はじまり4
次に目覚めたのは、1度目の目覚めから2時間ほど過ぎたあたり。
部屋は、虫がいないとは言えないけれど、床やベッドがちゃんと見える状態だった。
マーサは布袋と手袋を脱いで、私の頭上に傘をキープしていた。
お父様の侍従のマイクが、部屋をさささ~っと移動しながら、籠に器用に虫を集め、ぱっと窓から外にリリースしている。
ハインは部屋前の警備位置に戻ったようだ。
お父様は、見知らぬ老人と、私の様子を窺っている。
体が重い・・・。頭もはっきりしない。まぶたが閉じちゃう・・・。
私は、薄目のまま、視線を動かして、老人の衣装が神官のもので、重たそうな上衣を羽織っているなぁと眺めていた。
「アレクシア、きこえるかい?」
やわらかく低い、私を呼ぶお父様の声。
なんだか声を出すのもだるくて、わずかに頷いた。
「こちらのお方は、大神殿の大神官長様だ。内密に我が家に来ていただいたんだ」
我が家は伯爵家だけれど、家族が王城に隣接する大神殿の方と話す機会なんてあるはずない。
ましてや、神殿の中のトップとか。
子どもの私でもわかる、雲の上の人がいて、くらくらしながら慌てて起き上がろうとすると、バラララっと虫が落ちてきた。
わあ、大神官長様の頭にぽこぽこ虫が当たっている!
何事もなく微笑む大神官長様に、起きるのを制止された。
「寝ていなさいね。長なのは年のせいで、わたし自身は偉くもない、ただのじいさんだから」
お父様を見ると、頷かれて、ほっと体の力が抜けた。
「アレクシア、と呼んでいいかな。わたしはエッカルト。じじいとでも、なんとでも好きに呼んでよいぞ」
さすがに呼べないよね。
困り顔の私をみて、エッカルト様は「よい子だね」とシワのある大きな手で頭を撫でてくれた。
暖かくて、気持ちがいい。
不思議と、少し体が楽になった気がした。
「アレクシア。エッカルト様は、君にいくつか質問と、今回のことの説明をしてくださるそうだ。・・・今、話すことはできそうかい?・・うん、父様はここにいるから、正直に答えてごらん」
1つ1つ、お父様は私の反応を見ている。
これは強制ではなさそう。
なにより、わたしは、何が起きているのか知りたい。
「うむ。では、はじめようか。アレクシアは虫が好きかい?」