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68話「魔剣の真価」

 水柱に引き込まれた俺たちは必死にもがくが、巧みに操られている内部の水流が邪魔をして、全く外に出られない。

 そうこうしていると、渦の中から青いドレスを身にまとった一人の女が現れた。そのユニークスキルの成せる業か、水面に立ったまま静止している。


「けひゃひゃひゃ! 刺客が次々と倒されたっていうから、一体どんな奴らかと思っていたけど、全然大したことないじゃないか!」


「ごばべばごぼぶぶぼぶくば!(お前がこの渦の主か!)」


「なんだって? 全然聞こえないねぇ! けひゃひゃ!」


 高らかに笑う女を見て、俺は反論しようとしたが、ごぼごぼと泡を吹くばかりで声にならない。

 いちおう肺の中の酸素はまだ少し残っているが、このままでは窒息死は免れないだろう。こうなったら、奥の手を使うしかなさそうだ。


 俺は魔剣を抜き払い、正中線上に真っ直ぐ構えた。切っ先はもちろん、青いドレスの女に向けている。


「はっ、何をする気だい? もしかして、この水柱を斬ろうってのかい? 液体なんだから斬れるわけないだろう! 潔く諦めな!」


 青いドレスの女は、青い長髪をファサッと後ろに払いながら、俺のことを小馬鹿にするように笑った。

 しかし、俺はそれを気にも留めず、魔剣を扱うことだけに集中する。この技は繊細なマナコントロールが大事になるのだ。


 魔剣が放つ微量のマナに自分のマナを加え、薄く凝縮する。それに伴い、刀身がまとっている青白い光が一層輝きを増していく。

 俺は静かに狙いを定めると、斜め後方に剣を引いた。それから全力を込めて、左から右へ、真一文字に刃を振り切る。


「ごぼぼぶくぶがば!(ブルームーンスラッシュ!)」


 魔剣の先端から放たれたのは、蒼い三日月状の刃だった。それは目にも止まらぬ速さで宙を飛び、女が反応する前にその首を刎ねた。


 切り離された女の首と体は、それぞれ渦の中へ巻き込まれていった。

 コントロールを失った水柱が弾け、俺とシエラは外界へと解放される。うっかり水中に落ちてしまった俺の手を、シエラはつかんで引き留めてくれた。


「やったな、アケビ」


「ああ」


 そのうち、青いドレスの女を倒したことによって、人為的に生み出されていた渦も収まりを見せ始めた。これでもう、ボートが沈没することはないだろう。


「二人とも大丈夫!?」


「ああ、なんとかな」


 俺はシエラに背負われながら、救助に駆けつけたボートへと戻っていく。

 その途中、俺は新たな力がこの身に宿るのを感じた。シエラが水面を歩いているのを見ているうちに、〈水面歩行〉を会得したらしい。


「もう大丈夫だ、ありがとう。〈水面歩行〉が習得できたから」


 おぼつかない足取りで水面に立つ俺を見て、シエラは腕を組み、片眉を上げた。


「なあ、お主のその〈超越模倣(メタコピー)〉とかいうスキル、何度見ても不正じみとるよな」


「不正はしてねぇよ! そういうスキルなの!」


 すっかり静けさを取り戻した水面を歩きながら、俺は口を尖らせた。

 生まれつき持っていたのか、それともある日突然目覚めたのかは分からないが、〈超越模倣(メタコピー)〉はれっきとした俺のユニークスキルだ。これからもバシバシ使わせてもらうぞ。


 俺とシエラがボートに乗り込んだのを見とめると、船頭は再び船を動かした。


「あの、いま襲ってきた相手はいったい……?」


「あなたには関係のない話です。あなたは手だけ動かしていればよろしい。分かりましたね?」


「は、はい」


 ノエルさんが財布から硬貨を取り出して差し出すと、船頭はおずおずとそれを受け取った。いわゆる口止め料というやつだ。こちらのことを根掘り葉掘り詮索されるよりはその方がいいだろう。


 それからは特にトラブルが起きることはなく、ボートはすいすいと進んでいった。

 ベンチに座って休んでいると、歩み寄ってきたユウキが俺に話しかけた。


「あの技、成功したんだね」


「ああ。お前のおかげだよ」


「いや、私は大したことしてないよ。あれはアケビくん自身の実力だ」


「ありがとう、ユウキ」


 俺は少し照れ臭くなって、頭をかきながら笑った。


 実は、魔剣が斬撃を飛ばせると気がついたのはつい先日のことだった。それからはユウキの協力の下、実用に至るまで地道に修行を繰り返して、ようやく納得のいく命中精度まで上げたのだ。


 実戦で使うのは少々不安もあったが、その性能を試すいい機会になってよかった。とはいえ、人間の首をいとも簡単に切断してしまうあの威力には俺自身、舌を巻いたけどな。


 それにしても、あの〈液体操作〉というユニークスキルは強かった。もしかしたら全滅していたかもしれない。新技を習得しておいて本当によかった。


「アケビ、さっきの技、かっこよかった!」


「おっ、そうか? ありがとう、ニア」


「あれ、素手で捌けるんかな?」


「どうじゃろうな。妾がいっぺん試してみても良いぞ」


「やめといた方がいいと思うけど……」


 俺が遠慮がちにそう言うと、シエラとタオファはむくれ顔で詰め寄ってきた。


「ユウキとばかりやるのはずるいじゃろ! 妾たちとも修行せい!」


「そうだぞ! そういうのは平等にやるべきだ!」


 両側から漂ってくる熱い闘気にすり潰されてしまいそうだ。武闘派女子二人の言い分にたじたじになりながら、俺は身を引いた。


「分かった! 分かったからいったん離れて! ほら、もう着いたみたいだし! な!」


 視線でチラチラと誘導すると、二人は渋々といった様子で俺との距離を置いた。


「いいか、絶対約束じゃぞ」


「もし破ったら、針千本飲ますかんな」


 冗談とは思えないトーンの脅し文句に震え上がりながら、俺は荷物を背負った。


 アーシャたちとの旅はとうとう終着点へ向かって進み出す。いざ向かうは、レジスタンスの本拠地、ヤーマドだ。

アケビの現在の所持スキル

超越模倣(メタコピー)〉〈能力視認(スキルチェック)〉〈速算〉〈質量操作〉〈身体強化〉〈粘着〉〈分身〉〈地獄耳〉〈剛腕〉〈硬化〉〈熱感知〉〈動作予知〉〈縮小化(ミニマイズ)〉〈加速〉〈精神防護(メンタルガード)〉〈詠唱破棄〉〈俯瞰視点〉〈雲泡〉〈隠密〉〈千里眼〉〈水面歩行〉

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