最終話、魔王と女神と天地創造
新宇宙、新しき三千世界にて。
闇に光が翳される。
女神と魔王はまず天と地を生み出した。
宇宙に近い空には、天の女神となったアシュトレトによる魔力層が生まれ。
魔核に近い地にも、地の女神となったバアルゼブブによる魔力層が発生する。
次に水の女神となったダゴンが海を生み出し、やはり海にも魔力層が誕生する。
天と地の神、そして海と水の神の誕生だった。
魔王は三柱の女神の中心に光を燈す。
それが世界創造、そして後の学問において太陽の始まりだとされるのだろう。
かつて夜と呼ばれた女神は、その生者の神格を強め朝の神となり。
かつて月と呼ばれた女神が、その欠けた夜の座に鎮座することになる。
その中央では、朝と夜の女神が喧嘩をしないようにと、午後三時の女神が調和を取り――そして彼女が昼の女神とされる事となった。
朝と昼と夜の女神の誕生である。
次に魔王は地と海の力を用い、大地を生み出し始める。
天の息吹を受け、地のぬくもりを受け、そして水の流れで祝福された大陸の誕生だった。
天の女神となったアシュトレトが言う。
『さて、レイドよ――生物は如何にするべきか』
「やはり植物や動物は必要でしょうが、環境さえ整えれば勝手に誕生してくるかと」
答える魔王に海と水の女神となったダゴンが問う。
『ならば魔術は如何いたしましょう。世界を創るために今は魔術を使用しておりますが、この新しき三千世界に魔術が必要かどうかは――意見の分かれるところかと』
ふむと魔王は考え。
「私という存在、その根源にあるのは魔術を否定する願い。力ある魔猫の置物、イエスタデイ=ワンス=モアがその願いを叶えてしまった事にあると思われます。魔術が暴走の原因となるのならば……」
『世界を創り終えた後に、魔術は封印してしまうと?』
「それも一つの選択でしょう。既にある魔術を奪い取るのは問題ですが、まだこの新世界の者たちは魔術という存在を知らない。今の内ならば、というのが本音でしょうかね」
後のトラブルを避けるため。
この三千世界では魔術を封印する。
その方針を告げると、地の女神となったバアルゼブブが顔を上げ。
『じゃ、じゃあ――せ、世界を創り終えたら……魔術はこの箱に入れておく?』
「そうですね、他の方々はどう思われますか?」
かつて月と夜と午後三時の女神だった、朝と昼の夜の女神達は頷き。
『アドニス、そなたの好きにせよ』
『魔術なんてなくたって生命なんて勝手に育ちやがるだろうしな。それでいいんじゃねえか?』
『かつて存在した、あたしたちの逸話が生まれた魔術無き地”始まりの遠き青き星”と同じですもの、あたしもそれでいいわ』
ならば世界を創り終えましょうと、女神と魔王は六日をかけて世界を創った。
宇宙には星々。
新しい世界が生まれ始める。
それぞれが独立した世界、新しき三千世界の中に生まれる生命の揺りかごだ。
アシュトレトが言う。
『これらの惑星、これらの輝きは皆――そなたと妾達の子供というわけじゃな』
「子どもかどうかは分かりませんが、そうですね……私達を父や母と信仰する者たちはでるかもしれません。強制する気はありませんが――」
『あたくし達に感謝したいと言う感情を否定するのも、それもまた強制になるかもしれませんものね。ですから、強制も禁止もしない。それでよろしいのではないでしょうか』
ああ、その通りだと魔王が世界を眺める。
そこに既に誕生している一つの世界があった。
海のスープの中。
生命が生まれ、そしてそれらはやがて天と地の待つ、大陸へと進出する。
いつか彼らは天を見上げ、その先には宇宙があり、そして他にも世界があると知ることだろう。
神にとっては一瞬。
けれど実際は、ずっとずっと先の話。
新しい宇宙。
新しい生命。
新しい文化が生まれるのだろう。
女神と魔王はその成長を見守り続ける。
彼らが居なくなるのは一年に一度だけ。
創造主たる魔王は元の宇宙に帰り、そして、またこの地に戻ってくる。
この日々は天地創造の神話となるだろう。
女神と魔王は世界創造の最後の日、七日目に、魔術を箱状の魔道具に詰め込んだ。
もはや二度と使われることのない力だ。
魔王が言う。
「今まで、ありがとうございました――私は魔術を生み出したことを今はもう、後悔はしていません。きっと、良かった事なのでしょう。けれど、すみません。この新しき三千世界では……」
告げた魔王が魔術を封印しようとした。
その時だった。
宇宙の向こう――肉球の足跡を残し駆けてきた魔猫がいた。
それは大魔王ケトス。
あの日、勇者に殺された魔王と離れ離れになってしまった愛猫。
魔王様! 魔王様!
と、魔猫はあの日の猫の顔で叫んでいる。
もはや魔王はレイド個人として独立している。
けれど、あの日の思い出が消えたわけではない。
だから。
思わず魔王は叫んでいた。
「ケトス!」
『魔王様!』
魔猫も思わず叫んでいた。
ずっと、会いたかったのだろう。
彼は三分の一の欠片とは再会している。
けれど、レイドと呼ばれた欠片とは再会していない。
だから。
魔王も思わず手を伸ばし、そして、魔猫も魔王の腕に飛び込んだ。
その瞬間。
魔王はそれを落としてしまった。
魔猫はそれを蹴ってしまった。
女神はそれを拾おうとしたが、もう遅かった。
パァァァァァァっと。
それは宇宙を自由に飛び交ったのだ。
それと呼ばれたモノの名は――。
魔術。
魔術を封印していた箱は開かれ。
そして。
再び。
新しい世界に魔術が解き放たれた。
この瞬間の逸話が、宇宙に魔術が刻まれた神話となり。
この日は後の魔術師たちにこう呼ばれることになる。
魔術生まれし七日め、と。
魔術を得た世界。
混沌の神々が作り出した地にて。
いつかまた。
物語は動き出す。
死ぬほど女神に愛されて ―魔王レイドの幸福なる一生―
<完結>
以上を持ちまして、本日2023年10月10日の更新にて、
「死ぬほど女神に愛されて―魔王レイドの幸福なる一生―」
は完結となりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
これからの更新予定なのですが――。
以前に「あとがき」にてお伝えさせていただきましたが、
これから少しリアルがバタバタとするため、
更新再開(新作)は、
「アニマル主人公で約一ヶ月後、2023年11月11日前後を予定」しております。
※時刻はまだ確定しておりません。
幸福なる一生からの派生ということになりますが、
このラストからの繋がり、レイドさんを神とする新世界で生まれるアニマルのお話なので、
独立して読める内容となる予定です。
(あそこからなので、以前よりも作品ごとの横のつながりは減るかも?)
※ギャグとシリアスのバランスという
いつもの難しいアレに頭を悩ませております…!
長いお話でしたのでここでお腹いっぱい!
という方もいつかまた、縁があった時に読んでいただけるととても嬉しいです~。
もしまだお付き合いいただける!という方は、
なにか動きがあった時に分かるように、
「原典:殺戮の魔猫の登録」や「ユーザーお気に入り登録」を残しておいてくださると、
とても嬉しく感じます…!
それでは、お知らせは以上となります。
最後までお読みいただきありがとうございました!!




