はじまり6
「バーネットおば様、この記録、面白いです!」
庭に椅子と机を置いてもらい、そこにいることが日課に加わった。
バラララっと虫が降っても、庭なので、虫は勝手にシャカシャカぴょんぴょんと離散していく。
私は、フワフワリボンのついた白い傘をくるっと回した。
傘、最強!
エッカルト様と話してから、数日たった私は、虫降りに順応しつつある。
あれから、蟲の祝福は私の感情の高ぶりに増えたり減ったりすることなど、注意点をいくつか教えられた。
もう最初みたいに虫の豪雨を降らせてない。
えへん。
ぽとんと、つやつやしたカナブンが落ちてきて、机をちゃかちゃか横切っていく。
「でしょう?その方はね、三代前の蟲の方なのよ。着眼点がいいわよね~。虫の発生における地域差をみるなんて」
バーネットおば様は、虫が平気らしい。
ごく薄い紫の、透かし模様のある傘を持ち、ぴんとのびた背筋は揺るぎない。
おば様、大人っぽくてステキ!と、頭の片隅で思うと、シャラララと数匹の蝶が、私とおば様の間を飛び去っていった。
シャイド侯爵家のバーネットおば様とお父様は姉弟で、我が家によく来てくれる。
おば様はものすごく物知りで、綺麗で、わたしの憧れだ。
お母様がいたら、おば様みたいな感じかなと、こっそり思っていたりする。
そのおば様が、頬に手を当てて、首をかしげた。
「嬉しいとか、楽しいときは蝶がでるようね?」
あ、なるほどそうかも!
私は真新しくてかわいい装飾のノートを広げ、カリカリとメモをした。
これが、今代の蟲の者、つまり私の『記録』になるのだ。
えへん。
またぽとんと、カナブンが落ちた。
歴代の蟲の者は、残された記録書によると、虫の出方にきまりがあったそうなので、私の祝福も同じかどうか、なるだけ記録するように言われている。
お野菜やお花の観察日記とかは、おば様の屋敷で
したことがある。
『違うところ』と『同じところ』をおば様やおじ様と探しあいっこして、楽しかったなぁ。
「自分でも気持ちがはっきりしないときは、たくさんの虫が混じるみたいです。コオロギとかテントウムシとか、ダンゴムシとか。幼虫と大人の虫も混じっていました」
「大人の虫は、成虫だったということかしら。種類のばらつきは、心が不安定だったことも関係しそうね」
大量の虫をふらせたときを思い出しながら話し、記録に足していく。