第9話 「仲間、増えました」
新たな仲間が加わります。
砂嵐の季節が終わりを告げ、いくつかのキャラバンが移動の準備を始めた頃。
宿でゆっくり朝食をとっているシンジ達の所へアーシェラが突然、訪問してきた。
「シンジ」
「なんですか? アーシェラさん」
「おいらの嫁にニャらないか!?」
「お断りいたします」
いきなり意味不明の告白。アーシェラに何があった。
「だめよ、アーシェラ。シンジはあたしの嫁なんだから。」
「いやいや。二人して何で嫁にしようとしてるんすか。流行なんすか。そこんとこ詳しく」
「あたしは勢いで言いました。今は後悔している。せっかくだから旦那様と言えば良かったわ・・・」
「おいらは本気で言ったニャ。”嫁になる”って、ヒューマンのスラングでリーダーになってもらうって意味だって聞いたニャ?」
「ああ・・・うん、あれだ。きっとその人は嫁の人がとてつもなくしっかりしてるからそう教えたんだと思うよ・・・」
単なる嫁の尻に敷かれた旦那、ということじゃないか・・・ブラックジョークを教えるにしてももうちょっと・・・
「あら? ということはアーシェラもパーティに入れてほしいわけ?」
「そうなんだニャ。前のところは入ったばかりだったこともあるけどこの間の事件で独断専行したニャ。あれがダメって言われたニャ。追い出されて行くところもニャいし、神殿の司祭様にも言われたし、シンジは強そうだったから是非嫁になってほしいニャ。」
「えとね。アーシェラさん。”嫁になれ”はそのままプロポーズの言葉だから無闇に言うものじゃないと思うよ。さらに言えば男が女の子に言う台詞ね。あとリーダーになってほしいって意味はまったくないから。多分、それ、教えた人の冗談だから・・・」
「そ、そうニャのか・・・/// お、おいらは純粋にリーダーになってほしいだけニャので、そ、そういう意味で言った訳では・・・」
「あ、うん。どうせそんな事だろうと。パーティに入る分には問題ないよ。大神官様にもそう言われちゃってたし。食事の後で改めて自己紹介でもしようかね。あと、ギルドでパーティ登録をしに行こう」
「あ、はい・・・(色恋のほうはぜんぜん興味なさそうニャ・・・)」
なんとなくしょんぼり肩を落とすアーシェラ。何か悪いことを言ってしまっただろうか。
「おふぁようございます、ご主人さま・・・あれ? アーシェラ様? 何かご用事でも?」
宿の二階から眠そうな目をこすりながら起き出して来たルミ。まだ眠そうだ。そこへミカエラが状況を説明していく。
「アーシェラはシンジに嫁になってほしいそうよ(リーダー的な意味で)。シンジもいま(リーダーになることを)快諾したところ。ルミも(パーティーメンバーとしてアーシェラを)よろしくしてあげてね。」
【ルミに聞こえた内容】
アーシェラがシンジに嫁になってほしいとプロポーズした。シンジは快諾。ミカエラも快諾したから、ルミも優しくしてあげてね。
「ゑ? ええええーーー!? よ、嫁! ご、ご主人様~~~!!」
端折り過ぎですよ、ミカエラさん。ルミがすっかり取り乱しとるがな。まぁ、急展開過ぎて普通はそうなるな。
「ご、ご主人様はわたしを差し置いて、よりによって嫁になっちゃうなんて!!」
「やっぱり突っ込むところはそこですよねー。差し置く意味はよくわからないけど、嫁になるわけじゃないから安心して。ミカエラがいろいろ端折って説明しただけです。アーシェラがパーティに入るよって話だけ。」
なぜか頬を染めて下を向きもじもじしているアーシェラ。なぜもじもじするのか。ケモ度2でそれをやられると萌えちゃうじゃないか。
「そ、そうですか・・・よかった・・・」
隣を見るとなぜかルミまで同じポーズでもじもじしてる。こちらもケモ度2。ダブルでやられたらもふもふしたくなるじゃないか。
我慢できずにとりあえずルミのケモミミをもふもふ。うん、良い手触り。
「ル、ルミもご主人様を嫁にしたいです。宜しくお願いします!!」
「だから。なぜそうなるのかと。アーシェラもルミもちょっと落ち着きなさい・・・」
落ち着かせるために頭をなでながらの説得に時間はかからなかった。ただ、ケモミミのもふもふを充分堪能する時間であったことは言うまでもない。
軽く食事を済ませた後、ギルドでアーシェラをパーティ登録する。
郵便のあて先のようなものなので、簡単に済ませることができる。これでパーティは5人になった。
「へ~。そんなわけでアーシェラはんがいるわけやね。あんじょう頼みますわ。せや、シンジはん。行商用の特産品の買い込みはおわっとるさかい、いつ出発してもええで。今回は次の街で売る分とその先で売る分を合わせて銀貨20枚分くらい買いこんであるから、馬車がぱんぱんになっとる。移動は歩きになるから準備と覚悟をよろしゅうな?」
朝市から帰って来たルチアがアーシェラへの挨拶もそこそこに出発準備の状況を説明してきた。
「次に目指すのはクファンがええで。ルカンド、シュバリク付近で集めた毛皮とか乳製品、肉類、野菜類を高値で買ってくれるで」
クファンから先は地形と標高が変わるため、採れるものが変わってくる。それを各地へ運んで売るのが行商の役どころである。
「クファンか・・・この間立ち寄ったときには水位が下がって運河が使えなったけど、今度はどうだろう? 水運を使えばアリア川の上流・下流にもいけるね」
水運の基地でもあるクファンには船着場がある。シンジが前回クファンを訪れたときは運河の岸壁にひびが入る事件のために、そこから運河の水が漏水、充分な水深を確保できない状況のため船に乗ることが出来なかった。
「船を使うと料金が高いで。普通は費用を抑えるために陸路やね。急ぎなら船を使う手もあるけど」
思ったより値段は高いらしい。
物見遊山で船にのってみるのもいいのかもしれない。
「さあ、朝食が終わったら出発しよう。」
宿のチェックアウトも気もそぞろ。一行は街道を一路東に向かった。
・・・
・・・・・・
砂嵐の時期を過ぎた砂漠の街道はカンカン照りの日差しも厳しく、街道脇に生える草も枯れ色からすこし緑を回復させる兆しを見せている程度。
周りを見れば出発したばかりのキャラバンも多く、旅の安全はかなり確保されていると思えた。
「大きなキャラバンは備えている装備もすごいですね。単なる幌馬車だけでなく、大きなひさしがついていたり、幌そのものに紋章を縫いこんでいたり。わたし達も大きなキャラバンになったら紋章をつけたりしましょう!!」
「ルミは夢が広がってるわね。。。キャラバン自体はもう作ることも出来るけど、そうするとメンバーが沢山入ってくることになるかもしれないわよ? (きっと競争率が上がってしまうわよ・・・)」
後半戦からぼそぼそと内緒話のミカエラ。ルミの目も泳ぎ始めてしまった。
「キャラバンねぇ・・・申請しちゃう? 多分何の問題も無いよ?」
シンジがそう言うと途端に首をぶんぶん横に振り始めるルミ。
「や、やっぱりいいです! このまま小ぢんまりのほうが気が楽です!!」
シンジとしてはキャラバン化も考えてはいた。今のままではいつか来るお別れのとき、皆の生活基盤が危ういかもしれない。キャラバンを組んでリーダーを誰かに任せれば、裏方に退いたシンジが居なくなっても、生活の基盤は守られるはずである。
「キャラバンは税金をようさん取られるからあまりお勧めはできひん。もっと稼ぎがようなって初めて検討ができるんとちゃうかな。ま、まずは資金作りとコネ作りやで、シンジはん。」
ルチアは現実路線だ。たしかに、今の稼ぎではキャラバンの維持は危うい。シンジのチート財布を使うなら話は別だが、それだとシンジが中心から退く、という目的の本末が転倒してしまう。
のんびりとカーゴハウンドと扉カタツムリが進む。隣を歩きながらなのでもふもふなでる。カーゴハウンドは目を細めて気持ち良さそうにしているし、扉カタツムリは元気に目玉を振っている。
のんびりした旅路は始まったばかり。急ぐことも無いだろう。元の世界に戻る手立ても今のところ判らないままなのだし。
「鎧の上から外套を羽織る姿も少しは板についてきたかな? ルミ。」
「はい。盾も背中に背負っていますし、今のところ問題はありません。鎧も全身鎧から部分鎧に変更して頂いたので旅でも大丈夫です。というか私はこの方が良いです。」
試練で迷宮に挑んだときはとりあえず、ということでルミにスーツアーマーを着せていた。騎士らしくて良いのだけれど、動きにくい上に重い。ただひたすらに重い。
シンジとしても姿かたちを優先するより、戦いやすさを優先することにしてみたのだった。全身鎧は戦で戦うときの儀礼的なものだろうし、あいまいに残る記憶の中で、実際の騎士も普段の狩では鎧を着ていなかったらしいし。
「おいらのほうは見直し無しなのかニャ? この格好、スースーして落ち着かないのニャ・・・」
アーシェラはといえば趣味の巫女服。うん。何故か実装されていた。そしてアイテムボックスに思いっきりしまってあった。赤白を基本としてなぜか蒼白、翠白もある。2Pカラーですか。そうですか。
「ほんとはどんな服装が良いの?」
「ん~、旅をするならズボンに長袖、帽子をかぶってだニャ~・・・・」
どうやら川○探検隊ルックがお望みらしい。巫女とぜんぜん関係ないやん。まぁ、巫女はあの格好で旅とかしないからそれでいいのかもしれないけど。ロマンとか必要だよね? ね?
「何故か防御効果が高い装備だから、それで我慢しなさい、アーシェラ。それにしてもシンジもなんでこんな変な装備持ってたの? なにか特殊な性癖でも?」
ミカエラの頭に浮かぶ盛大な?エモーション。うん。服飾デザインコンテストで何故か暴走した一部のマニアが東○とかサ○スピとかいろんなところからそれっぽいのを大量投下した黒歴史の産物なだけなんだ・・・特に○方のほうはめちゃめちゃ種類がある。コレクターだから全部そろえたけど、自分で着る勇気は無かった。さすがに。
「あはは。知り合いのデザイナーが沢山譲ってくれたから・・・(ということにしといて・・・)」
ふとルチアを見ると御者席で舟を漕いでいる。遅くまで出発準備をしていたから疲れているのだろう。何故かゆれが少ない扉カタツムリのほうの馬車に座っている。最初から寝るつもりだったのかもしれない。
「ルチアはおとなしく寝てるからそのままにしておこう。昨日も遅くまで頑張ってくれたみたいだし」
しばらくは周りのキャラバンもあいまって安全な旅。野営地も若干窮屈ではあったものの、知り合いも増えてますます旅が楽しくなりそうな雰囲気だった。
そう。あの事件に巻き込まれるまでは・・・・
そしてまた巻き込まれるシンジ達。




