91話「エーリカの初陣」
幽霊屋敷を出発した俺たちビヨンド一行は、新たな仲間エーリカを連れて街道をひた歩く。
次の町へ向かう道中、俺たちはエーリカに、旅の経緯とこれまでのビヨンドの活躍について語り聞かせた。
彼女はときに感心し、ときにその展開に驚きながら、話にじっと耳を傾けていた。
一通り話し終えると、俺はふぅとため息をついた。
結構長く話していたから、喉がカラカラだ。バックパックから水筒を取り出し、中に入っている水をごくりと飲み干してから、また口を開く。
「まあ、ざっとそんな感じかな」
「みんなすごいのだ……! 私も負けてられないのだ!」
エーリカは英雄譚を読み聞かされた子供のようにキラキラと目を輝かせている。
「そんなに焦らなくても、エーリカにはエーリカのできることをすればいいと思うぞ」
「いや、私もみんなのために貢献したいのだ! というか、してみせるのだ!」
エーリカは俺たちの話を聞いてすっかり奮起したようで、ふんすと鼻息を鳴らしながら顔の前で両拳を握りしめた。
まあ、やる気があるのは良いことだろう。姿勢が若干前のめり気味なのは不安材料だが、いざというときは俺が手綱を引いてやればいいだけのことだ。
そのとき、俺たちの前にジャメノスの群れが立ちはだかった。
起伏のあるこの一帯の岩場は物陰が多く、格好の狩場になっているのだろう。やつらは俺たちを素早く取り囲み、牙をむいて威嚇してきた。
俺たちは特に掛け声を出すでもなく、それぞれのポジションについて身構える。
旅の中で培ったチームワークはいつしか、合図なしに魔物に対応できるほどまでに高められていた。
しかし、そこでエーリカは俺たちの前にずいと進み出た。そして右手をこちらに向けて制止する。
「みんな、ちょっと待つのだ。ここは私に任せてほしいのだ」
「お、おい、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫なのだ。化かされたと思って見ていてほしいのだ」
幽霊であるエーリカには物理的に触ることができないから、身の危険はないだろうが、逆にこちらから攻撃することもできないんじゃないだろうか。一体どうやって魔物と戦おうというのだろうか。
そんな俺たちの疑問を振り払うように、エーリカはドロンとその姿を変化させた。
目の前に現れたのは、背に翼を持つ巨大な黒いドラゴンだった。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」
本物のドラゴンと見紛う迫力でエーリカは大きく吼えた。ビリビリと空間が震え、俺は思わず肩をすくめた。
ジャメノスたちもその存在感と威圧感にビビったのか、キーキーと鳴きながらじりじりと後退していく。
そんな中、前線にいるジャメノスの一頭が勇敢にも立ち向かってきた。やつは自慢の脚力を使い、エーリカに向かって跳びかかる。
その瞬間、エーリカはタイミングを合わせて首を振るうと、そのジャメノスにガチリと噛みつき、地面に思い切り叩きつけた。
激突の衝撃を受け、立ち上がったジャメノスは怯えながら逃げていく。それを皮切りにして、他のジャメノスも後を追うようにして逃走していった。
「ふぅ、なんとかなったのだ」
エーリカは再びドロンと変化して元の姿に戻ると、額を左腕でぬぐった。
結果を見れば、エーリカ単身でジャメノスの群れを追い払ったことになる。
俺たちは目を見張りながら彼女を迎え入れた。
「エーリカ、すごい!」
「なにも殴る蹴るだけが戦いじゃないのだ。脅かすのも立派な戦術なのだ」
「なるほどなぁ。勉強になっぞ」
パーティメンバーたちがひとしきり感心する中、俺の中にある一つの疑問が浮かんだ。
「そういえば、さっきの噛みつき攻撃はどうやったんだ? 本当に噛みついてるように見えたけど」
まさか、本当にドラゴンに変身していたわけではあるまい。何らかのトリックを使ったのだろう、と俺は予想していた。
するとやはり、エーリカは首を横に振った。
「いや、そうじゃないのだ。あれはハリボテの体の動きに合わせて、念動力でちょちょいと浮かせて、地面に投げただけなのだ」
「あっ、それじゃあ実際に噛みついたわけじゃないんだね」
「大きな傷をつけるのはちょっと厳しいのだ。ただ掴んだり押したり動かすだけならできるのだ」
幽霊ならではの戦い方に、俺はエーリカを見直した。これなら彼女も立派な戦力になるだろう。
そう思っていると、一息ついたエーリカが、俺の顔を恐る恐るのぞき込んできた。
「これで入団試験は合格なのだ?」
「いや、別に試験とかそういう制度はないけどさ。十分合格だよ」
「良かったのだ! これで晴れて仲間って言えるのだ!」
エーリカは自分の実力が認められたことに満足したのか、腰に両手を当てて自慢げに胸を張った。
実際のところ、なかなか侮れない実力の持ち主だと思う。彼女が敵でなくて本当に良かった。
「さあ、あいつらの気が変わって戻ってこないうちに、早いところこの一帯を抜けてしまおうよ」
「そうだな。もちろんだけど、他の魔物たちにも気をつけて進むようにな」
「ラジャー!」
こうしてジャメノスを難なく退けた俺たちは、荒涼とした岩場地帯を早足で歩いていった。
エーリカはふわふわと浮きながら、意気揚々とパーティの先頭を進んでいく。
俺はその後ろ姿を眺めながら、頼もしい味方が増えたことを実感して、ふっと笑うのだった。




