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84話「アケビvsバリー その3」

「グオオオオオオオオ!!!」


 バリーは雄叫びを上げながら、こちらに突進してきた。

 しかし、人間の知性を失ったその直線的な動きを見切るのは容易いことだった。俺はすれ違い様にバリーの肩を斬りつけた。


「ガアアッ!」


 傷口から青い血が噴き出し、バリーは苦痛に声を上げる。


 結構強く斬りつけたつもりだったのだが、やつの肉体が強化されているせいか、深手にはならなかったようだ。

 その傷口を気にすることも、動きが鈍ることもなく、バリーはこちらへ振り返る。


 自らの体を傷つけられたことに対する怒りの形相を浮かべたバリーは、青い炎をまとった両手を頭上に振りかざした。


 〈動作予知〉で危険を察知した俺は、〈質量操作〉を使って自分の体を極限まで軽くし、天井に向かって跳び上がった。

 それから〈粘着〉を使って両手を天井に貼り付け、体重を支えてぶら下がる。


 その瞬間、バリーは両手を前に突き出した。青い炎はメラメラと燃え盛りながら、広範囲の扇状に噴出していく。


「あっぶねぇ……!」


 S級魔物の魔法で生み出された炎だ。当たったら一体どうなるか、分かったものではない。命拾いしたと言っていいだろう。


 俺は体を揺らして反動をつけると、飛び降りながら〈加速〉した。そしてバリーの背後に着地しつつ、その背中を斬りつけた。


 今度はしっかりと刃が食い込んだみたいだ。パックリと傷が開き、青い血が流れ落ちる。

 バリーは大きくのけぞりながら、前に数歩よろめいた。


「グガアッ!」


 慌てて振り向いたバリーは、精細を欠く大振りのパンチで殴りかかってきた。俺はそれをかいくぐりながら、魔剣をしっかりと握りしめる。


「終わりにしよう! バリー!」


「グオオオオオオオオオオオオッッッ!!」


 刹那、俺はユウキとの修行での一幕を思い出した。

 それまで力一杯に刃を叩きつけていた俺は、ユウキにこっぴどく叱られたのだった。


『魔法剣は力で振るうんじゃない。マナで振るうんだ。師匠はいつもそう言ってた』


(力じゃなく、マナで……!)


 振り抜かれた両の拳を弾き返した俺は、魔剣に渾身のマナを込め、がら空きになったバリーの胴体目掛けて十文字に斬りつけた。

 俺のマナでコーティングされた蒼い鋭刃が、やつの強化された肉体を紙細工のように斬り裂く。


 そしてとどめに、俺は十文字の交差する一点に魔剣の切っ先を深々と突き刺した。


「クロスエッジ!」


 胸元にグサリと突き立った魔剣は、確かにバリーの心臓を捉えた。傷口から青い血がドクドクとあふれ出す。


「グ……ガ……」


 致命の一撃を受けたバリーは、その場に力なく倒れ込んだ。


 直後、俺はガクンと膝をついた。この城に乗り込んでから連戦に次ぐ連戦で、さすがに疲れた。しばらく戦うことは出来なさそうだ。


「勝ったぞ、みんな……!」


 敵の頭を取った以上、この長きに渡る戦は終わりを告げるだろう。レジスタンス軍が勝利を収め、アーシャは新たな女王としてこの国のリーダーに返り咲くことになる。


 そのためには、まず目の前で起きている戦いを一刻も早く止めなければならない。仲間たちの安全にも関わることだ。


「もう少し働いてもらうぞ、バリー」


 俺はぐったりして動かなくなったバリーの体を〈質量操作〉と〈身体強化〉で担ぎ上げ、地下室の出口に向かって階段を上っていった。


 裏庭に出ると、目ざとく俺のことを見つけた数名の兵士たちが俺に駆け寄ってきた。


「いたぞ! 逃がすな!」


「待て! お前たちの頭は俺が討ち取った!」


「なにっ!?」


 俺は担いでいたバリーの体を地面にどさりと放り投げた。

 もはや異形と化したバリーではあるが、その顔には人間だった頃の面影が残っている。それを見た兵士たちは、どよめきながらたじろいだ。


「それでもまだやるか?」


「ど、どうする……?」


「そうだ、五大将の誰かに伝えて――」


「その五大将とやらはもう一人も残っておらんようじゃが?」


 頭上から飛び降りてきたのは、シエラだった。どうやら彼女も無事に戦いを終えたらしい。


「そんなバカな!」


「嘘じゃと思うなら確かめてみるがよい。じゃが、妾たちはあまり気が長くはないぞ?」


 にやりと笑うシエラを見て、兵士たちは顔を見合わせた後、剣を放り捨てた。


「分かった。俺たちは降参する」


「あんたらの強さ、見てるだけでもよーく分かったからな。命は惜しい」


「賢明な判断じゃ。後の処理は任せても?」


「ああ。他の兵士たちに伝えてくるよ」


 そそくさと走り去っていく兵士たちを見送ると、シエラはふと俺のわき腹を肘で突いた。


「安心せい。仲間は全員無事じゃ」


「よかった。心配で気が気じゃなかったよ」


「もうちょっと信用してくれても良いんじゃが?」


「信用してないとは言ってないだろ」


 笑い合いながら、俺はほっと安堵のため息をついた。


 程なくして、城内の兵士たちは武装解除していった。指揮官を全員失い、戦意を喪失したのだろう。最後は事を穏便に済ませることができて本当に良かったと思う。


 開門したイシュレム城の中にアーシャ率いるレジスタンス軍が入城したのは、それから半日も経たない後のことだった。


 俺たち「ビヨンド」のイシュレム潜入作戦は、こうして成功を収めた。

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