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7話「先立つものが必要です」

 ニアに出会ってからというもの、俺はルーティンワークをこなす忙しい日々を送っていた。


 なんにせよ、生活費を稼がなければ飢え死にしてしまう。だから達成できそうな依頼はバンバン受けていった。


 採取依頼から護衛依頼まで様々な依頼をこなしてみたが、一番金になるのは魔物討伐と肉体労働だった。


 そのおかげで基礎体力がついてきたし、倒した魔物のスキルと建設現場の同僚のスキルをそれぞれいくつか獲得することにも成功した。


 手に入れたのは〈分身〉、〈地獄耳〉、〈剛腕〉、〈硬化〉、〈熱感知〉の五つだ。


 〈分身〉は同僚のヤマさんからコピーしたスキルで、実体を持つ分身を一体出すことができる。

 本体との違いは見た目にはわからないし、そこそこ耐久度もあるので、運搬時や戦闘時などに使える。


 しかし、このスキルの真価はそこではない。なんと分身もユニークスキルを使えることが分かり、重要性が爆上がりしたのだ。

 おかげで、今では討伐任務の際に大変重宝している。


 〈地獄耳〉は同僚のペリーさんからコピーしたスキルで、近くの音から遠くの音までつぶさに聞き取ることができる。

 人々の会話に聞き耳を立てるのに有効な他、索敵にも活用できる地味に有用なスキルだ。


 〈剛腕〉はゴブリンからコピーしたスキルで、打撃武器による攻撃の威力が上がる。

 剣しか使わない俺には無用の長物だが、いずれ役立つときが来るかもしれない。例えば、鋼鉄製のハンマーを持って殴ったらすごい威力になりそうだ。


 〈硬化〉はストーンスパイダーからコピーしたスキルで、自分の肉体と触れているものを硬化させられる。

 つまり拳に使えば鉄拳に、剣に使えば豪剣になる。単純明快で強力なスキルだ。


 〈熱感知〉はロープスネークからコピーしたスキルで、熱を感じて暗いところや物陰の物がはっきりと見えるようになる。

 夜間の活動やダンジョン内の探索などに使える便利なスキルだ。


 これらのスキルを駆使して、俺は効率的に任務をこなせるようになった。そのおかげもあって、つい先日Eランク冒険者に昇格することができた。


 これからはさらに難易度の高い依頼を受けていけるだろう。俺は自分が冒険者として少しずつ成長しているという確かな手応えを感じていた。


 毎日の依頼を終えて宿屋に帰ると、今度はニアとのペテリア語レッスンが始まる。


 まず言葉を話すためには単語を覚えなくては始まらないので、部屋や街にあるものの名前を片っ端から覚えてもらい、それから次に、自己紹介などの簡単な日常会話を覚えてもらうことにした。


 ニアも今のこの時代を生きていくのに必死だから、頑張って勉強を続けてくれた。教える方としてはとてもありがたいことだ。


 そうして過ごすこと約二週間、毎日の会話レッスンに加えて日頃から俺がこまめに話しかけているおかげか、ニアはほんの少しだがペテリア語が喋れるようになった。カタコトでも言いたいことが伝えられれば大成功だ。


「アケビ、いってらっしゃい」


「いってきます」


 今日も笑顔のニアに見送られて、俺は宿屋を出る。


 素泊まりとはいえ宿泊費がキツいので、何か別の宿泊法を考えた方がいいかもしれない。どこかでボロ家でも見つけて住んでしまおうか。


 そんな風に考えていると、鉄鎧を着た通りすがりの男に声をかけられた。


「アケビ様」


「あなたは……たしか、ブラウン商会の」


「はい。ご無沙汰しております」


 彼はジェニーさんと最初に出会ったとき、馬車を護衛していた二人の兵士のうちの一人だ。

 あのときは野盗にやられてボロボロだったが、きれいな鎧をきちんと着こなしているのを見ると、さすが兵士といった貫禄を感じる。


「ヨーゼフ様からのお手紙です」


「ああ、わざわざありがとうございます。ジェニーさんによろしくお伝えください」


「はい。では、私はこれで」


 自らの役目を果たすと、護衛兵の男は颯爽と立ち去っていった。それは仕事人と呼ぶにふさわしい、クールな振る舞いだった。


 俺は路地の壁に寄りかかりながら、封筒の封を腰に下げた解体用ナイフで開けた。

 そして、届けられた手紙の内容にそっと目を通す。


「ニアちゃんの身の上について、分かったことがあるのでお伝えします。ただし、ニアちゃんにとっては辛く重い話になるでしょう。お二人の覚悟が決まったら、グラフィスまでお越しください」


 受け取ったときからなんとなくそんな気はしていたが、やはりそうだったか。

 俺は嘆息しながら手紙を懐にしまうと、元来た道を引き返した。これは何よりも優先すべき事柄だ。いますぐニアに伝えなければ。


 泊まっている宿屋の部屋に戻ると、ニアがひょっこりと出迎えてくれた。


「アケビ、おかえり?」


 俺は首を横に振ると、ニアの手を優しく握った。


「ニア、よく聞いてくれ。お前のことが分かった。ヨーゼフさんのところに行けば、教えてくれる」


「ヨーゼフ……わたしに……?」


「お前にとってはつらい話になる。それでもお前は行くか?」


 ヨーゼフさんから受け取った手紙を見せると、話の重要性を悟ったようで、ニアは真剣な表情で考え込んだ。


 正直なところ、ニアはこの件を断るだろうと思っていた。

 わざわざつらい思いをしてまで昔の話を聞くことなんてない。目の前にある日常を楽しんでいればいいじゃないか。そう思った。


 しかし、彼女の選択は違った。


「……行く」


 ニアは両の拳をぎゅっと握り締めながら、絞り出すように言った。


「ニア……」


「アケビ」


 考えていることを言葉で上手く言い表せないニアだが、その両の瞳に灯る輝きは彼女の決意を物語っていた。

 俺は感心しながら息を吐いた。どうやら、弱気になっていたのは俺の方だったらしい。


「分かった」


 ニアが行くと言うのなら、俺も行こう。それはニアを見つけ出した俺の責務でもあるのだから。

 真実に向き合う覚悟を決めた俺たちは、宿を出てともに歩き出した。

アケビの現在の所持スキル

超越模倣(メタコピー)〉〈能力視認(スキルチェック)〉〈速算〉〈質量操作〉〈身体強化〉〈粘着〉〈分身〉〈地獄耳〉〈剛腕〉〈硬化〉〈熱感知〉

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