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地球脱出計画  作者: くろ
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ヴェラ・ルービン天文台

ヴェラ・ルービン天文台は、赤外線により詳細な天体観測を行う望遠鏡を有する天文台だ。

この地で観測されたデータは世界中の天文学者にオープンに公開され、日夜誰かの研究に役立っている。

赤外線による天体観測は現在ポピュラーな観測手法である、というのもジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡も同様に赤外線による観測を行っている。

これは赤外線は宇宙空間上に存在する塵の影響を可視光線よりも受けにくいため、より遠くのより詳細な天体マップを作るのに適しているからだ。


私もそのヴェラ・ルービン天文台の観測データを利用する天文学者の一人だ。今携わってるプロジェクトはNEO地球近傍天体監視プロジェクトだ。といってもNASAとの共同プロジェクトはずっとしばらく前に予算が大幅に削減され今ではほぼ趣味程度のプロジェクトとなっている。

地球近傍天体監視プロジェクトは、小型の小天体の軌道を監視し、もし地球に衝突するコースにある小惑星があったときには、現代文明を終わらせるほどの大災害を引き起こすのかどうか災害リスクを評価するプロジェクトだ。

このプロジェクトで、長い間得られた観測データを評価した結果今後およそ1000年間は地球圏は安全であるということが分かった。その結果お役所はそれが分かりさえすれば今後予算はそこまで出す必要もないだろうと判断し大幅削減をした。それはそうだろう今後1000年間の安全がわかればその先2000年後小惑星衝突がするという話題が出たとしても、ゆっくり問題に取り組めば良いだけの話だ。

小惑星衝突による人類滅亡はもうずっと先の話で、誰も興味を示すような研究テーマではなくなりつつある。

プロジェクトに参加する人員も減っていき、今では人々は別の探査プロジェクトに駆り出されている。それはSETI(地球外知的生命体探査プロジェクト)であったり、ダークマター探査プロジェクトであったりだ。あとはなんだっけか第9惑星探査プロジェクトなどもある。

第9惑星探査プロジェクトは、このヴェラ・ルービン天文台が受け持つプロジェクトの中でもかなりの予算が割かれているプロジェクトの一つだ。セドナ以遠の太陽系外縁天体の軌道偏りから数学的に存在が予測されている第9惑星は従来の天体観測データをもとに行われた調査では未だに見つかっておらず、赤外線による遠方観測に優れた性能を誇るヴェラ・ルービン天文台の大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST)はその観測にうってつけの望遠鏡だ。


プロジェクトは予算が削減されたものの、趣味程度に続けられるほどの予算はあるし、他にも多くのプロジェクトを抱えている。先程の話に出た第9惑星探査プロジェクトもそうだし、メガストラクチャー探査なんていう超SFチックなプロジェクトだってお抱えだ。もし興味があればぜひ研究室に来て欲しい。


というのが、研究室紹介オリエンテーションのいつものセリフだ。正直言うが、現状うちの研究室にはメンバーが少ない。それはそうだ1000年間の安全が保証され今後その先のもっとずっと先の未来の小惑星衝突を研究する人なんてものはかなり少ない。まあ良い。学生が少ないとなれば自分は学生の指導ではなく研究に没頭できる。一時期はプロジェクトを抱えすぎて学生も多く抱えすぎて自分の研究に時間を割けない時期もあった。研究を生業としている職業なのだから自身の研究を進め自身で論文を執筆するのが本業だ。

少しは学生を取るのを控えて研究に没頭するのも悪くない。

そうこうしてるうちに今日は天体力学の基礎講義の日だったということを忘れそうになっていた。講義の準備をせねばならない。重い腰を上げリクライニングにしていた椅子を上げPCを起動し、講義資料に目を通す。ふと視界の下側にメールの通知ダイアログが見えた。

タイトルに目を通す。

『ヴェラ・ルービン天文台観測データマップにおける不可思議な高輝度巨大天体の発見とそのデータ検証に関するご相談 谷上』

谷上、この名前には見覚えがある。確か今は博士課程に行っている学生だったはずだ。一度うちの研究室に来たが確か第9惑星探査プロジェクトをメインに取り組んでいる研究室配属を希望していたのでそっちを薦めたんだった。しかしよく見れば別に大学関係者に送っているわけではなく第9惑星探査プロジェクトMLに問題提起として送っているようだ。

内容は次のとおりだった。

ヴェラ・ルービン天文台観測データにおいて、超巨大な高輝度天体を見つけ出し、それが予想されていた第9惑星軌道と思わしき軌道と合致していることが分かった。高輝度天体は恒星にしては極端に暗く、ヴェラ・ルービン天文台の高精細な赤外線探査が可能なLSSTでなければ発見が不可能なほどだったとのこと。ただし通常天体と比較するとあまりにも明るいためやはり自発的に光を発しているものと考えられる。同研究室メンバーとのディスカッションでは、これが恒星であるというふうに判断しておりひとまずプレプリントサーバの方に論文を既に掲載済みであるので、この論文をいったん見てほしい、詳細なデータについてはファイル共有サーバに共有済みなので以下共有リンクを参照とのことだった。

内容は、解析用プログラムとその入力から算出までの間の途中算出結果。さらにはプロット用のプログラムまでご丁寧に用意されていた。

確かに天文台観測データのデータにはその高輝度天体と思わしきものが存在しているように見える。

赤外線による掃天観測は、観測対象となる向こう側の光の影響を従来望遠鏡よりも少なめにし観測対象をより詳らかに観測することが可能だ。

この掃天観測のデータによれば高輝度天体は太陽から1.54光年半れた場所で周回している。これが事実であれば大発見ではあるが検証は必要だ。

だが、それは俺の仕事ではない。世の中にはもっと優秀な学者さんたちがいるので、検証はそういった人々に任せたほうが良い。

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