はじまり5
いきなり、答えにくい質問だった。
貴族令嬢の普通の返事は、いいえ、だろう。
一般的な令嬢が愛玩する、草木や生き物の中に、虫は入ってない。
明らかに虫って嫌がられる方だよね。
だけど、正直に、とお父様が念押しされたなら・・・
「っん、はい」
かすれたけど、なんとか声が出せた。
「ほぅ。どうして?」
私は虫が好きだ。
いつからかはわからない。
割と単純に、虫がかわいいなと思う。
色彩や姿形とか、動きなんかも。
だから、今の現状も、虫自体は嫌じゃないのだ。
普通に見つけた虫なら、じっくり観察したいくらい。
起きている現象が異常だからこわいんだ。
「もし、自分の好きなものを貶されたら、腹は立たんか?ほら、虫は賛同される類いとは言えんだろう」
う~ん。
気持ち悪いでしょ、と言われれば、気持ち悪さを感じさせるのは何か?と考えるのも好きだ。
相手の言い分に私も納得できるときがあるし。
ただ、外でお茶会なんかのときに、虫が出たのなんだと騒ぐ子がいるときは、色がかわいいな、とか、動きが勇ましいねとか、虫をフォローしちゃう。
あら、確かにそうね。とか、虫を見る目が少し変わると嬉しいし。
お父様たちが、自分の好きなお酒を褒めてもらえると嬉しくなるのと、同じじゃないかな。
拙い言葉でそんなことを言う間、エッカルト様はにこにこされていた。
「・・・アレクシアは、祝福についてどのくらい知っている?」
祝福?
この世界は、多種多様な神様がいるといわれている。
エッカルト様のいる神殿は、生きとし生ける全てを敬うことで、様々な神様から恩恵を得られるとといている。
その恩恵が祝福という形で私たちに与えられるのだ。
祝福でできることは、これまた様々らしい。
ちょっぴり鼻が効くようになるものもあれば、天気がわかるものとか。
ただ、神々は気分屋らしく、祝福を全員に与えるわけじゃない。
老若男女貧富なしに、気まぐれにお与えになられるのだ。
訳知り顔で笑うエッカルト様と、少しひきつり笑顔のお父様。
ん?
・・・え、私の、・・これ祝福?
ドザザザザー!
まとまった虫の雨の隙間から、笑顔で頷くエッカルト様が見えた。