表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/133

92話「アーシャからの贈り物」

 イルスティナを通過するにあたって、大きく分けて二つのルートがある。


 前回ラピスタンを目指す際に通ったのは、山脈を横切る南ルートだった。アーシャの命が狙われていたから、少しでも早く着けるようにということでそちらを選んだ、というのは記憶に新しい。


 一方、今回俺たちが選んだルートは、平地を行く北ルートだ。こちらは時間がかかるものの、街道が整備されており、また地形の起伏が少ないため歩きやすい。

 現時点では別に急ぐ旅でもないし、安全にゆっくり進んだ方がいいだろうと思ったのだ。


 そんなわけで、イルスティナの北方に位置する町ダグに到着した俺たちは、久しぶりに冒険者ギルドへと向かっている。


 街中(まちなか)で幽霊騒動が起きては困るので、エーリカには透明化して上手く隠れてもらった。どこにいるのかは分からないが、みんなの会話はしっかり聞いているので大丈夫とのこと。


「どうする? 久々に依頼でも受けるか?」


「ありだね。それと、賢者の末裔について情報収集もしておきたい」


「そうだなぁ。なしのつぶてじゃなぁ」


 ケシムが封印された暁光(ぎょうこう)の杖の行方は未だつかめていない。

 そろそろ手がかりの一つでもほしいところだ。


 俺たちは若干の期待を抱きながら、冒険者ギルドに足を踏み入れた。

 都市部にあるギルド支部と比べると建物は小さいものの、十分な活気がある。


 聞き込み調査をするため、俺は早速カウンターのスタッフに話しかけた。


「すいません、ちょっと聞きたいんですけど」


「なんでしょうか」


 サイドテールの女性はにこやかに俺を見返した。

 ここは単刀直入に聞くのがいいだろう。


「この辺りで物騒な事件ってありませんでしたか? 人が誰かに殺されたり、襲われたり」


 その女性はあごに手を当てて考え込んだ。


「物騒な事件、ですか? うーん、私が知っている限りでは、そういうことは特に起きていませんね」


「そうですか」


「何かそれらしい情報が入ってきたら、お伝えしますよ。冒険者カードを拝見してもよろしいですか?」


「あっ、はい」


 俺はバックパックから冒険者カードを取り出し、スタッフの女性に手渡した。

 女性は慣れた手つきでそのカードを機械に読み込んでいく。


 すると彼女は、途端に驚いた様子で目を見開いた。


「アケビ・スカイ様。とてもいいニュースがあります」


「なんですか?」


「冒険者ランク、Sランクに昇格なさっていますよ」


「えっ?」


 俺は耳を疑った。そう簡単にSランクには昇格できないと聞いていたからだ。


「昇格した理由とか分かりますか?」


「少々お待ちくださいね」


 スタッフの女性は大慌てで機械を操作した後、画面を凝視しながら口を開いた。


「ラピスタンにおける紛争解決に多大な貢献をしたため、と書いてありますね」


「そうですか」


 俺はそこで合点がいった。これは間違いなくアーシャの推薦によるものだ。

 アーシャが言っていた「プレゼント」というのは、このことだったのだろう。全く、粋な真似をしてくれる。


 そのとき、俺とスタッフのやり取りを横で聞いていたシエラが身を乗り出し、会話に割って入った。


「妾は!? 妾はどうじゃ!?」


「ビヨンドのクランメンバーの方ですね? いまからお調べ致します」


 機械をいじくった後、スタッフの女性は首を横に振った。


「他の方々は残念ながら変動なしのようですね」


「ああ、そうか……」


 シエラは肩を落とし、がっくりとうなだれた。


 せっかくあれだけ活躍したのに昇格なしとは、他のメンバーたちが不憫ではある。とはいえ、昇格の基準がブラックボックスである以上、仕方のないことだった。


「アケビ! 頑張ってよかったね!」


「ああ、そうだな」


 ニアは自分のことのように喜んでいる。

 昇格したと言われても実感がいまいちわかない俺だったが、その様子を見ていると釣られて少し嬉しくなってきた。


「そういえば、Sランクっていうと最上級ランクですよね。何か特典とかあるんですか?」


「はい、ございます」


 ユウキの質問に対し、スタッフの女性はすらすらと返答した。


 特典は多岐にわたっており、協賛する店舗におけるギフトや割引、依頼の優先受注、そして高難易度の依頼のあっせんなど、様々なメリットがあるようだ。


「すごいじゃないか、アケビくん。いいことがいっぱいだ」


「これからはご相伴に預からせてもらうぞ」


「おう、大船に乗ったつもりでどんとこい」


 俺は胸を叩いた。マスターとしてクランに貢献できるなら、それほど嬉しいことはない。これからはSランク冒険者の特権をじゃんじゃん使っていこうと思った。


「それでは、これから冒険者カードを更新して参りますね。少々お待ちください」


「お願いします」


 俺の冒険者カードを持って、スタッフの女性は奥に入っていく。

 それからしばらくして、戻ってきた彼女が手に持っていたのは、光り輝くプラチナのカードだった。


「こちらが新しいカードになります。どうぞお確かめください」


「ありがとうございます」


 天井のライトに当てると、表面の加工が光を反射して輝きを放つ。宝石のようなその美しさに、俺は思わず息をのんだ。


「これがSランクの冒険者カードかぁ」


「きれいだね!」


「初めて見たよ。そうそうお目にかかれるものじゃないからね」


〈すごいのだ! おめでとうなのだ!〉


「くぅっ、先を越されちまった! すぐに追いつくかんな!」


「妾もじゃ!」


 それぞれが十人十色の反応を返す中、俺は自分のカードを恐る恐るバックパックにしまい込んだ。なくしたら大変だからな。


「それじゃ、次は掲示板でも見るか」


「了解」


 Sランク冒険者として上手くやっていけるかどうか、若干の不安を感じながら、俺は掲示されている依頼書やチラシを物色するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
「応援したい!」
と思ったら、↑の[☆☆☆☆☆]から評価をよろしくお願いします!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ