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65話「いざラピスタンへ」

 ダーニッケを出発した俺たち一行は、荒野を貫く街道を経て、次の町リンドへと到着した。


 砂漠地帯にほど近いこの町は日中の気温が高く、その暑さに慣れていない俺たちにとってはなかなか活動しづらい環境だ。色の白いシエラなんかは、屋根の下に入るまで、今にも干からびそうな顔をしていた。


 それで、いまはどうしているかというと、宿屋の一室で顔を突き合わせながら作戦会議をしている。国境越えするにあたって、あらかじめ計画を練っておくためだ。


 テーブルに広げた地図を、ノエルさんは神妙な面持ちで見下ろした。


「ここから先はラピスタンの領地です。そして、私たちがラピスタンを目指していることはすでにバリーに知られています。そのため、王国軍の警戒が激しくなることが予想されます」


「それじゃあ、もし鉢合わせたらよ、アーシャの正体もすぐにバレてしまうんでねぇか?」


「いえ、その心配はありません。向こうの陣営はまだアーシャ様の顔を知らないでしょうから」


「どうしてそう言い切れるんです?」


「これまで我々の下に送られてきた刺客はみな、アーシャ様を見た目で判別することがありませんでした。顔をすでに知っているなら、本人確認などという回りくどいことはせず、直接アーシャ様を狙うはずです」


「そう言われてみればそうだな」


 アーシャの顔が割れていないというのは、これまでも、そしてこれからも、大きなアドバンテージだろう。

 そして、俺たちのパーティには合わせて五人の女性がいるから、それだけでもターゲットを分散するのに役立っているというわけだ。


「とはいえ、もし詰問されたらどうやって誤魔化すんですか? その可能性がないわけじゃないでしょう」


「そのときは、真正面から正々堂々と通り抜けましょう」


「正々堂々と、って……身分証明はどうするんですか」


 俺たちは冒険者の身分を証明するものとして、冒険者カードを持っている。

 しかし、アーシャとノエルさんにはそれに相当するものがなにもない。相手が末端の兵士とはいえ、しつこく問い詰められたら、正体がバレてしまう危険性は大いにある。


 そう思っていた俺の度肝を抜くものをノエルさんは取り出した。


「冒険者カード? ノエル、こんなのいつの間に作ったんだ?」


「いえ、ちゃんと作ってはいません。これは偽造カードです」


「偽造!? そんなことができるのか!?」


「ユウキ、声がでかい!」


「ああ、すまない……初めて聞いたことだから、つい」


 俺にたしなめられたユウキは、咳払いをしながら再び腰掛けた。


「ニケを出るとき、近所の知人に作ってもらったんです。冒険者ギルドの読み取り装置にかざしでもしない限り、偽物の区別はつきません」


「たしかに、パッと見ただけじゃ全く分からないですね」


 ノエルさんが手にしている二枚のカードは、そっくりそのままFランクの冒険者カードに見える。この様子だと、魔晶石の中身もいじくってあるに違いない。

 これなら、よほどのことでもなければバレないだろう。


「全く、大したやつだよ、うちの執事は」


 アーシャが感心したようにノエルさんの肩を叩くと、彼は恐縮するように目を伏せた。


「それじゃひとまず、俺たち全員が冒険者としてやり過ごすってことでいいかな」


「うん、それでいいと思う。アタシみたいな見た目の女がまさか王女だなんて、誰も思わないだろうしね」


「そうか? ちゃんと化粧したら結構べっぴんさんだとおらは思うけんどな」


 するとアーシャは頬を赤く染め、自分の顔を両手で隠した。


「ちょ、ちょっとやめてくれよ! アタシ、褒められるのにあんま慣れてないんだよ」


「私も、アーシャ様は美しい顔立ちをお持ちだと思いますよ。もっと自信を持たれてもよろしいかと」


「そうだよ、アーシャくん。後でお化粧してあげようか?」


「もう、ノエルまでそんなこと言って! アタシのことからかってるだろ!」


 両腕で必死に頭をかばうアーシャの様子に、周囲から自然と笑いが漏れる。

 そんな和やかなムードの中、ノエルさんは再び真面目な顔に戻り、地図に指を当てた。


「私たちはこれから、レジスタンスの本拠地であるヤーマドまで移動し、彼らと合流します。段取りはすでにつけてありますので、あとは現地に入るだけです」


「移動はこれまで通り徒歩ですか?」


「いえ。ここからは広い砂漠地帯になりますので、ラクダを使います」


「ラクダか。乗ったことないのう」


「大丈夫だ、俺もない」


 ノエルさんの話では、砂漠では砂に足を取られて歩きづらいのだという。ここは大人しく、地形に合った移動手段を使うべきだろう。


「なぁ、話の腰を折って悪いんだけんど、ラクダってなんだ?」


「背中にこぶが二つ付いてる、馬みたいな動物だよ」


「ふぅん。世の中には変な馬もいんだなぁ」


「そもそも馬じゃないけどね」


 そうは言っても、俺自身も、ラクダがどんな生き物なのかは、叔父が持っていた生物図鑑の挿し絵でしか見たことがない。若干の不安を抱きながら、俺はラクダの乗り心地を想像した。


「それと道中、いくつかの町を通ります。アケビさんたちは引き続き、刺客への警戒と対処をよろしくお願いします」


「分かりました」


 俺たちの目的はアーシャとノエルさんの護衛だということを、俺は改めて確認した。

 ここまで来たらあと一息。最後まで全員無事に通り抜けたいところだ。


「それでは準備を万全に整えて、明日の朝、この町を発ちましょう」


 俺たちは互いに顔を見合わせ、こくりとうなずいた。

 ラピスタンは敵の本拠地でもある。十分に気を引き締めていこうと、俺は兜の緒を締めた。

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