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第179話 神々の遊戯


 本気で遊べる相手を見つけ目を輝かせる、モフモフふがふがな巨大熊猫。

 四星獣ナウナウ。

 彼にゲームを持ち掛けた私は、ナウナウの返事を静かに待つ。


 ナウナウは振り下ろし遊んでいた腕を止め。

 ツゥっと赤い瞳を細め、探るような神パンダの眼光。

 私が何を仕掛けてきているのか、探っているのだろう。


『んー、ゲーム~? 僕、よくわかんないや~。何を考えているのかな~?』

「あなたと遊ぶことは楽しいですが、あなたと私が本気で遊ぶとなると周囲に迷惑をかけますからね。そこで提案したのがゲームのお誘いというわけです。ゲームならば被害を与えることなく心置きなく遊べるとは思いませんか」


 ナウナウは瞳を細めたまま。

 疑っているのだろう。

 獣の鋭い気配を漂わせ、牙を覗かせるように口を開いていた。


『そんな必要あるかな~? いまだって~、君が~、周囲への被害を防いでいるし~? 僕はこのままずっと、ずっと、ずぅぅぅぅっぅっと遊んでても問題ないよ~?』

「おや、衝撃波を発生させているだけで楽しいのですか?」

『うん! すっごい、すっごい楽しいんだよ~!』


 ナウナウは心底喜んでいる様子で、キャッキャウフフ。

 確かに、彼らほどの獣神となると自由に暴れられる場所というのは限られてくる。私という調整係がいる今回は、ナウナウにとっては本当にまたとない機会なのだろう。

 もっと遊べ!

 もっと遊べ!

 そんなウズウズがこちらに伝わってきているのは心苦しいが。


「ありがとうございます、しかし――困りましたね。それでもさすがに年単位を遊んでいられる余裕がこちらにはないのです」

『大魔帝のケトスくんがまたくるから~?』

「そういうことになりますね。というか、あなたは事情をどこまで把握なさっているのです」


 口元に手を置き、こてんと首を倒し。


『どこまでって~?』

「私の事情やこの三千世界うちゅうの事情のことですよ。どうもあなたはファンシーな見た目のわりに、裏表の激しい存在に見えます。腹黒な所も可愛いと言えば可愛いですが、仮に敵となると厄介だと感じておりまして――、一度、この機会に腹を割ってお話をしたいのですが。どうですか」

『ん~、そうだね~。僕がどこまで知っているか……うん、いいよ!』


 ナウナウは言った。


『んー! まあだいたい全部かな~! 君が~、魔術を作った偉い神様の欠片の転生体だってことも~。君が~、内心では魔術を忌避して~、魔術そのものがなかった世界に戻そうとする可能性があるってことも~。君が~、僕の大好きな魔猫の~、イエスタデイの~恩人だってことも~、ぜーんぶ、ぜーんぶ知ってるよ!』


 情報元はまあグーデン=ダークだろう。

 彼は優秀な諜報員でもあったのだろう。


「あくまでも私はあなたの恩人だった者の欠片。はたして、この私を楽園にいた”あの方”と言っていいかどうかは正直分かりませんがね」

『そうだね~。だからね~、僕はね~。イエスタデイが君と接触する前に、会う機会を探っていたんだよ~』

「……やはり、あなたも獣神の例に漏れず、愉快に見えても神は神。それなりに策を張り巡らせているようですね」


 おそらくは――友のために私という存在を探りに来た。

 様子を探り、邪魔ならば消すために。

 それも、私側から接触することを計画していたのならなかなかどうして――このパンダ、かなりの策士と言えるだろう。


 まあ、部下に考えさせたという可能性もかなりあるが。


「それで、私はあなたの御眼鏡には適ったのでしょうか」

『遊ぶ玩具としては、そうかもね~♪』

「しかし、イエスタデイ=ワンス=モアに会わせるかどうかは決められないといったところですか。友達思いなのですね、あなたは」

『えっへん! そうだよ~! だからね、イエスタデイを虐めそうなやつは僕がね~、ぜーんぶ、ぜーんぶ消しちゃうんだよ~! 君は消さないけれど~、でもね、何があるかは分からないから、ここで、ずっと、ずっと、一生、僕と遊び続ければいいと思うんだ~。駄目かな~?』


 彼が大好きなのは、恩人たる魔猫。

 イエスタデイ=ワンス=モア。

 四星獣のリーダーの主神。


 ゲームに勝ちさえすれば、どんな願いもかなえてしまう魔猫の置物と盤上遊戯。

 かつて神々に改造された哀れな、魔猫と主人。

 主神となった魔猫の置物だが、その性質は善。

 良き神なのだ。


 おそらくはかなり人も良い。

 だからこそ、友が利用されないかこのナウナウは心配なのだろう。

 しかし――。


「だからといって、あなたと一生を遊んでいるわけにもいきませんからね。そこで提案したのがゲームというわけです。大丈夫、あなたもきっと興味を持ってくださいますよ」

『分かってないな~』


 ナウナウは左右に振っていた上半身を止め。

 グギギギギギっと咢を開き。


『僕たちはね? 盤上遊戯、つまり世界そのものがゲームになってる世界の神様だよ? 君が勝てるわけないんだ~。絶対に勝つと分かっているゲームなんて~、面白くないもん♪』

「たいした自信ですが、これならばどうです」


 言って、私は再びフィールドを取り戻した星夜の竹林にて、召喚魔術を発動。

 呼び出したのは、天を衝くほどの巨大な世界樹と……その根元に置かれたボードゲーム。

 そのゲームの名は、盤上遊戯。


 それは四星獣が支配する世界。


 彼らの世界と同じゲーム。

 である。

 だからだろう。


 一瞬だった。


 風が止まり。

 空気も止まり。

 そして、力ある魔性のケモノは星夜を一瞬で荒れ回った。


 ナウナウの姿が、消えていたのだ。

 それほどに素早い徒手空拳だった。

 私は反応し――迎撃。


 それを戦いと言っていいかは分からなかった。けれど。


 体術の応酬が、周囲の空気を振動させている。

 だがおそらく、周囲からはこちらの姿は見えない。

 互いの姿があまりにも早く動くからか、騙された世界からは、存在が消えているように見えているだろう。


 四星獣ナウナウの本気の攻撃。

 神速攻撃は、つい先ほどまで私がいた空間を抉っていた。

 空間座標そのものを喰らう事による、耐性を無視した即死攻撃だろう。


 眺めていた勇者ガノッサは――。

 こいつら……ふつうに即死攻撃使いすぎだろ……と。

 微妙に呆れ顔だが、まあだいぶ余裕のありそうな顔である。


 慌てふためかれたら面倒なので、これは助かるのだが。

 しばらくした後。

 ナウナウの本気の攻撃を全て体術でいなした私は、パンダの背中に邪杖ビィルゼブブの先端を当てていた。


「この勝負は私の勝ちのようですね、気高き巨獣の王よ」


 神速で動き回る獣神の動きを捉え、逆に背後を取る。

 武術の達人ならばこそ、この意味が理解できただろう。

 見守っていた獣神も目を見開き――見守る中。

 ナウナウは振り返り、あは!


『キミ――おかしい強さだね!』

「突然すみません。これでも私も武術には覚えがありまして。あなたの攻撃であっても、この通りです。少しは落ち着いて貰えましたか?」

『そうだね、キミが杖から攻撃魔術を放っていたら、僕の負けだったね。うん、いいよ。認めてあげるよ! でも、これは盤上遊戯、僕たちの世界だよね? 説明が欲しいんだけど、どうかな~?』


 彼がキレたのは、それが自分の世界に見えたからだろう。

 盤上遊戯。

 願いを叶える遊戯型の魔道具。


 だがこれはいわばレプリカ。


「やはり簡単な話です、あの魔道具を作ったのは楽園の神々。ならば、その楽園の神々の一員だった私には、同じものが作れる。矛盾はしていないでしょう」

『材料に、何を使ったのかな』

「ご安心ください、全ては無から作り上げました。見た目はあなたたちの世界とそっくりですが、これには魂が宿っていない本当に、ただ遊ぶためだけのゲーム。これで私とゲームをしましょう。あなたが勝ち続ける限りは、私は永遠に遊び続けます。けれど、私が勝った場合は――ひとつ、願いを叶えていただきたい」


 ん~?

 と肩を傾けナウナウが言う。


『あれれ~? だって君、いま僕に勝ってたよね~?』

「あれはあなたが盤上遊戯の姿を見て動揺していた隙を突いただけですからね。それに、私はゲームをしないかとお誘いしました。あなたがお嫌でないのなら、約束通りゲームで決着をつけたいと願っております」


 言って私は、ナウナウを盤上遊戯のゲームへと誘っていた。

 かつて神が遊んだゲーム。

 四星獣にとっても、それは初めての経験だろう。


 ナウナウは盤上を眺め、じぃぃぃぃぃぃ。


『相手の領土を~、自分の手駒で占領すればいいんだよね~?』

「ええ、あなたたちの世界の法則と似ていますね」

『うん! いいよ! やろうやろう!』


 ナウナウは瞳を輝かせ、魔道具の上に熊猫の手を置いた。

 私もその手の上に手を置き――魔力を流し込む。

 ゲームが開始される。


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