授業終わり―美術
三題噺もどき―はっぴゃくろくじゅういち。
教室は少し騒がしい。
人数が減っている分マシに聞こえるが、それでも騒がしいとは思う。
声がでかいんだよな、いちいち。もう少し静かに話せばいいのに。
「……」
机の上に転がったままになっていたえんぴつを片付けながら、そんなことを思う。
端の方にはめていたキャップを先につけ直し、芯が折れないように保護しておく。
まぁ、そんなに頻繁に使う物でもないから、多少折れたところで、また削ればいいんだけど。
ただその削る用の道具というモノが手元にあるわけではないので、気を付ける必要はある。
「……」
ああ、言うのを忘れていたが。
ここは美術室である。
部屋には独特の匂いがこもっている。
「……」
窓は開けられていたけれど、それでも染みついた匂いと言う物はそれなりにする。
ましてやそれなりに長い間使われている美術室だ。この学校自体がそれなりに古い。立て直しや補修工事などをしていたとしても、匂いと言うのは案外するものだと思う。
それに、毎日この教室で活動をしている部活はあるのだから。
「……」
今日はその教室で、美術を選択した同じクラスの他の生徒と、授業を受けていた。
この高校は、美術、音楽、書道のどれかを選んで授業を受ける。これは2年生からの選択授業なので、去年美術を選んでいれば今年も美術だ。多分。他を選ぶと言う選択肢が頭になかったので、その可能性があるのかどうかは知らない。
「……」
だから、この教室にいる人数は単純に、1ラスを3に分けた人数しかいないわけだ。
美術は比較的多い方だと思うが、平等に振られているはずだから、気のせいだろう。
……その美術の授業が終わり、ぞろぞろとクラスに帰り始めている。
「……」
残念ながら、この選択授業で一緒に教室に帰るような人はいないので、1人で大人しく教室へと帰るのだけど。このクラスでの知り合いは、皆音楽だったらしい。
音楽でもいいんだけど、歌わされるから嫌なんだよ。
「……」
筆箱にすべてを直し、机の引き出しの中に直していた教科書を取り出す。
それをそのまま、廊下に置かれている細い棚に片付けて帰るのだ。
それぞれ場所が決まっているので、それを間違えないように。
番号が振ってあるだけなので、たまに知らない人の教科書とかが混じっている。
「……」
担当の教師はすでに次の授業の準備をしているのか、教室には居ない。多分、隣の準備室にでもいるんだろう。あの人、割とすぐ引っ込むんだよな……。
教室を出て、教科書を直し、渡り廊下へと向かっていく。
「……」
甘いものが飲みたくなってきた……昨日あたりから、ものすごく甘いものが欲しい。昨日飲んだココアとかいいんだけど、この時間はさっさと教室に帰らないと次の授業があるから……時間があれば自販機にでも言ったのに。今日に限って持ってきたお菓子はすっぱめのグミだし、飴も甘いと言うよりは苦みのあるタイプだし。
「……、」
そんなことを考えながら、ぼうっと廊下を進んでいた。
すると上に続く階段の上から、聞き慣れた声が聞こえてきた。
聞き慣れた、聞き馴染みのある。
「あ、――じゃん」
「やほ、」
聞き間違える訳もない。
筆箱だけをもってきた、あの子だった。
おそらく次が美術の授業なんだろう。
一緒に来たのは、同じように筆箱を持っている子と、教科書を抱えたこといる。
「美術だったんだね」
「そだよ、今から?」
「そー」
昼休み前に、偶然こうしてすれ違えたことが。
思わず上ずってしまいそうなほどに嬉しい。
しかしそれをおくびにも出さない。そんなものをあからさまに出して嬉しいと思うのは、付き合っている人間たちくらいだろう。
「あ、えんぴつもってる?」
「もってるけど、持ってきてないの」
「あるけど、先っぽが折れてたw」
「なにしてるw」
ここですれ違わなかったらどうするつもりだったんだろう。
あぁでも、もしここに来る前に私の教室に寄っていたなら、なんとなく分かるか。借りる相手なんて他にもたくさんいるだろうに。
「はい、」
「ありがとー、昼休みに返すね」
「ん、またね」
「またねぇ」
筆箱の中からえんぴつを取り出し、あの子に差し出す。
白く細い指が、えんぴつを受け取る。
ひらひらと手を振りながら、美術室へと向かうあの子を見送る。
「……」
昼休みまであと少し……。
早く来ないかなぁ。
お題:ココア・教室・えんぴつ




