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【連載版】クラスの陰キャが急に告白してきた理由を、俺は一生忘れられない  作者:
一章

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8/12

第8話 転校の告白

七月に入ると、学校は文化祭の準備で少しずつ慌ただしくなっていった。

 クラスでは模擬店を出すことが決まり、実行委員や係分担で誰もが忙しそうにしている。

 俺は装飾の班に割り振られ、東雲は会計係を担当していた。

 そんな日常のざわめきの中でも、俺と東雲の距離は以前より近くなっていた。

 昼休みは一緒に弁当を食べ、放課後は準備を手伝い合う。周囲の視線は冷やかし半分、驚き半分だったが、俺はそれすらも気にならなくなってきていた。

 ――いや。正確に言えば、気にならなくなったわけじゃない。

 ただ、それ以上に「一緒にいたい」という気持ちが勝っていたのだ。

 その日の放課後も、俺は装飾用の画用紙を抱えて廊下を歩いていた。

 ふと、背後から呼ばれる。

 「ねえ」

 振り返ると、東雲が立っていた。

 窓から差し込む夕陽に照らされた彼女の横顔は、どこかいつもと違う影を帯びていた。

 「少し……いい?」

 「お、おう」

 促されるままについて行った先は、校舎裏のベンチだった。

 ここは、あの日彼女が俺に告白をした場所。胸がざわつく。

 「実はね……」

 東雲は視線を落としたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 「私……転校することになったの」

 「……え?」

 耳を疑った。今、なんて言った?

 転校? 彼女が?

 「突然でごめん。でも、親の仕事の都合で、夏休み明けにはもう……」

 彼女の声は震えていた。けれど、その目は真っ直ぐに俺を見ていた。

 冗談じゃない。本当に、いなくなるんだ。

 頭の中が真っ白になった。

 今まで築いてきたものは、全部消えてしまうのか。

 傘を差した日も、図書室で過ごした時間も、教室で交わした視線も。

 夏休みが終われば、彼女はもうこの学校にはいない。

 「なんで……なんでもっと早く言わなかったんだよ」

 思わず声が荒くなった。

 東雲は唇を噛みしめ、うつむいた。

 「言えなかったの。怖かったから……。せっかく仲良くなれたのに、離れるって言ったら、嫌われちゃうんじゃないかって」

 「そんなわけ……!」

 声が震える。言葉が続かない。

 沈黙が流れる。

 夕陽は赤く空を染め、校舎の影を長く伸ばしていた。

 「……だから、最初に言ったんだよ」

 小さな声で、東雲が続ける。

 「『好き』って。あのとき告白したのは……残された時間が少ないからだったの」

 胸の奥が締めつけられる。

 俺は、彼女がただ「勇気を出しただけ」だと思っていた。

 でも違った。

 彼女は、最初から分かっていたんだ。いずれ離れる日が来ることを。

 「……ひどいよな、俺」

 自嘲気味に笑う。

 「やっと、誰かと近づけたと思ったのに。よりによって、こんな……」

 「……ごめん」

 東雲の目に涙が浮かぶ。

 その涙を見た瞬間、俺は心の奥底で答えを出していた。

 「謝るなよ」

 俺は彼女の肩にそっと触れる。

 「むしろ……ありがとうだ。だって、俺に告白してくれたのは、嘘じゃなかったんだろ?」

 東雲は大きく頷いた。涙が頬を伝い落ちる。

 転校の告白。

 それは残酷な現実だった。

 でも、同時に俺にとって――彼女の想いの証明でもあった。

 夕陽が完全に沈むまで、俺たちはただ黙って並んで座っていた。

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