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第130話 恐るべき存在―大義は魔王と女神に在り―


 到着したドワーフ達の帝都には、物々しい空気が広がっていた。

 多くの襲撃を受けていたのだろう、都市の空気は極めて重い。

 見た目のイメージは地底帝国。

 光を反射するヒカリゴケに大量の照明を当て、帝都全体を満月よりも明るく照らしているようだが――。


 彼らに曰く、半年ほど前から人間族からの襲撃を受け始め――。

 ここ一カ月はその頻度も加速。

 どこの大陸の人間かも分からぬ集団に、鉱石販売所や鉱山を荒らされ、人的被害も多く出ているという。


 ドワーフ達にとって人間とは未知の集団。

 種族差がありすぎる種族ゆえに、顔の区別などつかないらしい。

 だからこそ、どこの、どの集団が襲ってきているのか特定もできずに、魔術も使えない彼らの戦況は不利。

 困り果てているようなのだが。


 いったい、どこの大陸の人間の仕業なのか――。


 焼け焦げた跡や匂いは、まだ生々しく残っている。

 つい先ほども戦いがあったと分かるほどの、ヒリついた空気が伝わってくるのだ。

 ドワーフ達がエルフだけではなく、人間を警戒していた理由も納得できる。


 見知らぬ私たちの来訪に隠れているドワーフラビットたち。

 怯える彼らを遠目から眺め私が言う。


「どうやら、本当に人間たちからの侵略に遭っているようですね――」


 女神アシュトレトも一方的な虐殺は好かないようで、露骨に口数が減っている。

 かなり怒っているようだ。

 冷静な終焉の魔王グーデン=ダークは訝しみ。


『おかしいですねえ……、吾輩が前に訪ねた時には平和な街並みが続いていたのでありますが。って、なんですかなレイド殿。吾輩の仕業ではありませんよ!?』

「――まあ、人間からの襲撃に遭っていたのなら、わざわざ私の力を借りずともあなたが手を差し伸べれば解決していた話。交渉において、圧倒的に優位な状況を作り上げていたでしょうからね。そして、私がいるときにこのような失策をするとは思えない。その点は信用していますよ」


 明らかに私と女神は不快感を覚えているのだ。

 終焉の魔王グーデン=ダークには、このような演出をする必要がない。


『メメメメ!? 酷い言われようでありますなあ!?』

「終焉を眺めるのがお好きというあなたの性質、悪魔のサガは演技ではなさそうですからね。かといって、あなたは火種を作るのではなく――あくまでも現地でやらかす人材を観察し、こっそり見守り愉悦を覚える変人に思えます。唯一の例外はティアナ姫に近づき、扇動したことですが――」


 話を引き継ぐように、女神アシュトレトが横目で羊を睨み。


『どうやら、我が夫を試すための作戦であったようだからのう。夜の女神の企みか、そなたの企みかは知らぬがな――』

『まあ、女神あなた様も含めて――滅びるはずの魔術国家インティアルを利用し、あなたがたと接近したのは事実とは言っておきましょう。これ以上は内緒。吾輩はできる紳士で執事な羊悪魔ゆえ、秘密主義なのでありますよ!』


 滅びるはずの国ならば多少の演出や、舞台として使っても問題ない。

 そう夜の女神も判断したのだろう。

 なにをしなくても滅びるのだ、ならば、グーデン=ダークと夜の女神は魔術国家インティアルに可能性を与えたとも受け取れる。

 実際、ケンカを売る形で私と出逢う事で運命が変わり、前回のように国が救われる可能性を掴むこともできたのだから。


「どこまでが計算かは知りませんし、あなたと夜の女神のどちらの計略かは知りませんが――事を起こすにしても、私や女神の許容範囲内で行動していたようですからね。今回のドワーフ襲撃にはそれがない。あなたの犯行ではないと確信はてきていますよ」

『それは僥倖』


 道化芝居の羊魔王はくるりと回り。

 案内役となっていたドワーフ達を振り返る。


『――さて、本来ならば真っ先に交渉――あなたがたのボスと商談させていただきたかった所ではありますが、事情が事情であります。先に侵入者を排除してから話をしたいと考えておりますが、構いませんか?』


 ドワーフ達はそれぞれのウサギ顔を眺め。

 口元をモサモサと動かし。


『排除? 侵入者?』

『この街、いまは平和の筈』

『グーデン=ダークさん、なにか、しってるのか?』

『ええ、まあ――この帝都に前にはなかった美味しそうな……、いえ、なにやら胡散臭い人間の香りがしておりますので、少なくとも隠れている人間はいる筈かと。逆にお聞きしますが、どなたかが人間の方と取引をなさって招いているという事は?』


 ウサギは首を横に振る。

 ぴょこりとした耳が動く姿も、悪くはない。


『おれたちが、トレードしているのは、クリームヘイト王国からの使者だけ』

『こいつら、海竜女王の匂いがある、加護がある』

『だから、純粋な人間とも違う。海竜女王の眷属。だから、人間じゃない』


 確かに、クリームヘイト王国の現女王は人間と海竜のハーフ。

 その下で動く人間たちは、ハーフドラゴンの眷属と言い換えることもできる。

 あの国だけが今もこうしてドワーフ達と交流がある理由が、ようやく理解できたが。


 グーデン=ダークが流した涎を、ごしごし。

 何食わぬ様子で拭き取りながら、シリアスな顔で。


『でしたら、やはり侵入者で確定でありますか。どうしますか、レイド殿』

『そうですね――投降を呼びかけた警告の後、反応がなければ一網打尽にしましょう。帝都全体に及ぶ魔術を使いますが、許可をお願いできますか?』


 やはりドワーフ達は魔術に疎いのだろう。

 帝都全体?

 と、全員同時にもふもふなウサギ顔を、こてりと横に倒している。


 これが緊急事態でなかったのなら癒しなのだが。

 銀の髪と赤い瞳をヒカリゴケの緑に反射させながら――周囲を見渡し。

 ドワーフ語で私が言う。


『隠密行動、隠匿、隠避。そういった……座標、或いは存在自体をごまかし姿を消す魔術を使って潜伏している人間の気配を感じます――そういった連中は脱出手段も確保していると考えられる。なので帝都を結界で覆い、脱出できないようにして空間を固定。一人も残さず捕まえたいのです』


 私は魔術式により演算した未来の光景をシミュレートし。

 映像として具現化。

 ドワーフ達が興味津々にモニターを眺め、鼻先をチクチクさせる様を眺める横。


『おそらくはこの大陸に侵入してきている人間が、どこかに転移門……座標と座標を指定し移動するワームホールのような魔術を展開していると考えられます。大丈夫、相手は許可なく入り込んだ侵入者なので大義はこちらにあります。警告もしますからね。国際法廷が起こったとしても勝つ自信があります……相手に気取られても面倒なので仕掛けますが、よろしいですか?』


 既に私の魔王の瞳に映るマップには、赤いマークが表示されている。

 グーデン=ダークが言うようにドワーフ達は魔王側の魔物判定らしく、青色表示なのだが。

 ドワーフ達が、獣毛輝く顔を上げ。


『おまえ、人間とエルフの中間』

『なぜ、俺たちを助ける?』

『対価を求めて、いるのなら、無理。今の俺たち、人間のせいで破産寸前』


 救われれば対価を求められる。

 当然の発想だ。

 ドワーフ達は根が商人気質なのだろう。


 だが、私は穏やかな微笑を浮かべ。

 相手を落ち着かせる声を意識し、誠実に告げていた。


『”誰か(もふもふ)”を救うのに理由が必要ですか?』


 ――と。

 女神アシュトレトも旅を邪魔する外道な人間たちを許す気はないらしく、私に頷き。


『妾は不快じゃ――警告とやらを行い、早く解決しようではないか。今宵はクリームヘイト王国の使者たちと、こやつらドワーフ達とで宴をする予定であるし、宿を決める前に動こうぞ』

『ええ! ええ! 吾輩も賛成であります! 無辜なる市井の民を狙う外道など、ぜったいに、ぜぇぇぇぇぇったいに許せません!』


 グーデン=ダークは人間が丸ごと入りそうな麻袋を装備しながら、じゅるりと舌なめずり。

 ドワーフ達もグーデン=ダークさんがそう言うのなら、と。

 頷き。

 全員の同意を得られたという事で――。


『それでは、魔術を発動します。皆さん、衝撃に備えてください』


 結界を張ると同時に。

 私は警告を開始した。

 ムーンファニチャー帝国全体を、超特大魔法陣が覆い始める。


 おそらく――。

 それなり以上の使い手であれば、この瞬間に悟っただろう。

 この大陸に、何か恐るべき存在が入り込んだのだ、と。


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