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第一話

「さて、君はどう思う?」

 レストランの窓際で左手首の内側についた時計盤を眺めている私と、数秒前に出会った――しかも偶然に向かいの席に座っただけである――の男は、突然言う。

「うん? いったいなにが――」

「『なにが』じゃないだろう。だから、犯人は誰だと思うか、と聞いてるんだ」男は、

 出会ったばかりなのに加え、何も聞かされていないまま「犯人がどうこう」とは、人間の不出来な具合というのをなめ腐っている。

 私は左手首外の時計盤を見た。それは――

「確かに、今日は旅行日和だね。でもよしとくと良いよ。君が嫌な思いをするだけになるだろうから」

 私は心底驚いた。私が言うのもなんだが、私の服装はよれたまま。普段着といって差し支えない。目立つ荷物は無いし、誰もが私をみればただ街をうろつく一般人というところだろう。

「なぜ分かったんだ! なぜこれから私が、旅行に行くと……」

「簡単なものだよ。ヒントは『時計と君』だ。」

「私が? それに、時計…………あぁ! 分かったかもしれない」

「さて、答えは? 聞かせてくれ」

彼に唆されるままに、私は単純な推理を披露した。

「私は時計盤の向きを変えていた。君が話しかけてきた瞬間と、直後で。多分、君は気づいたんだ。『時計の向きを変えたのは、拳の中に何かが入っているのを感じ取られないためだ』って。しかも、これほどよれた服。しきりに時計を見ていたことからも、気が張っているやつだと考えない方が変だ。

 拳の中に入るほど小さく、失くすのを恐れてしまう、時間が決まっているもの――」

そこまで私が言うと、彼は言葉を引き継いだ。

「切符、だね?」

 答え合わせのように、私は左手の手を開く。

 そこには、ここの最寄り駅発を知らせる印刷のされた切符が一つあった。彼はそれを見ると、

「今回もだめか…………どうぞ、僕は無視して急いでください、乗り遅れないように。ああ、あなたの家族に会ったら『名探偵に勝った』とでも自慢しておいてください」

 彼――どうやら名探偵らしい――は他人行儀に敬語のまま、話を打ち切ると足早にレストランを後にした。彼の顔は何ともないかのような無表情のままだったが、レストランの押し引きを間違えるぐらいの動揺は彼の内心にあったようだ。

「さて、私も行こうか」 

 支払いを済ませ、ドアから私は出ようとした。しかし、いくら押してもドアは開かない。店員が代わりに開けてくれるまで、私はドアが内開きであった事実に気づけなかった。私にまで知らぬ内に動揺が広がっていたのだろう。

 いつの間にか曖昧なものに、後ろ髪を引かれながらレストラン前の歩道に出ると、やっとその正体に気づき、私は八の字を寄せた。

 彼は、なぜ私の旅行先が家族の元であると分かったのだろう?

 何か恐ろしい直感に体を奪わせないため、私は駅へと駆けていった。

 何と言っても今日一日は、最高の日であるはずだからだ。

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