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【連載版】クラスの陰キャが急に告白してきた理由を、俺は一生忘れられない  作者:
一章

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4/12

第4話 日記の秘密

 東雲とぎこちない距離感を抱えたまま迎えた週末、俺はふとしたきっかけで、彼女の「秘密」に触れることになる。


 放課後の教室。生徒たちが次々と帰宅していく中、俺は忘れ物を取りに戻ってきていた。窓の外には夕焼けが広がり、オレンジ色の光が机や黒板を照らしている。人気のない教室は妙に広く感じ、廊下から聞こえる部活動の掛け声やボールの音が遠くに響いていた。


 そのとき、前の席にある東雲の机に、薄いノートが置き忘れられているのに気づいた。表紙はくたびれていて、黒いインクで「数学」とだけ書かれている。だが、妙に分厚い。教科書や参考書の間に隠して持ち歩いていたようで、まるで人に見せたくない秘密の宝物みたいだった。


 俺は一瞬、開いてはいけないと思った。けれど、ほんの少しだけページの端がめくれていて、中には文字がびっしりと並んでいるのが見えた。それは計算式でもノートのまとめでもなかった。小さな文字で綴られた文章──日記、だった。


 胸がざわつく。読んではいけない、でも気になる。そんな葛藤に負け、俺は机の上でそっと一ページだけを覗き込んだ。


『今日も声をかけられなかった。でも彼は気づいてくれている気がする。もし一歩踏み出せたら、何かが変わるのだろうか。』


 心臓が跳ねた。そこに書かれていた「彼」は、きっと俺のことだ。なぜなら、すぐ下の行にはこう書かれていたからだ。


『後ろの席の彼の笑い声を聞くだけで、胸が温かくなる。』


 後ろの席。まさに俺のことだった。


 ノートを閉じる手が震えた。東雲が俺をどう見ているのか、その一端を知ってしまった気がして、頭が真っ白になる。偶然とはいえ、覗いてしまったことへの罪悪感と、胸の奥に広がる温かなものが入り混じって、呼吸が乱れた。


 そのとき、ガラリと教室の扉が開く音がした。


「……あ」


 振り向くと、東雲が立っていた。細い肩が小さく震え、彼女の視線は机の上──つまり俺の手元にあるノートへと真っ直ぐ向かっていた。


「ご、ごめん! 俺、別に、ただ──」


 言い訳が喉につかえて出てこない。東雲の表情は、怒っているようで、泣きそうで、それでいてどこか覚悟を決めたようでもあった。


 彼女はゆっくりと歩み寄り、俺の手からノートを取り戻した。両手で抱きかかえるように胸に押し当て、長い前髪の隙間から、俺を見上げる。


「……見た?」


 か細い声。それが震えているのは、恐怖からか、それとも別の感情からか。


 俺は正直に頷くしかなかった。「……少しだけ。」


 沈黙が落ちる。夕焼けの光が二人を包み込み、教室は時間が止まったみたいに静まり返った。窓の外からは部活動の声がまだ続いているのに、ここだけ別世界だった。


 東雲は唇を噛み、視線を逸らさずに言った。


「……恥ずかしい。でも、もう隠せないかもしれない。」


 その一言で、俺の胸が熱くなる。彼女は必死に心の奥を守ってきたのだろう。それを偶然知ってしまった俺は、どう応えるべきなのか分からなかった。


 しばらくして、彼女は机にノートを置き直した。表紙を撫でながら、消え入りそうな声で続ける。


「これは、私の日記。……誰にも見せるつもりなんてなかった。でも、君には……いつか伝えたいと思ってた。」


 俺は言葉を探した。軽く返せるものじゃない。むしろ下手な返事をしたら、彼女の勇気を踏みにじってしまう気がした。


 だから俺は、深呼吸してから言った。


「……ありがとう。見せてくれて。」


 東雲は驚いたように目を丸くしたが、すぐに頬が赤く染まり、視線を逸らした。


 窓の外、夕焼けの光が赤から紫へと変わり、校舎に夜の気配が忍び寄る。教室に残された俺たちは、日記という秘密を共有したことで、今までよりも少しだけ近い場所に立っていた。


 その距離はまだぎこちなくて、不安定で、今にも崩れてしまいそうだ。けれど確かに、何かが変わり始めていた。


 俺はその変化を一生忘れないだろうと、胸の奥で強く思った。


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