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【連載版】クラスの陰キャが急に告白してきた理由を、俺は一生忘れられない  作者:
一章

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2/12

第2話 校舎裏の理由

翌日の教室はざわついていた。

 昨日の噂はすでにクラス全体へ広がっていて、俺は席につくたびに視線を感じた。


「おい悠真、お前マジで白石……いや、東雲に告白されたの?」

「ちょ、声でけぇよ」

「やべぇって、クラスの陰キャから告白とか、伝説じゃん」


 笑い半分、興味半分の声が俺に突き刺さる。正直、居心地が悪い。

 けれど当の東雲は、いつもどおり前髪で表情を隠し、ノートに何かを書き込んでいた。

 周囲の声なんて届いていないように見えるけれど、ペン先がわずかに震えているのを俺は見逃さなかった。


 放課後、廊下で待ち伏せされた。

「なぁ悠真、昨日の校舎裏で何話してたんだ?」

「別に……大したことじゃない」

「絶対なんかあったろ」

 茶化す友人を振り切り、俺は自分の机へ戻る。けれど心臓の鼓動は早くなるばかりだった。


 校舎裏での言葉が蘇る。

 ――去年の冬、助けてもらった。

 あの日のことを彼女が覚えていたなんて、本当に驚きだった。


 ◇


 数日後、俺と東雲は図書室で隣り合うようになっていた。

「……ここ、分からないんです」

 差し出された数学の問題に、俺は赤ペンを走らせる。

「ここはこう。公式を覚えてれば簡単だろ」

「なるほど……ありがとうございます」

 静かな空間に、彼女の小さな声が響く。


「東雲って、いつもノートに何書いてんの?」

 思わず聞いてしまうと、彼女は少しだけ迷ったあと答えた。

「……日記、です」

「日記?」

「誰かに優しくされたことを、忘れないように」


 俺は言葉を失った。

 ページを覗けば、そこには『ドアを押さえてもらった』『消しゴムを拾ってもらった』など、本当に小さな出来事が綴られていた。

「……笑わないんですね」

「笑うかよ。むしろ、すげぇと思う」

 そう答えると、東雲は驚いたように目を丸くしたあと、少しだけ笑った。


 その笑顔が、意外なほど可愛くて、胸の奥が熱くなった。


 ◇


 六月も終わりに近づいたある日の放課後。

 屋上に呼び出された俺は、フェンスにもたれて夕陽を浴びる東雲を見た。


「来てくれて、ありがとう」

「いや……約束だから」


 沈黙が流れる。風が髪を揺らし、彼女は小さく息を吐いた。

「実はね、私……ずっと嘘をついてた」

「嘘?」

「悠真くんを助けた、あの日のこと。あれだけじゃないの」


 彼女の声は淡々としていた。けれど、心の奥に秘めてきた熱を抑えきれないように震えていた。


「他にも、何度も……陰で支えてたの。転んだときとか、忘れ物したときとか。気づかなかった?」

「……まさか」

 確かに、不思議な偶然はあった。なくしたはずのプリントが鞄に戻っていたり、机の上にノートが置いてあったり。

「全部、私。バレないようにしてた」

「なんで……そんなことを」

「さぁね。ただ……悠真くんには、生きててほしかったから」


 東雲は一瞬、視線を落とし、それから決意したように言った。

「それにね。……本当はずっと、好きだったの」


 その言葉は、夕陽よりも鮮烈に胸を貫いた。

 思考が止まり、呼吸も忘れ、心臓の音だけが響く。


「でも、私なんかじゃダメだと思ってた。だから陰から見てるだけでよかったの」

「……東雲」

「でも、もう隠せなくなった。だから告白したの。これが理由」


 俺は返す言葉を見つけられなかった。

 ただ、その場に立ち尽くす。


 やがて東雲は、ふっと笑った。

「返事は、急がなくていいよ」

「……でも」

「私は待ってる。ずっと」


 その言葉は呪いのようであり、同時に救いのようでもあった。


 気づけば俺の視線は、彼女から離せなくなっていた。

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