83話「アケビvsバリー その2」
俺は〈身体強化〉と〈加速〉を使いながら、悪魔と人間のキメラと化したバリーに向かって斬りかかった。
するとバリーは魔剣を素手で受け止め、残る左手でパンチを繰り出してきた。
「なっ!?」
俺は慌てて身を屈め、それを避けながら跳び離れる。
魔剣の斬れ味は抜群で、並大抵の物体ならば簡単に切断してしまう。それを難なく受け止めたということは、やつが両手にまとっているマナに秘密があるに違いない。
そんな風に考えていると、俺の抱いている疑問を察したのか、バリーは自ら語り出した。
「マナの性質変化だ。お前の魔剣がよく斬れるのと同じ原理だよ」
「へえ、そうかい。さすがS級魔物様はやることが違うね」
「魔物ではない。新たな種族――魔人と呼んでもらおう!」
バリーは手のひらからマナの衝撃波を放った。俺はそれを魔剣で弾き返しながら、再び接近を試みる。
「そんな異形の存在になってまで、この国が欲しいのか!?」
俺は〈動作予知〉を使って相手の隙をうかがいながら、魔剣で斬りつけていく。一方、バリーはそれを拳で捌きながら反撃を試みる。
「他のどの国にも負けない強い国を作る! それのどこが悪いのだ!」
アッパーカットからストレートパンチへとつなぐ連撃に対し、俺は首を曲げてかわす。
「お前のその身勝手な野望のせいで、泣いてるやつがいるんだ!」
俺はそう叫ぶと、一回転しながら魔剣を叩きつけた。バリーはそれを手の甲で受け止め、踏み込みながらボディブローを放つ。
「知ったことか! そんな涙、犬にでも食わせておけ!」
〈硬化〉の上から叩きつける強烈な一撃に、俺は苦悶した。しかし、ここで簡単に退くわけにはいかない。歯を食いしばって斬り返す。
「体だけじゃなくて、心まで魔物に成り下がったのかよ!」
「この高尚な理想、小僧には決して分からんよ!」
マナをまとった刃と拳が互いにぶつかり合い、ガチンと硬質な音を立てる。
「そんなもの、分かりたくもないね!」
俺はそこで思い切り魔剣を振り抜いた。わずかに斬撃が通り、バリーの拳についたかすり傷から青い血がにじみ出る。
バリーは忌々しげにこちらをにらみながら、その血をペロリと舐め取った。
「青臭いガキが……!」
「上等!」
それから、俺とバリーは何合もかち合った。幸いなことに、〈不退転〉のおかげで、戦闘中に多少の怪我をしても劣勢にならずやり合えている。
問題は、スタミナだ。体に取り込んだ魔物細胞を活性化したバリーの体力は止まるところを知らない。それに比べて、生身の人間である俺にはどうしても体力の限界がある。
このまま戦い続ければ、有利なのはバリーだろう。ズルズルと戦いを長引かせるのは得策ではない。
とはいえ、実力はほぼ互角。そう上手く状況が好転するわけもない。
そこで俺は一つ勝負に出ることにした。
「なに……?」
バリーはもう一人の俺を見て片眉を上げた。
そう、〈分身〉を使って分身体を生み出したのだ。
「「これで二対一だ」」
「ふん。どちらも倒せばいい。それだけの話だ!」
残念なことに、刻みこまれている魔法が関係しているのか、魔剣をコピーすることはできない。だから、分身体は徒手空拳で戦うことになる。
俺は左側から魔剣を使って攻め、分身体は右側から〈硬化〉した拳を振るう。バリーはそれを両手で受け止め、いなしていく。
分身体はバリーのわき腹目がけて回し蹴りを放った。それに合わせて、俺も魔剣を振り抜く。
バリーはそれぞれの腕でそれらの攻撃を受け止め、力で強引に跳ね返した。それから、分身体を狙ってキックを繰り出す。
〈硬化〉した腕でそれをガードした分身体だったが、蹴りの衝撃に耐えきれず、後方に吹き飛んで消滅した。
なんだか、さっきよりも攻撃の威力が増している気がするのは気のせいだろうか。
一瞬とはいえ、分身体に意識を割いたことにより、バリーにわずかな隙が出来た。俺は振るわれる拳をかいくぐりながら、相手の懐へ潜り込む。
そして、俺はバリーのあごをかち上げるようにして、下から魔剣を振るった。頭をかしげて避けようとしたバリーだったが避けきれず、首筋が大きく斬り裂かれる。
「ぐうっ!」
とっさの膝蹴りをガードした俺は、その勢いを利用しながら飛びずさった。
青い血が滴る首元を手で押さえながら、バリーはうなだれた。
「はぁ……はぁ……こんなガキ一人に手こずるとは……こんなところでつまづいてなどいられないというのに!」
おもむろにひざまずいたバリーは、床の魔法陣に手を当てた。
次第に陣全体が光り輝き、空中に次元の穴が開いていく。
「お前、まだ魔物化するつもりなのか……!?」
「我が大望、必ずや成就してみせる! そのためなら、この身をも捧げる覚悟だ!」
穴の中から大量のマナが噴き出し、バリーの体内に流れ込んでいく。
「グオオオオオオオオオオ!!」
全身の筋肉が肥大化していき、人間味が残っていた頭の部分までもが青色に染まっていく。
やがておぞましい変身を終えたバリーは、こちらをギロリと見据えた。
「グルルルルルル……」
その瞳に、もはや理性の光はない。
完全に魔物と化したバリーを、俺はなんとも言えない気持ちで見つめた。そんな姿になってまで、その野望は果たしたいものだったのだろうか?
「俺、人としてブレないあんたのこと、少しは尊敬してたんだけどな……」
「ガアッ!!」
飛びかかってきたバリーを、俺は回し蹴りで迎撃した。頬に直撃した蹴りによって、みしみしと首がきしみ、それから吹っ飛んでいく。
壁に衝突したバリーは、首を振りながらよろよろと立ち上がった。なかなかにタフな野郎だ。
バリーに対して魔剣を構えた俺は、気持ちを切り替えた。こうなったら、やることは一つだ。
「人類に仇なす魔物は討伐しなきゃな!」
狂気に満ちたバリーの赤い双眸が、俺を狩るべき獲物として見定める。
その視線を受け止めた俺は、やつを倒す覚悟を固めた。




