

「あいわかった。では皆、希望の品は決まったな。”金の風”とハイエルフは後で月の女神について話すことがある。食事ののち、ここにまた集まるがよい」


竜大公の謁見が終わると、食事会になった。シンジの両隣を金龍姫、銀龍姫がばっちり押さえてしまっている。かいがいしく世話を焼かれるシンジもまんざらでなさそうな雰囲気。ところがどんより雰囲気が悪いのはルミとアーシェラの二人であった。


「シンジ様のお世話は奴隷のルミの仕事ですよ~。。。(机にのの字)」

「シンジ、でれでれしすぎだニャ。。。」

「シルビアもオリビアもちょっと落ち着こうか?! 飯は一人で食べられるし、ちょっとくっつきすぎじゃない!?」

「シンジ、私は許婚ですから、これくらい何も気になさらなくて良いのですよ?」

「えっ」←かたまるルミ

「ぶふぅ」←飲んでいたスープを噴出すアーシェラ

「ちょっ」←超驚いた雰囲気のミカエラ

「あらま~」←ジト目のルチア


竜大公は目を細めて優しげな笑みを浮かべていたりする。窮地に立たされたのはシンジだった。


ごごごごごごごごごごごご・・・・・


「えっと、皆? そんな目で見つめないで? あっ、新しいなにかに目覚めちゃうからやめてっ」


長時間掛けて「勝手に許婚を宣言されて、自身はなにも約束していない」と主張するシンジ。そんなことはおかまいなしにイチャイチャを繰り広げる両龍姫。にぎやかな食卓でのひと時はゆっくりと過ぎ去っていった。



・・・

・・・・・・



夜半。星空が輝くテラスに竜大公、金龍姫、シンジ、ミカエラが顔を合わせていた。

「月の女神に会う為には我ら竜の神官、「白銀の竜」の試練を受けねばならぬ。まずは白銀の竜にお目通りを願うところからはじまるのじゃ」


そういいながら竜大公は手に小さな白銀の円盤を取り出す。古びたそれには細かく文字が彫り込んであった。


「白銀の竜ははるか高空、竜の巣へ居を構えておる。そこへの転移門がこの円盤じゃ。これよりわしが起動する。ふたりで白銀の竜へ目通りしてくるがよい」


竜大公が呪文を唱えると円盤の上にたゆたう門が現れる。金龍姫も心配そうに見守る中、シンジとミカエラはその門を潜って行ったのだった。


「父様。シンジ様は無事に還ってこれるのでしょうか。」

「わからぬ。白銀の竜はわしらの祖。わしらではその意志なぞ想像もつかぬ・・・無事であればよいな」


空は変わらず星が輝く。はるか高空を見上げ竜の親子は祈ることしか出来なかった。



婚約者は金龍姫のほうだけです。銀竜姫は姉大好きなので、精一杯姉のためにあれこれおせっかいをしている、とそういうわけです。

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