父の心配2
アレクシアが目覚めた。それはとても嬉しい。
しかし、あの子の部屋は、とんでもないことになっていた。
量の増減を繰り返しながら、床が見えなくなるほど虫がわいたのだ。
どうなっているんだ。
祝福というより、呪われているといわれた方が納得できる。
やっと娘の姿を見つけたが、あの子はまた意識を失ってしまった。
不思議と虫もわかなくなったので、大急ぎで手分けして掃除を始めた。
そんな中、前触れなしに客人がきた。
「エッカルト様、もう一度言っていただけますか?」
「何度でも言おう。君の娘は、蟲の神より祝福を受けている」
ぽかんとしていたのは、私だけではないだろう。
昨日神殿に連絡したら、来られたのは遣いどころか、大神殿の大神官長様だ。
虫が出たのは娘の部屋だけだから、慌てつつ無事な応接間にお通ししたが、騒動の最中で身嗜みも最低限しか整えられていない。
いろいろな汁で、どろどろしていないだけマシなところだ。
エッカルト様は、無礼講だと仰ってくださったが。
そして、かの方の一言目は虫の神の話だった。
確かに、アレクシアは自然とか生き物を好んでいるが・・・虫の神?
「虫ではあるが、虫の祖、蟲の方であるな。ときに、そなたの姉は、シャイド侯爵家に嫁いでいるな?交流は深いか」
突然かわった話題に戸惑いながら、思考する。
私の姉のバーネットは、侯爵家当主に見初められて嫁いだ。
母親を亡くした私の子どもたちを気にかけて、しょっちゅう我が家に来てくれていたし、アレクシアを侯爵家に滞在させてくれることも多い。
侯爵家には専門的な庭が多数あり、アレクシアの生き物好きを育んだ要因の一つだろう。
そんな姉と共に、ご当主もアレクシアを構ってくださっている。
侯爵家には息子しかいないから、娘ができたようで嬉しいと。
「はい。息子もですが、特に娘を可愛がってくださいます。護衛のハインも、侯爵家のご当主が、娘が可愛すぎて心配だからと・・・」
何か閃くものがあった。
侯爵家は代々自然学の学者を排出している。
その分野は幅広く、国土の開発や管理においても侯爵家に血筋のある者が活躍していると聞く。
学者の家系だからみな学者になると思っていたが、そうではないとしたら?
意図して自然の知を深めさせているとしたら?
そうすることで、神の眼をあえて引くことができたら・・・。
その道に通じる者に、神は祝福を与える。
私は顔色を無くし、息をのんだ。
「なかなか、そなたも優秀だな。歴代の蟲の祝福持ちは、みなシャイド侯爵家の者だ。まあ、狙って得たというより、虫に興味を持つ変わり者が侯爵家に多かったという方が近いな。それはあの家に知識の宝庫という下地があるから、だがね」
エッカルト様は、少し、困ったような笑みを浮かべていた。