そのギャップで一生飯食っていけます!!
はじめまして!温泉たまごです!この小説が、『小説家になろう』初めての作品になります!
長々書いてあるんですが、最後まで読んでくれたら嬉しいです!
きたる十月。夏の残暑は消え、肌寒い秋が始まろうとしていた。
「ぐふふふ、今日は湊くんと渚くんがコンビのトークショーがあるのよねぇ。」
ある日のこと、私はいつものように大好きな推し俳優のテレビを見ようと部活をさぼっていた。
「あぁ、推しの為ならお金も時間も惜しまないっ!あー、でも湊くん、今日でテレビでるの最後かぁ。ファンに家特定されて活動休止になっちゃうなんて…。」
私は小さくため息をついた。
「ま、録画したの見返せばいいし!」
ポジティブにいこう!と意気込んでいると、あっという間に家に着いた。
「ただいまー!」
大声で叫んでドアを開ける。と同時に、ゴッと鈍い音がした。
「痛いな…。」
「ん?」
そっと横を向くと、今からテレビで見るはずだった湊くんが前に…
「…お母さん、近場で幻覚に対処できる病院ないー?」
「俺、生きてるけど、何?」
俺、生きてるけど、何?おれ、いきてるけど、なに?オレ、イキテルケド、ナニ?
彼の言った言葉が何度も頭をめぐる。
「えええ?!じゃあ本物??!実物??!お母さーん!!」
「うっさいな…。」
うざったるそうに顔をしかめてガチャッとドアを閉める湊くん。え、てか湊くんってこんなキャラだっけ?テレビではいつもキラキラしてて白馬の王子さまみたいだったような…
「あらら?もう帰ってきたの?今日部活ある日だよね?」
お母さんがやってきて、何事もないように私に声をかける。
「え、そ、そんなことより、なぜ湊くんがここに?」
「あ、言ってなかったね。私と湊くんのお母さん、中学時代の親友だったのよ。でね、今湊くん大変じゃない?実家が特定されて怖くて家に帰れないのよ。で、親友のよしみで家に居座ることになったわけ。理解?」
「え、ちょっと、まだ状況呑み込めてないかも…」
頭を抱えて必死に今の状況を理解しようと頭をフル回転させる。
「詳しい話は私がいたしまーす!湊の母でーす!」
ふとドアが開く音と、かわいらしい声が聞こえて振り向くと、湊くんのお母さんと名乗る人が立っていた。
目は湊くんみたいに優しそうにながれていて、髪も同じ漆黒の直毛。唇はシ
ュッとなっていて、形のいい輪郭がより小顔を引き立てて…
「あっ、と、綺麗ですね。(?)」
すっかり困惑して、自分でも何言ってるのかよく分かんない。
湊くんのお母さんは、ポカーンと驚いて、一拍おいて吹きだした。
「あははは!歩実ちゃんって面白いのねぇ。」
「ささ、玄関じゃなくてリビングで話しましょ。」
お母さんが嬉しそうに手招きする。
「じゃあ、お言葉に甘えて。おじゃましまーす。」
「…お邪魔します。」
西片親子は礼儀正しく家に入っていったが、私はしばらく棒立ちしたまま固まっていた。
「さて、お話ししましょ。今、知っての通り、湊は俳優として活躍してるわ。そんなとき、熱烈な湊ファンが家を特定しちゃってねぇ。それがSNSにさらされちゃって、大変なことになってるの。」
「大変ですねぇ。」
私にとってはただのニュースであって、遠くで起きてる出来事だったけど、改めて本人から聞くとゾッとしてしまう。
「そうなの~。お父さんは今お仕事で海外を飛び回っていてね、でも湊は日本で芸能活動続けたいっていうから、どっかにホームステイしないとってことになったの。でも私までお世話になるのは気が引けるでしょ?だから私はお父さんと海外で暮らすとして、湊をどっかに預けなきゃーってことになったの。」
「西ちゃんパパは海外の大企業の社員でね、とっても忙しいのよ。」
お母さんが私に耳打ちする。
「へぇ。」
じゃあ、女手ひとつで湊くんを育ててきたんだなぁ。大変だったろうに、湊くんを芸能界にまで行かせて…
「でも、お祖母ちゃんの家とかだったらまた特定されかねないし、できるだけ、今、関係深くない人―って思って考えてたら、中学の時仲が良かった歩実ちゃんのお母さんが浮かんだってわけなの!どう?やっぱり反対?」
あの素晴らしい生命体、湊くんを一人で育て、こんな事件になってまで湊くんの夢を尊重するなんて…なんてお優しい!女神の生まれ変わりか何か??こんな素晴らしいお方の頼みとあらば…!
「全然問題ありません!お任せくださいっ!」
ドンッと胸に拳を当てて、鼻をふんす、ふんすと鳴らす私を見て、湊ママはにっこり微笑んだ。
「あぁ、良かったわぁ!こんなにかわいい子と同居なんて、湊も浮かれちゃうわね!」
「かわ?それはよくわかんないけどっ、湊ママの負担を少しでも軽減できるなら安いものです!てか、推しの近くに居られるだけで私幸せですしっ!」
「あらら、歩実ってば興奮しちゃって。」
お母さんはあきれ顔でつぶやく。
「あははは!歩実ちゃんは面白いわね!湊もここでうまくやっていくのよ?」
「分かってる。」
スンッとそっぽを向いてぼそっと答える湊くん。
「あらあら~、ツンツンしちゃって~。学校やカメラの前ではキラキラしてるのに家の中ではずっと不愛想なのよー。湊の仕事上、このことは秘密にしてあげてね。」
「大丈夫ですっ!推しの不幸はファンの不幸!絶対にそんなこと言いませんよ!」
「まぁ、心ずよいわぁ。」
嬉しそうにやんわり微笑む湊ママ。その笑顔を見ていると心がふわふわするなぁ。
「かつてないほどの説得力ね…。」
お母さんは目をかっぴらく私を見て苦笑いした。
それからママトークが盛り上がっちゃって、私と湊くんは二人でソファに座る。
微妙な距離が居心地悪いけど、こんなに近くで湊くんを拝めるとかご褒美でしかない!
ぐふふふっと変な声が出てしまうが、ファンである限り仕方ないこと!
「ねぇ。」
「ん?なんですか?」
顔から溢れる喜びを隠しきれず、てか隠そうとせず、湊くんに、にこにこ笑いかけた。
「俺がテレビと違っておかしいと思った?全然キャラ違っておかしいって思った?」
湊くんは真剣な顔で私を見つめた。
「へ?そんなことないですよ?猫かぶることなんて普通ですよ。堂々と自分さらけ出せる人の方がよっぽど少ないです。」
「…推しが猫かぶってることに不満はないの?」
湊くんはため息をつきながら私に尋ねた。
「んー、無いですかねぇ。どっちもかっこいいし!むしろそのギャップで一生飯食っていけます!!なんか、他のファンに申し訳ないですねー。私だけ雰囲気違う湊くん見れちゃってますし。」
「…そ。」
湊くんは素っ気なく返事をしたっきり私に話しかけなかったけど、私は推しと会話できたことの幸福感でいっぱいで、気まずいとか全くなく…
「じゃあ、私たちそろそろ行くね!また荷物届いたらお邪魔するわ!」
「はーい。また話そうねー、西ちゃん!」
「はーい!歩実ちゃんもありがとうね!あと中ちゃんパパご迷惑かけてごめんなさいねぇ。」
「いえいえ!まったく!よろしくお願いします。」
「じゃあ、またねぇ!」
お母さんたちはすっかり中学生に戻って、途中でお父さんが帰ってきてもなお、話は止まなかった。
湊くんは相変わらず不愛想だったけど、それもテレビと違って、クールでギャップに萌えた…!ちょっと緊張するけど、はやく湊くんと暮らしたい!
これが私と湊くんの出会いだった。
~二話へ続く
最後まで読んでくれてありがとうございます!これからも頑張って続きを書いていくので、読んでくれたらうれしいです!
これから、どうぞよろしくお願いします!