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74話「昨日の敵は今日の友って言うよね」

 ジェリスを見事陥落させた俺たちは、ギブル平原を臨む山の上を野営地とした。

 このギブル平原こそ、両軍がぶつかり合う主戦場であり、首都イシュレムへ向かう最後の道程である。


 そのイシュレムを攻略するため、俺たちは作戦会議をすることにした。

 いまは幕舎の中で、幹部連中と「ビヨンド」メンバーでテーブルを囲んでいるところだ。


「首都を攻略するにあたって、アケビさんから提案がある」


 レオンさんに促されて、俺は口を開く。


「あの大軍を正面突破するには時間がかかるし、負担も大きい。そこで、時短のためあるものを使うことにした」


 俺は美麗な彫刻が施されたナイフを取り出した。


「あっ、それはあのときの……!」


「ニコラスさん、お願いします」


「おう」


 ニコラスさんが手を叩くと、先ほどジェリス攻略戦で捕らえた士官が、後ろ手に縛られながら入ってきた。

 俺はその士官の背中に回り、ナイフを握らせた。すると、士官は俺の方を向いてにやりと笑った。


「アニキ、ありがとうございます」


「アケビくん、まさかこいつを作戦に使おうっていうのか?」


「そうだ。スラッシュは、手にした者の意識を乗っ取ることができる能力を持っている。それを利用して敵兵になりすましてもらい、首都内部まで――」


 タオファはテーブルを強く叩いた。


「そんなの危ねぇぞ! いつ裏切るか分かんねぇ! アケビだって、こいつのしでかしたことは知ってんだろ!」


「私も同意見だ。こいつを自由に動かせたら何が起こるか分からない」


 疑心暗鬼な二人に、スラッシュはゆっくりと近づいていく。その仕草に敵意は全く見えなかった。


「そんなことはありませんよ、アネゴ方。俺はアニキについていくことにしたんでさぁ」


「完全にこちら側に寝返ったと、そう言いてぇんか?」


「ええ。オイラ、アニキに言われたんです。『バリーにこき使われたまま一生を過ごすのと、他人の役に立ちながらこのナイフから解放される方法を探すのと、どっちがいいんだ』って。それで俺は目が覚めました。もうアニキたちを襲ったりはしませんよ」


 士官の体を乗っ取ったスラッシュは、その口を借りて熱弁した。


 ユウキは言葉の真偽を確かめるため、俺の顔色をうかがってきた。もちろん、スラッシュが言った内容に間違いはない。俺は大きくうなずいてみせた。

 すると、ユウキは肩をすくめた。


「といっても、私たちはひどい実害を受けてるからね。言葉だけじゃいまいち信用できないんだよなぁ」


「ごもっともでさぁ。そこで、オイラが知っている五大将の情報を全てみなさんに打ち明けることにしました。これで少しは信用してもらえませんか?」


「その情報があれば、今後再び五大将が出陣してきた場合、少しは有利に事を運べる。俺たちにとっては非常にありがたい申し出なんだがね」


 レオンさんが言う通り、バリーのところまでたどり着くためには、絶対に欠かせない情報だ。

 あとは、俺たち「ビヨンド」メンバーの心情次第ということになる。


 ユウキは目をつぶりながら腕を組んで思案していたが、そのうちこくりとうなずいた。


「分かった。私はこいつを作戦に使うことに賛成する」


「ユウキ、正気か!?」


「もちろん、私自身の気持ちとしてはまだ納得いってないよ。だけど、チーム全体のことを考えたらその方がいいと思うんだ」


 柱に寄りかかってそれを聞いていたシエラは、すっと手を挙げた。


「妾も賛成じゃ」


「シエラ、おめぇもか!?」


「これは戦じゃ、タオファ。大勢の人間の命がかかっとる。使えるものはなんでも使うべきじゃろ」


「ぐっ……たしかにそうだけんども」


 静かに諭すようにして言われ、タオファはうつむいた。

 続いて、ニアも手を挙げる。


「わたしも賛成。ナイフくん、すっごく強かった。味方になったら絶対強いよ」


「ニアまで……!」


「どうする、タオファ? あとはお前だけだけど」


「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」


 タオファはしばらくの間うなり声を上げていたが、やがて観念したというように嘆息し、肩を落とした。


「分かったよ、おらもその話に乗る。それでいいんだろ?」


「ありがとうございます、タオファのアネゴ! 一生の恩っす!」


「こら、近寄るな! おらはまだおめぇを完全に信用したわけじゃねぇんだかんな!」


 近づいてきたスラッシュを両手で必死に押し退けるタオファを見て、周囲から小さく笑いがこぼれる。

 なにはともあれ、これでスラッシュを作戦に利用することができるようになったわけだ。


「それじゃあまず、潜入作戦の内容について詰めよう。その後にスラッシュから五大将の情報を聞く。それでいいかな?」


「そうですね。そうしましょう」


 そうして俺たちはお互いに顔を突き合わせ、作戦を立て始めた。


 話を進めるにつれて、俺はこの作戦の危険度がだんだん分かってきた。

 上手くいけば一気にイシュレムを陥落させることができる反面、もし失敗すれば俺たち「ビヨンド」メンバーの命は危険にさらされるだろう。


「大丈夫でさぁ。オイラが必ず成功させてみせます」


「そうだといいんだけどね」


 自信たっぷりにスラッシュが言うのを見て、ユウキは半信半疑といった表情で肩をすくめた。


 正直なところ、俺だってこいつのことを信じきれてはいない。でも、一対一でとことん話し合ってみて、こいつが出した結論を一度だけ信じてやりたいと思ったのだ。それくらいのチャンスは与えてやってもいいだろう。


 それに、もしこいつが裏切ったら、そのときは俺自身でケツを拭く。その覚悟はとうにできている。


「決行は今夜だ。各自、自分の動きを覚えておくように」


「「「ラジャー!」」」


 作戦の内容は固まった。あとはそれが吉と出るか凶と出るか、身を委ねるだけだ。

 レオンさんはぱんと手を叩くと、スラッシュが乗っ取っている士官に向き直った。


「さて、スラッシュ。五大将について教えてもらえるかな」


「はい、お話しします」


 スラッシュは五大将それぞれの特徴とそのユニークスキルについて、滔々(とうとう)と語り出した。

 この作戦会議において書記を務めるアンジェラさんが、逐次メモを取っていく。


 聞いていて驚いたのは、五大将がみな魔物の細胞で体を強化しているということだった。

 道理で、ザガンが異様な見た目とタフネスを持っていたわけだ。彼らを普通の人間とは思わない方が良さそうだ。


「まあ、こんなところですかね」


「ありがとう。おかげでだいぶ敵のイメージ像が鮮明になった。これで対策が立てられる」


 残る五大将は四人。それぞれシンプルにして強力なユニークスキルを持っている。

 果たして俺たちに太刀打ちできるのだろうか。俺は若干の不安を抱きつつ、ごくりとつばを飲み込んだ。

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