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94話「アケビvs砂の魔女」

 砂の魔女のユニークスキルは〈浮遊〉。一定範囲内の物体を浮遊させることができるという便利なスキルだ。

 おそらく、それを利用してさっき砂嵐を生み出したのだろう。


 彼女はふわりと浮き上がると、こちらに手のひらを突き出した。途端、道端に転がる無数の石が四方から俺に向かって飛来した。


 俺は〈俯瞰視点〉を使って危険な物体が飛んでこないか確認しつつ、全身に〈硬化〉を使ってそれらを受け止めた。この程度の物理攻撃なら、いとも簡単に受け止めることができる。


 砂の魔女はピンピンしている俺の様子を目にすると、こちらを見据えたまま、そっと手を下ろした。どうやら、この攻撃は通用しないと悟ったらしい。


「なるほど、あなたのユニークスキルはそういうものなのですね。分かりました。では、これでどうでしょう」


 彼女はパチンと指を鳴らした。すると、左手にある岩場から、建物一つ分は悠にありそうな巨大な岩塊が、パラパラと石片を落としながら浮かび上がった。

 

「おいおい、そんなのありかよ……!」


「アケビ、助けた方がいい?」


「いや、大丈夫だ! 俺一人でなんとかする!」


「分かった!」


 俺は頭上を見上げながら思案した。

 まあ、なんとかなりそうだな。


 悠々と岩塊を眺める俺の様子を、年貢の納め時を悟ったのだと勘違いしたらしく、砂の魔女はふんと鼻を鳴らした。


「降参するなら今のうちですよ?」


「いや、しねぇよ。いいから落としてみ?」


「死んでも知りませんよ!」


 砂の魔女は両手を広げて俺の方に向けた。

 すると、岩塊は瞬く間に俺を押し潰さんと迫ってきた。


 飛び上がった俺は、岩塊の表面に右手で触れた。その瞬間、〈質量操作〉で質量の大きさを小石程度に下げる。

 それでも岩塊の飛来する勢いは死なないので、〈身体強化〉を使いつつ、誰もいない方角へ向かってそれを放り投げた。


 岩塊はずんという音を轟かせて着地した後、土煙を上げながら少しばかり転がり、そして沈黙した。


 砂の魔女は口をあんぐりと開けながら、その様子を唖然と眺めていた。


「は……?」


「いやぁ、焦ったよ。あんた、あんなでかいもんも浮かせるんだな」


「私は砂の魔女ですよ、当然でしょう――っていうか、そんなことはどうでもよくて! あなた、ユニークスキル一体いくつ持ってるんですか!?」


「何個でもいいだろ。それじゃ、今度はこっちからも行くぞ!」


 俺は上空に浮かんでいる砂の魔女目掛けて、空中を一気に駆け上がっていった。


 これはアーシャを護衛する旅の途中、刺客との戦いの中で、〈硬化〉で水面を飛び石のように渡った経験から編み出した技術だ。

 水を〈硬化〉できるなら、空気だって〈硬化〉できるはずだ。そう思い、空中歩行できないか修行中に実験してみた結果、見事に成功したというわけだ。


「なっ……!? 嘘でしょう!」


 砂の魔女は驚きの声を上げた。一方、修行の様子を知っているビヨンドメンバーたちは、一様に自慢げな表情で俺を見上げている。


「俺はやろうと思えばなんでもできんだよ!」


「そんなの……ずるい……っ!」


「ずるくて結構!」


 必死に飛び回る砂の魔女を追い回しながら、俺はパンチやキックを繰り出していく。

 やがて、〈加速〉しながら放った飛び蹴りが砂の魔女の肩口にヒットした。


「あうっ……!」


 砂の魔女は痛みによって〈浮遊〉スキルのコントロールを失い、地面に落下していく。


「危ない!」


「手を出すな!」


 俺は〈硬化〉した空気を蹴り、斜め下に向かって〈加速〉する。そして砂の魔女を抱えると、そのまま重力に身を任せた。


 大量に地面を覆い尽くす〈雲泡〉が、俺たちの体をふんわりと受け止める。ギリギリで放出したが、間に合ってよかった。


 俺は「ふぅ」と息をつくと、砂の魔女をそっと地面に下ろした。

 全身についた雲泡には目もくれず、砂の魔女は俺に詰め寄った。


「なぜ助けたんですか!」


 そこで俺はちっちっと舌を鳴らしながら、人差し指を振った。


「その前に、一つ言うことがあるだろ?」


「……降参です。私の負けですよ。これでいいですか?」


「ああ、十分だ」


 俺がにっこりと微笑みかけると、砂の魔女は不満げに頬を膨らませながらそっぽを向いた。


「アケビ! 大丈夫!?」


「二人とも無事だよ。それより、シャワーが浴びたいな。どうだい? 一緒にさっぱりして、それから少し話でもしないか?」


 俺が手を差し伸べると、砂の魔女はその手を振り払った。


「どうして、私があなたたちと話し合わなくちゃならないんですか?」


 そのとき、俺の秘めたる嗜虐心(しぎゃくしん)が一つのひらめきを生み出した。

 俺は両手を後ろで組み、胸を張り、砂の魔女に向かって大仰に語りかけた。


「ああ、言い間違えた。俺たちの宿までついてきたまえ、敗北者(・・・)くん。もちろん、有無は言わせんよ?」


「〜〜っ!!」


 砂の魔女は屈辱に塗れたその呼び名にぐっと歯噛みした。魔女というだけに、プライドは高いみたいだな。


「それじゃ、いったん熊討伐は中止だね」


「当然です!」


 プリプリと怒りながら、砂の魔女は俺たちを先導して行ってしまった。


 俺は肩をすくめ、他のメンバーたちと顔を見合わせると、その後を急いでついていった。

 魔女っていうのは、どうしてみんなこうも扱いにくいんだろうか。全く、困った種族だ。

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