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73話「怒涛の進軍」

 レジスタンス一行は制圧したユネ盆地を通過し、東北東へ向けて進軍していった。次に目指す町はジェリスだ。


 残念なことに、ジェリスの領主は熱心な国軍派だそうで、こちらの軍勢を目にするなり、王国軍と協力して強固な守りに入った。

 この様子では、説得など到底できそうにない。正面からぶつかるしかなさそうだった。


 俺たちはいま、ジェリスから少し離れた峠に敷いた陣地から、敵方の様子をうかがっている。


「内にこもる気満々だな。これは一筋縄では行かなさそうだ」


「そうね。それに、地の利は向こうにあるわ。どうする?」


 アンジェラさんは双眼鏡をのぞきながらレオンさんに尋ねた。


 ジェリスは高地に位置する町で、いまいる峠よりもジェリスの方がより高い位置にあるから、こちらからは攻めづらそうだ。


 すると、レオンさんは人差し指を立てながらにやりと笑った。


「ここは俺たちの得意戦法で行く」


 それを聞いたアンジェラさんたちは喜びの表情を見せた。


「あら、ゲリラ戦ね? いいじゃない」


「伏兵・奇襲ならお手のもんだぜ」


 楽しそうに笑うレオンさんたちの会話の隙間に、俺は割って入った。


「あの、話の腰を折ってすいません。ゲリラ戦ってなんですか?」


「小規模のチームに分かれて、臨機応変に動くってことだよ。お前さんたちにとっても馴染み深い戦い方だろ?」


「ああ、なるほど」


 そう言われると分かりやすい。俺たち「ビヨンド」は元々五人で一つのチームだから、要はいつも通りやればいいということだろう。


 しかしそこで、ニコラスさんは腕を組んでうなった。


「でも、相手はあの王国軍だぞ。そう上手く引っかかってくれるかな?」


「そこは安心して。私の部隊が下調べしたところ、相手はまだ士官になりたての若造みたいなの。餌を見せればきっと食いついてくるわ」


「そうか。なら行けそうだな」


「肝心の仕掛け(・・・)に関しては、セインに任せればいいだろう。よろしく頼む」


「いつものやつですね。分かりました、準備しておきます」


 阿吽(あうん)の呼吸でテキパキと方針を立てていくレオンさんたちの姿に、俺は感心するばかりだった。

 いや、彼らに任せっきりになってはダメだ。俺たちも積極的に戦いに参加しなければ。


「あの、俺たちはどうすれば……」


「ああ、すみません。身内で盛り上がってしまいました」


 おずおずと尋ねる俺を見て、レオンさんは申し訳なさそうに頭をかいた。よかった、存在を忘れられていたわけではなさそうだ。


「ダグラスが率いる伏兵の包囲網に加わってくれますか? アケビさんたちがいてくれるとより安心できます」


「分かりました」


 俺は拳を手のひらに打ちつけた。いままでの勢いに乗って、この戦いも勝利に導いてみせる。

 

 ◆◆◆


 暖かく心地のよい昼下がり、ちょうど兵士たちの気が緩む頃。ニコラスさん率いる戦闘部隊は戦場に打って出た。


 あえて隙の大きい横長の陣形を取ると、取り囲むようにしてジェリスを攻め立てる。しかし王国軍の守りは固く、なかなかその牙城を崩すことができない。


 しばらく攻撃を続けていた戦闘部隊だったが、劣勢とみたのか、そのうち撤退を始めた。それを追って出撃してきた王国軍の兵士たちに対し、付かず離れずの適度な距離を保って退いていく。


 それから少し経って、追撃を諦めた王国軍がジェリスに戻ろうとしたところで、戦闘部隊は再び攻撃を仕掛けていった。


 当然、王国軍は(きびす)を返して応戦する。すると、戦闘部隊は絶妙なタイミングで撤退していく。


 寄せては返す波のように、二度、三度と挑発を繰り返すうちに、ついにしびれを切らした王国軍は、峠にあるこちらの陣地に向かって突撃してきた。


 戦況を見守っていた戦闘部隊副隊長のダグラスさんは、それを見てガッツポーズした。


「よし、(やっこ)さん、ついに食いついたぞ!」


 王国軍がほとんど峠を登り終えるか否かというところで、俺たちはダグラスさんの指示に従い、隠れている場所から姿を現した。


「囲め、囲め! 蟻一匹たりとも逃すな!」


 全方位から王国軍を取り囲み、退路を完全にシャットアウトする。


 作戦の種明かしをすると、峠に作ってある陣地は昨日のうちにとっくに放棄済み。その代わり、そこにあるのは、悪意満載のトラップゾーンだ。


 王国軍の兵士たちはすでに罠にかかり始めたようで、方々(ほうぼう)から阿鼻叫喚の声が聞こえる。放棄後は決してそのエリアに踏み入るなと言われた理由が分かり、俺は身を震わせた。


 それから俺たち「ビヨンド」は、逃げ惑う兵士たちを倒していった。戦だからとはいえ、この惨状には哀れみさえ感じる。それはまさに一方的な蹂躙だった。


 こうしてレジスタンスの誘い込み戦法にまんまとハマった敵軍の士官は、程なくして戦意を喪失し、部下の兵士たちともども白旗を上げた。


 粛々と捕縛される兵士たちを眺めながら、俺は感動を覚えていた。

 なんと鮮やかな勝利劇だろうか。


 この勝利を得られたのは、おそらくレオンさんの力だけではない。幹部メンバーたちの傑出した指揮能力と、レジスタンス隊員たちが長年培ってきた華麗な連携があってのものだろう。


 「ビヨンド」もこんなカッコいいチームにしたい。俺はクランマスターとしての理想を抱きながら、仲間たちを振り返った。


「俺たちも負けてられないな」


「そうだね。わたしたちも頑張らなきゃ」


「アケビなら、きっとレオンさんみたいになれるよ」


「そうだといいんだけどな」


 この戦いを通して得るものはとても多い。それを一つでも取り逃すまいと、俺は自分を奮い立たせた。


 指揮官を失ったジェリスの王国軍兵士たちが後を追って降伏したのは言うまでもない。

 最終的に、ジェリス攻略戦は、ほとんど犠牲者を出すことなく成功を収める形となった。


 これでようやく首都イシュレムに向かうことができる。ラピスタンを取り戻す戦いも、いよいよ大詰めだ。

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