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78話「タオファvsヘンゼル」

 赤いスーツの男――五大将ヘンゼルは、ホールに一人残ったタオファと向き合っている。

 タオファが腰を落として構えを取っているのに対して、ヘンゼルは両腕を垂らして無防備に立っている。


「仕方ない。君の熱烈な要望にお答えして、僕が相手をしてあげよう」


 ヘンゼルはやれやれというように肩をすくめた。それを見たタオファは眉をしかめた。


「おらはおめえみたいなキザな男、(きれ)ぇだ」


「そうかい? 強すぎるというのも罪なものだね」


「そんなこと一言も言ってねぇ!」


 タオファはそう言いながらヘンゼルの懐に踏み込んだ。

 彼のボディに向かって連打を浴びせていくタオファに、ヘンゼルは驚いた様子で目を見開く。


「へえ、君、そんなことまでできるのか」


「おめえに合わせるのはしゃくだけんどな!」


 タオファの拳撃は全て〈回転〉によって力の向きを変えられてしまっている。

 本来ならば、攻撃にすらならないはずのパンチ。しかし、タオファはその空振った勢いを利用して、次の攻撃へとつなげているのだった。


 左拳を大きく右に逸らされたタオファは、そのまま体をくるりと回転させ、ヘンゼルの側頭部に向かって後ろ回し蹴りを放った。

 しかし、その右脚は頭に当たった瞬間、上に向かって不自然にずれた。


 タオファはその流れに身を任せてバク転しつつ、残る左脚でムーンサルトキックを放った。あごをかち上げられたヘンゼルは数歩後ずさる。


「まずは一発!」


「やるじゃないか」


 口の中が切れたのか、唇から垂れてきた血をヘンゼルは手でぬぐった。

 タオファは臆することなく、再びヘンゼルの下へ向かっていく。


「では、ぼちぼちこちらからも攻撃するとしよう」


 ヘンゼルはいとも簡単にタオファのジャブを弾くと、パンチを数発繰り出してきた。とっさに身をひねるタオファだったが、避けきれず肩口に一発もらってしまった。

 当たった右肩が大きく弾かれ、タオファは痛みにうめいた。


「なんだ、この威力……!」


「これが〈回転〉の力さ。腰、肩、腕の三ヶ所にスキルを使うことで爆発的な威力を得ることができるんだよ。いわゆるユニークスキルの応用ってやつだ」


 ヘンゼルはご丁寧にも技の原理を説明しながら、タオファに連打を浴びせていく。

 まともに当たれば大ダメージは免れないだろう。タオファは慎重にパンチを捌きながら、反撃の機会をうかがう。


(普通に攻撃すると弾かれちまう。なんとかして、攻撃をまともに通す方法を考えねぇと……!)


「さっきまでの勢いはどうしたんだい? 手が止まってるよ」


 防戦一方になっているタオファを揶揄(やゆ)しながら、ヘンゼルは次々とパンチを打っていく。

 顔面に向かって飛んできた拳に、タオファは首をひねることで回避した。


 それから、続けざまに放ったローキックを上向きにずらされたタオファは、大きく体勢を崩しつつ、かかと落としに切り替えた。

 変な体勢で打ったせいか、斜めに蹴り込むことになり、ヘンゼルの首筋にかかとがめり込む。


「ぐっ……!」


 ヘンゼルはなぜかそれを〈回転〉しきれなかったようで、攻撃の威力にぐらりとよろけた。


 タオファはバク転で距離を取った後、蹴りを放ったばかりの自分の足を見下ろした。

 半ばハプニングのような形だったが、たしかに相手の体を捉えたという実感があった。


 なぜいまの攻撃が通用したのか。なぜローキックはダメだったのに、かかと落としだけは成功したのか。


(そうか、分かったぞ)


 タオファは自分の直感から、答えを導き出した。それがもし当たっているとすれば、勝利への道が一気に開けるに違いない。


「いっちょ試してみっか!」


 タオファはヘンゼルを間合いに入れると、フェイントを交えつつ手刀を左肩に叩きつけた。

 それを受けたヘンゼルは苦悶しながら、右手で反撃の拳を繰り出す。


 タオファは体を傾けてその拳をかわし、脇腹にボディブローを打ち込んだ。またしてもダメージを食らい、ヘンゼルはたたらを踏む。


「君、まさか……!」


「そのまさかだ!」


 いま、二発の攻撃は確かに通用した。そのことによって、タオファの推測は確信へと変わった。


 ヘンゼルの〈回転〉は、力の向きを変える性質を持つユニークスキルである。

 だから、真っ直ぐにパンチを当てると、体にめり込む直前でその向きを変えられてしまうのだ。

 だったら、当たる瞬間に〈回転〉の方向を読んで、それと同じ大きさの力を逆向きに加えてやればいい。


 タオファはそう考え、実行した結果、見事に成功したのだった。


 先ほどまで極めて劣勢だったタオファは、反撃の足掛かりをつかむと、怒涛の勢いで攻撃を開始した。

 時折〈回転〉で手や足を弾かれてはいるものの、ほとんどの打撃はしっかりとヘンゼルの体を捉えているようだった。


 タオファの猛攻に堪えかねたヘンゼルは、いったん距離を取って体勢を立て直そうとするが、タオファはすぐさま接近することによりそれを許さない。


 そうして一進一退の激しい攻防を繰り返す中、ヘンゼルはわなわなと口を震わせた。


「そんなこと、できるわけがない!」


「いんや、やればできる!」


 タオファはそう言いながら、ヘンゼルの胴体をさらに拳で打ちつけていった。

 驚愕に目を見開いたヘンゼルは、それらの打撃をなんとか防ごうと努めるが、上手くガードしきれず、段々と壁際に押しやられていった。


「バカな!」


 優劣は次第に逆転し、疲弊したヘンゼルに対してタオファが襲い掛かる形となっていった。

 そうして戦うことしばらく、ついに決着のときがやってきた。


 苦し紛れに放たれたヘンゼルの連続パンチをスウェーで華麗にかわしたタオファは、彼の腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。その一撃をもろに食らったヘンゼルは、力なく床に倒れ込む。


「がはっ……あ……ありえない……」


「『できるわけがない』だの『ありえない』だの、後ろ向きなことばっか言いやがって。なんでもやってみなきゃ分かんねぇだろ」


 タオファは腰に手を当てて、ヘンゼルを見下ろした。どうやらすでに気を失ってしまっているようで、返事はなかった。


「他のみんなも無事だといいけんどなぁ」


 タオファは心配そうに周囲を見回し、喧騒に包まれた城内の状況を伺った。はぐれてしまった仲間たちと合流するのは、少々骨が折れそうだ。

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