64話「パーティ壊滅!?仲間割れ大騒動」
宿屋の外で涼んでいたニアは、通りの向こうからやってきた人物を見て驚いた。全身血まみれのユウキが、刀を杖代わりにして歩いてきたからだ。
「ユウキ!? どうしたの!?」
ユウキは地面にへたり込むと、力なくニアを見上げた。
「殺し屋にやられた。私たちのことをずっとつけ狙っていたんだ」
「大丈夫!?」
「ああ、なんとか倒した。これを……!」
ユウキは鞘に納められたナイフを懐から取り出し、ニアに差し出した。
「これは?」
「殺し屋が使っていた武器だ。アーシャたちに見せたらなにか分かるかもしれない。持っていってくれ」
「分かった……!」
ニアはナイフを受け取ると、宿屋の中にいるタオファだけを呼び寄せた。ぐったりと倒れ込むユウキを見て、タオファは驚いた。
「ユウキ! 大丈夫か、ユウキ!」
「う……ああ……ダメだ、タオファ……」
「動くな! じっとしてろ!」
「後ろ……」
「え!?」
振り向いたタオファの腹部を、ニアはナイフで深々と突き刺した。とっさに身をひねったタオファだったが、避けきれず脇の方に刺さってしまった。
困惑するタオファをよそに、ニアはにやりと笑う。
「へっへ、これで二人目っと」
「おめぇ、どうして……」
「お前さん、相当強いらしいからな。先手必勝ってやつだ」
深手を負いながらもまだなんとか立っているタオファに、ニアは邪悪なにやけ顔を見せつけ、両腕を広げる。
「攻撃できるのか? できないよな? 仲間だもんなぁ!?」
「くっ……どうしちまったんだ、ニア……!」
「どうもこうもねぇよ。ちょっと頭が飛ンじまっただけさ!」
ニアは躊躇なくナイフを突いていく。タオファは受けに回るばかりで、なかなか反撃できない。それは相手がニアだということだけでなく、腹の傷にも関係があるだろう。
そんな最中、散歩から帰ってきたシエラがその光景を目の当たりにして、駆け寄ってきた。
「どうしたんじゃ、この有り様は」
「シエラ、ちょうど良いところに来た! ニアを取り押さえてくれ! おらはもう……ぐっ」
「ずいぶんとひどい出血じゃのう」
その場にしゃがみ込むタオファを見て、ニアはけたけたと笑った。
「私がやったんだよ。あなたのこともぐちゃぐちゃにしてあげようか、シエラ?」
「ふぅん、そういうことか。なら話は早い」
シエラの強烈な回し蹴りを食らい、ニアの背後にあった街灯の柱がひしゃげた。屈み込むことで辛うじてそれを避けたニアは、驚愕に目を見開いた。
「お主をぶち殺せばそれで終わりじゃ」
「へえ、そっか。やれるもんならやってみなよ!」
こうして、〈動作予知〉を駆使するニアとシエラとの戦いが始まった。
シエラはナイフで切り刻まれることを意に介さず、どんどん前に突っ込んでいく。
一方、ニアはナイフを必死に突くが、シエラの超再生力には敵わず、少しずつ押されていった。
「なんだよそれ! ずるいぞ!」
「ずるくて結構!」
丁々発止のやり取りが続くこと数分。やがて、そのときはやってきた。
突かれた手刀を避け様に、ニアはシエラの手首を斬りつけた。しかし、シエラはそのまま手首を返すと、ニアの首の後ろをがつんとチョップした。
途端、ニアはぱたりと意識を失い、前向きに倒れ込んだ。その体をシエラはそっと受け止める。
「全く、世話の焼けるやつらじゃのう」
「おめぇ、本気でニアを殺すつもりかと思ったぞ……」
「たわけ、そんなわけないじゃろ。脅しじゃ、脅し。大切な仲間を傷つけたら、アケビに叱られてしまうからな」
ニアの体を優しく地面に横たえたシエラは、ニアが取り落としたナイフをそっと拾い上げた。
「こんな危ない物を持ちよって。一体どこから持ってきたんじゃ?」
「ダメだ、シエラくん……それを持っちゃ……!」
「なんじゃ、このナイフがどうかした――」
虚空をボーッと見つめた後、シエラはにやりと笑う。
「これで四人目……!」
「ああっ、シエラまで……!」
壊滅寸前のユウキたちを見渡した後、シエラはゆっくりと宿屋の方へ向かっていく。
「あとはアケビとかいう男をやるだけだ。お前たちはそこで静かに休んでな」
そのとき、宿屋の扉を開けてアケビが外へ出てきた。
「どうしたんだ、お前ら。全然帰ってこないから心配したぞ……っ!?」
広がる惨状を目の当たりにして、アケビは絶句した。それを見つけたシエラは、ナイフをその背に隠し、アケビに駆け寄る。
「アケビ! 助けてくれ! わしら、殺し屋にやられたんじゃ!」
「殺し屋に!? そいつはどこにいるんだ!?」
「それはな……」
シエラは瞬時にナイフを掲げ、アケビの首元に突き立てた。しかし、〈硬化〉された手がそれを遮って押しとどめる。
「な、なぜ分かった……!?」
「シエラは『わし』なんて言わねぇんだよ」
「くそっ……! 面倒くせぇ一人称使いやがって……!」
アケビはもう片方の手でシエラの手を掴むと、強引にナイフを取り上げた。がくんとよろけたシエラは、目をパチクリと瞬く。
「あっ……!」
タオファに指を差されたアケビは、きょとんとした顔で彼女を見返した。
「ん? どうした?」
「あ、あり? そのナイフを持つと、意識を乗っ取られるはずなんだけんどもな」
「ああ、頭の中に声が響いてくる。こいつのことか」
アケビは自分の頭を指差した。どうやらナイフの声は彼にも聞こえているらしい。
「あっ、そうじゃ。アケビには〈精神防護〉があるじゃろ? そのおかげで平気なんじゃないかのう」
「そういうことか。アケビまで乗っ取られたらどうしようかと思ったぞ」
「そしたら、今ごろパーティ壊滅してたかもな」
アケビはシエラから鞘を受け取って納めると、そのナイフを懐にしまった。
「こいつはあとで俺が処分する。それより、まずはお前らの手当てだ」
「そうだった。めちゃくちゃ痛てぇぞ……」
「妾が医者を呼んでくる。アケビは応急処置を」
「分かった。頼んだぞ」
アケビの活躍によって、ビヨンド最大の危機はなんとか回避することができた。
もっとも、彼らが受けた打撃は大きく、その後は療養のため、ダーニッケに一週間の滞在を余儀なくされることになった。




