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Short Short Circuit

蟻と螽斯

作者: 境康隆

「読めねえよ。何だよ。アリと何だよ。何? キリギリスってか。はぁ? 何でキリギリスなんだよ。そこはセミだろ? アリとセミだろ? あの話は。俺がセミだからって、バカしてんのか? 何? この国じゃ、アリとキリギリスで伝わってるって? バカ言っちゃいけない。これはアリとセミの話だぜ。そう、俺達セミが主役の話のはずだぜ。何? セミがいない地域の為に、キリギリスで代用しただって。その国を通じて、この国にも入ってきたからアリとキリギリスだって? 脱皮して最初に聞かされた話がこれかよ。何だよ。一緒にすんなよ、セミとキリギリス。まるで違うだろよ。何? 何だって? それはそれで、お話になりそうだって? セミとキリギリス。いや、それじゃ共倒れだろ? セミもキリギリスも、どっちも優雅に夏を暮らして、冬には死んでいくってか? 何の教訓が残るだよ? 犬死にじゃねえか? 犬死にじゃ、ほ乳類だよ。俺達虫なのに。たく。で、何だっけ。そうそう。何で、キリギリスの野郎がこの国では大きな顔してんだ? 何々、キリギリスの澄ました感じが、後で痛い目に遭うのに丁度いいって? 二枚目が痛い目に遭うのが、堪らなく壮快だって? そりゃ、お前ら人間の個人的な憂さ晴らしだろ? 何? 三枚目なセミじゃ、いまいち叩くに叩けない。気の毒だと。悪かったな、気の毒な顔で。たく、アリとキリギリスだなんて。この不当を、どう訴えればいいんだ? どうやって、世間に知らしめればいいんだよ? おい、人間。教えろ。俺は地上に出たら、メスと添い遂げるつもりでいたがもう止めた。普通のセミの生活は諦めた。皆でよってたかって木に集まり、声の限りに鳴き散らし、木の汁を吸って生活する。そんなささやかな望みはもう捨てる。俺はセミ社会の礎となるぞ。この不当な状況を訴える為に、ささやかな幸せを捨てて世界と戦うぞ。これは本当はアリとセミの話なんだ。本当の主役は俺達なんだ。そう、俺達こそが本当の主役なんだって。そう俺は世間に訴える。セミの命は短いだろうって? 成虫はな。後悔するぞって? いや、俺は本気だ。短い成虫の生涯を、アリとセミの話の為に完全燃焼してみせる。で、相談だ、人間。どうすればいいと思う。セミの声に世間は耳を傾けくれるだろうか? 大丈夫だって? 元より人間は、セミの声にうんざりする程悩まされているだと。なる程、俺達元々声がでかいものな。何々? そこで、その声の大きさを生かしてみてはどうだって? どういうことだ? 人間は世に訴える時に、デモをするだと? 何だそれは? その時は、シュプレヒコールも取り入れるだと? それも何だ? それにハンガーストライキも有効だって? 増々分からん。まとめて説明してくれ。何々? 皆で抗議に集まって、大声で主張を叫び、粗食で耐えることで、人々の注目を引くのだと? なるほど。何だか皆が耳を傾けてくれそうだ。よし。俺がセミの仲間を説得する。皆でよってたかって木に集まり、声の限りに鳴き散らし、木の汁を吸って生活するぞ――という話を、お主としたのが丁度一ヶ月前だったな、人間。その通りやってみたのだが。何だか、先輩と変わらぬひと月を暮らしたような気がする。嫁もできた。子孫も残した。虫取り網にも追われた。しょんべんも引っかけた。お話は変わらなかった。後、俺は死ぬだけのような気が――」

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