金持ちの男と美しい女
美しいものが大好きな金持ち男と、お金が大好きな美しい女のなんちゃって童話風作品
あるところに大層お金持ちの男がいた。
彼は一代で財を成し、世界の長者番付にも名を連ねるほどの大金持ちであった。
美しい物に目がない彼はあらゆる宝石や絵画、その他様々な美しいと思うものを手に入れては側におき鑑賞することが何より大好きであった。
だからこそ彼は考えた。
もし結婚をするなら自分の妻となる人はとびきりに美しい人が良いと。
またあるところには大層美しい女がいた。
彼女は生まれた時からその美貌で周囲を虜にし、成長するごとにその美しさに磨きが掛かり街を歩けば振り向かぬ者はいないほどの絶世の美女であった。
お金が大好きな彼女は預金が増えていく通帳をうっとり眺めたり、金相場や株価チャートをチェックするのが趣味であった。
だからこそ彼女は考えた。
もし結婚をするなら自分の夫となる人はとびきりのお金持ちの人が良いと。
そんな二人が出会ってしまったのは最早必然であったかもしれない。
一目見た瞬間に互いにビビッと来るものが走り優雅な足取りで迅速に接近した二人は、簡単な自己紹介を終えると即座に交渉に入った。
淡々と、けれど次第に熱が入りはじめ、最後にはガシッと固い握手を交わした。
交渉成立である。
そうして周囲を置きざりにするスピードで籍を入れた二人にポカーンとする人々であったが、二人をよく知る者達は「まああんな互いが互いの理想みたいなベストカップルいないからね」と納得して祝福するのだった。
お互い以外に入る隙の無さそうな二人に「夢のような夫婦」「理想の体現」「最強コンビ」と持て囃していた周囲だったが、これが五年、十年と経ってくるとそうは思わない輩が現れ始めたのだ。
ハイエナの如きハンター達はそろりそろりと近寄ってきて言った。
若く美しい女は自身のこの若さと美貌を最大限にアピールする着こなしと所作で彼の衰えゆく妻とを比較して迫った。
自信に満ち溢れた男は自身の躍進ぶりといずれ彼女の夫を追い越して長者番付に乗るだろう事を語り迫った。
それに対して夫はこう言った。
それで?
それに対して妻はこう言った。
だから?
夫は言う。
若さを売りにする君は、五年後、十年後には若さを理由に捨てられても良いのかい?
それに、若さだけが美しい訳じゃない。
君はかの有名な大聖堂を見て古臭いだけと言うのか?
君は力強く大地に根を張り、堂々と枝葉を広げる大木を醜いと言うのか?
その者を美しく魅せるのは、その者の在り方だ。生き様だ。
僕の奥さんは美しい。
五年、十年、死の淵に立つその時すら美しい人だと、断言ができる程にね。
妻は言った。
貴方のそのお金はどうやって稼いだのかしら?
貴方はそのお金をどう使うのかしら?
私はお金を貯めるのは勿論、同じだけ使うのも好きよ。だけどこの通り美しい私が持つものだもの、当然お金だって美しいものでなければならないわ。
私がなにも知らないと思って?
貴方のやり方、私の美学に反するのよ。
その点彼は完璧ね。お金が彼を愛するのもわかるわ。
だから私も彼を愛しているのよ。
心から。
そうして金持ちの男と美しい女はいつまでも一緒だった。
歳をとり、世代も代わり、しわくちゃになって体が満足に動かせなくなっても、ずっとずっと互いが一番だった。
お互いにお互いがとびきりだった。
いつか死が二人を分かつまで、二人はずっと笑い合っていた。